見出し画像

不倫裁判百選89回数が少なくても悪質な交際なのか

0 はじめに

悪質な交際、とは、裁判所はどのようなものを想定しているのか、不倫裁判百選ではその境界線を探ってきました。

裁判所が悪質と考える基準は、配偶者が異論を唱えても継続していることを一要素としている裁判例をご紹介いたします。

上記57番事例との違いは、結果を重視していないことです。

1 事案の概要と当事者の主張

東京地方裁判所において平成27年3月27日に出された裁判例は、不貞回数が少ないと指摘しつつも悪質であると評価を下し、200万円の支払いを認容しています。

‥(中略)‥(2)被告とCのホテル入室 被告は,次の年月日に,Cと二人で,ホテルの部屋に入室した。
年月日      ホテル名
H25/7/20 グランパシフィック LE DAIBA
         (以下「本件ホテル1」という。)
H26/3/15 HOTEL LUXE EBISU
(以下「本件ホテル2」という。なお,本件ホテル2はいわゆるラブホテルである。)
 本件の主要な争点は,〔1〕 不貞行為の有無(争点1),〔2〕 原告の損害の有無及び程度(争点2)である。

争点1(不貞行為の有無)について
(原告の主張)

 被告とCは,少なくとも,平成25年7月20日に本件ホテル1において,平成26年3月15日に本件ホテル2において不貞行為をし,継続的に不貞行為をしていた。
(被告の主張)
 被告は,Cとの間で不貞行為をしていない。
 被告がCと二人で本件ホテル1及び本件ホテル2の部屋に滞在したことは認めるが,友人関係の延長として,軽食を食べたり,話をしたりして過ごしたに過ぎない‥(以下略)‥

3 争点に対する判断

不貞行為の回数が少ないと指摘するも、200万円の高額を認容する理由はどこにあるのか?

(1)Cは,平成21年4月頃,被告が担当していた地区の調剤薬局にアルバイトとして勤務しており,その頃,業務を通じて被告と知合い,その後懇意な関係になった。(乙5,被告本人,弁論の全趣旨)
(2)‥(前略)‥被告とCの間のメールの内容は,概ね,恋人同士が肉体関係の余韻を楽しんだり,互いに対する思いを述べたりする類いのものであり,一緒に出かけることが原告に知られないようアリバイ工作をする話もあった。(甲6ないし9,原告本人,被告本人)‥(省略)‥
(5)ア 同年7月においても,被告とCは連絡を取っており,同月15日,被告は,Cに対し,本件ホテル1の部屋とともに,本件ホテル1のダイニングバーから見える夜景が素晴らしいので席を予約してある旨をメールで連絡し,これに対し,Cは,「夜景みたらまたおさまりつかなくなるね」と返信した。(甲7,8)
イ 同月20日,被告とCは,午後7時頃にCの自宅近辺で落ち合うと,そのままタクシーで本件ホテル1に行って被告が予約していた本件ホテル1の部屋に入室し,翌日午前2時30分過ぎ頃まで,上記の部屋において二人で過ごした。(甲2,乙5,被告本人,弁論の全趣旨)‥(中略)‥ 
 

