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不倫判例百選60内縁はどんな場合に成立するのか?

0 はじめに

内縁関係に関しては、不倫判例百選も何度か扱ってきました。

不貞行為概念になる、ならないは、結婚しているかどうかにかかわります。

しかし、単なる婚姻届を出しているかどうかだけで割り切れないのが家族問題でしょう。裁判の現場でも、当然、そうであることは何度か扱ってきたとおりです。

では、内縁関係は具体的にどんな場合に成立するのか。私たちは内縁関係にある、なんて約束することは稀でしょうから、検討する価値があるはずです。

1 事実関係の整理と当事者の主張

東京地方裁判所において平成30年2月22日に出された裁判例は、内縁関係の成否について、具体的な婚姻の日取りが決まっていたのか、住民票の記載がどうなっていたのか、などの要素をあげています。

前提事実(当事者間に争いのない事実並びに事実の後に記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
 (1) 原告とAとは,平成26年4月15日,結婚した。(甲14,原告本人)
 (2) 被告は,平成24年3月頃から少なくとも平成26年2月頃までの間,Aと交際し,肉体関係を持っていた。なお,被告には,Aとの交際当時,妻子があった。(乙5,被告本人,争いがない)
 (3) Aは,平成27年1月21日以降原告と別居し,同年3月4日,原告に対し,離婚を求める調停を申し立てた。(争いがない)

この件は、原告(男)は、Aと2年以上付き合っており、その後Aと結婚したものの、1年後Aと離婚しました。一方、被告(男)は結婚していたにも関わらず、原告(男)と付き合っていた時から、Aと肉体関係にありました。

つまり、原告(男)は、Aと離婚後に、被告(男)に対して、Aと自分は結婚する前から付き合っており内縁関係にあったため、その間の関係は不倫になる、と主張しました。

争点 (1) 被告とAとの交際期間中又はその前に,原告とAとの間で内縁関係又は婚約が成立していたか【他の争点に関しては省略します】
原告の主張 原告とAとは,平成23年7月以降,東京都世田谷区東松原所在のマンション(以下「東松原のマンション」という。)において同棲生活を送るようになり,平成25年7月には,東京都中野区南台の住宅(以下「○○ハウス」という。)に転居して同棲生活を継続しており,原告とAとは,内縁関係にあった。
また,原告とAとは,平成23年11月には,正式に婚約していた。被告は,Aが男性と婚約していること,あるいは内縁関係にあることを知りながら,平成24年3月頃,Aを強引に誘惑し,性的に支配下におき,その後も同年4月から平成26年2月までの間,合計50回以上肉体関係を継続した。

原告は同棲生活をもって、内縁関係が成立していたのだと主張しています。

被告の主張
 ア 原告とAとの間で婚約又は内縁関係が成立していたことは知らない。原告は,平成24年4月頃には既にAと内縁関係にあったと主張するが,同棲していたことすら疑わしく,また,長期間同棲していたとしてもそのことだけで内縁関係が成立するものではない。
 イ 被告が,原告とAとが内縁関係にあることを知りながら,Aを強引に誘惑し,性的に支配下においた旨の主張は否認する。なお,被告は,Aが居住していた○○ハウス内に2回入ったことがあるが,男性の存在を感じるものはなかった。

被告は、同棲していたことも疑わしいと反論していますが、もし、裁判所が、同棲があると判断された場合に、これが内縁関係として法的保護に値すると判断されるかどうかが問題です。

2 裁判所の判断

 2 争点(1)(被告とAとの交際期間中又はその前に,原告とAとの間で内縁関係又は婚約が成立していたか。また,内縁関係があり,又は婚約が成立していた場合に,被告がそのことを認識していたか。)について
  (1) 婚約又は内縁関係の成否について
 原告は,平成23年頃にはAと同棲を開始し,かつ婚約したと主張し,同年7月頃以降Aと同居し,同年11月頃,親族と食事会を開催して婚約披露をし,Aにネックレスをプレゼントした旨の原告の供述が存在する(原告本人)。しかし,これらの事実を裏付ける客観証拠は存在しない。かえって,原告の主張するところによれば,原告とAとは,同年11月には婚約したとしながら,そこから2年5か月が経過した平成26年4月15日になって入籍していること,証拠(乙1,原告本人・11頁)によれば,被告とAとの関係が原告に判明したという同年2月の時点においてすら,具体的な婚姻の日取りは決まっていなかったこと,原告は平成20年5月以降東京都豊島区内に住民票があり,Aは原告と結婚するまでの間,茨城県内に住民票があったことが認められ,これらの事実に照らすと,法的保護に値するような婚約又は同棲の状況があったとは認め難い【以下省略】

3 若干の疑問

裁判所は、具体的な婚姻の日取りが決まっていなかった、と指摘しています。

この判示を前提とすると、内縁概念は、ある意味、将来の婚姻関係形勢を前提とするような概念になりかねないと思います。つまり、婚姻前の付き合いは、内縁関係の成熟度で、不倫かそうではないかを判断しているかのように捉えられます。

内縁を定義すれば、「婚姻の実体を有する男女間の関係であり、婚姻の届け出を欠くために、法律上の婚姻が成立していないもの」窪田充見『家族法』135頁(有斐閣,第4版,2019)の定義を前提としています。

内縁関係の成熟度で、不倫に該当するかどうかだけを判断にするとk、婚姻の届け出をしたくない、あえて同棲を選ぶ価値観を否定しかねないことになってしまうのではないか?法律婚を強制することはできないのではないか?と考えます。

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