争点1(不貞行為の有無)について
(1)上記1の認定事実によれば,被告は,Cが既婚女性であることを知りながら,〔1〕Cとの間で恋人同士のように見える内容のメールを続け,〔2〕Cと二人だけで食事をし,〔3〕本件ホテル1においてCと二人だけで真夜中まで長時間にわたって滞在し,〔4〕その後,原告からCと会うことを禁じられたにもかかわらず,いわゆるラブホテルである本件ホテル2において約2時間半の間滞在し,〔5〕原告訴訟代理人弁護士らからの慰謝料請求に対し,当初,Cとの不貞行為があったことを前提とする回答をしたことが認められる。
(2)ア 被告は,上記(1)〔1〕及び〔2〕について,Cが取引先調剤薬局で薬剤の購入決定に事実上影響力を持つ薬剤師であり,上記調剤薬局との取引において優遇してもらうにはCと懇意になる必要があったから,上記調剤薬局の担当から異動した後も,Cと個人的に連絡を取り,Cの希望に沿うよう,恋人関係にはなかったが恋人同士がするようなメールをしたり,一緒に食事をしたりしてきた旨を供述しており,同趣旨の陳述書(乙5)やCのメールによる陳述(乙6,7)もある。
 しかし,Cは,上記調剤薬局のアルバイトの薬剤師に過ぎなかったというのであるから,上記調剤薬局での取引において優遇してもらうのに,Cと懇意になる必要性があって上記(1)〔1〕及び〔2〕の行為をしたというのは,不合理といわざるを得ない。
 仮に,Cが上記調剤薬局での仕事に慣れており,事実上,役職のある薬剤師に対する発言力が強かったとしても、上記(1)〔1〕及び〔2〕の行為は,被告の妻や原告を含む第三者からみれば,不貞行為をしているように見える行為といえるのであるし,被告とCは原告の目を盗むためのアリバイ工作をする相談までしていたというのであるから,上記調剤薬局との取引で優遇してもらうという目的で,既婚男性である被告が,原告の目を盗んでまで上記(1)〔1〕及び〔2〕のような行為をすることは考え難い。
 よって,被告の上記(1)〔1〕及び〔2〕に関する上記の被告の供述,被告の陳述及びCの陳述は,にわかに信用することができない。 
イ また,被告は,上記(1)〔3〕の本件ホテル1に行ったことについては,上記アに記載した業務上の目的や友人関係の延長として,きれいな夜景の見えるところで食事をしたいというCの希望に沿うよう,被告がCに対して本件ホテル1のレストラン・バーで食事をすることを提案して本件ホテル1を予約したこと,上記レストラン・バーの予約が取れないことが当日に判明したので,本件ホテル1の部屋に酒や軽食を被告が持ち込み,Cと二人で飲食をしながら,Cの夫婦関係の愚痴等を聞いて過ごしたことを供述しており,同趣旨の陳述書(乙5)やCのメールによる陳述(乙6,7)もある。
 しかし,上記業務上の目的については,上記アで説示したとおり,それを目的としてCと二人きりで会うこと自体,不合理である。
 また,既婚者同士の男女がホテルの一室を予約してそこで二人きりで真夜中まで長時間過ごすというのは,たとえ懇意な間柄であり,Cが通常の女性よりも相当奔放な行動をとる傾向にあるとしても,友人関係の既婚者同士の男女がする行為とは思えず,むしろ,そこで肉体関係を持ったと認めるのが合理的かつ自然である‥(中略)‥

〔2〕 原告が被告とCの調査に合計168万円の費用をかけたことが認められ(調査費用は,後記(3)のとおり,上記認定の不貞行為と相当因果関係のある損害とは認められないが,調査費用を支出したことは慰謝料算定にあたって考慮するべき事情と解される。),これら〔1〕及び〔2〕の事情に加えて,〔3〕 上記第2の1において認定した原告とCの婚姻期間が短いとはいえないこと,〔4〕 原告とCとの間に年少の子を含む未成年の子が3名いること,〔5〕 被告が,原告からCと会うことを禁じられてもなおCと不貞行為をしており,悪質といわざるを得ないことに鑑みると,上記認定の不貞行為の回数が多くはないことを考慮しても,これにより原告の被った精神的苦痛を慰謝すべき金額は,200万円とするのが相当である。

4 若干の検討

判決文は、被告が,原告からCと会うことを禁じられてもなおCと不貞行為をしており,悪質といわざるを得ないと指摘しているのは,配偶者の認識や抗議を重視しているといえるように思われます。

もちろん、お子さんが3名いること、婚姻期間が短いとはいえないことも考慮に入れていますが、明確に配偶者からの禁止要請とその無視は一つの重要な要素といえるように思われます。配偶者側が受けたダメージの大きさを考慮するより、直接的に配偶者の態度が明らかになるものですから、正当な考慮要素であるとは思いますが、裁判までする勇気や決意がない人もいて、その人たちは、自分の配偶者にやめてほしいと言い出すことができない人も、いるのではないか‥?と思ったりします。ただ、回数の問題ではないと明確に指摘できそうです。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?