見出し画像

不倫判例百選64内縁のゴール?内縁解消でも損害賠償はできる

0 はじめに

内縁のゴールは、婚姻がすべてではないはずだと持論を展開しました。

内縁のゴールは、破綻なのか。それとも婚姻以外の幸せなのか?婚姻によらなくても、幸せはあるだろうし、破綻もあるでしょう。

1 事案の概要

東京地方裁判所において平成25年6月13日に出された裁判例は、破綻の責任は原告にあることを認め、結論としては、被告に200万円の賠償義務を認めています。

(1) 原告と被告との交際開始当時の状況 
ア 原告は,昭和44年○月○日生の女性であり,被告は,昭和41年○月○日生の男性である。
 (甲1,甲2)
イ 被告は,平成6年5月当時,株式会社aに勤務していたところ,そのころ,顧客であった原告と知り合い,その後間もなく交際を始めた。‥(中略)‥

(2) 原告と被告との同居生活の状況
ア 原告と被告は,平成12年,同居生活を始めることとして,東京都杉並区和田の賃貸マンション(以下「和田マンション」という。)に転居した。
イ 被告は,平成13年4月ころ,それまで勤務していた株式会社aを退職した。
ウ 被告は,その後,原告の勧めもあって,インターネットビジネススクールに通学し,その卒業後,「b」の屋号で,和田マンションにおいてロゴマークやホームページの作成業務を開始した。原告は,被告の業務を手伝うことがあった。
エ 原告と被告は,平成16年3月ころ,東京都江東区亀戸の賃貸マンション(以下「亀戸マンション」という。)に転居した。
 原告は,その際,収入の不安定であった被告に代わって賃貸借契約を締結し,原告の父が,その連帯保証人となった。なお,原告は,亀戸マンションの入居審査申込書の作成に当たり,被告を「婚約者」と記載した。
 (甲4,9)
オ 原告は,平成17年ころ,子宮筋腫の手術を受けた。被告は,入院先の病院に原告を見舞ったり,原告と共に医師から手術の説明を受けたりした。
カ 被告は,平成17年ころ,派遣会社に登録し,平成18年8月,有限会社cに正社員として雇用され(以下,同社を「勤務先会社」という。),その後,同社においてシステムエンジニアとして勤務している。

(3) 原告と被告の別居,交際関係の解消
ア 原告は,平成23年7月,亀戸マンションの居室の掃除をしていた際に,風俗店(性風俗関連特殊営業に関する店舗をいう。以下同じ)が顧客に交付しているアンケート用紙を発見した。原告は,被告に対し,上記アンケート用紙が居室内にあった理由を尋ねたところ,被告は,会社の同僚のいたずらであると説明した。(甲19,弁論の全趣旨)
 イ 原告は,被告の言動に不信感を抱き,平成23年7月23日ころ,被告が就寝している間に,被告の所持する携帯電話のメールの履歴を見た。そこには,不特定多数の女性とのメールのやり取りが残っていた。原告は,被告の上記行為に不快感を覚え,被告に対し,亀戸マンションから出て行くことを求めた。被告は,同日,原告の求めに応じて亀戸マンションを出て,約1週間,外泊した。(甲19,22の1から11まで,乙1)
ウ 原告は,被告が亀戸マンションを出て外泊していた間,被告の所有するパソコンのデータを調査し,不特定多数の女性の姿,及び下着の一部等を露出した女性を撮影した画像(動画)のデータがあるのを発見した。
 原告は,上記画像(動画)について,被告による盗撮が行われた結果であると考え,被告の母にその旨相談した上,平成23年8月5日,城東警察署に通報した。(甲19,23の1から14まで,乙1)
エ 被告は,平成23年8月5日,亀戸マンションを退去して原告と別居し,これによって,原告と被告の交際は終了した‥(以下略)‥

実態をみると、たまたま婚姻届が出されていない交際関係にあったことがよくわかります。これが離婚であれば不貞行為を原因として慰謝料請求は可能でしょう。

本件のような内縁でも、それは可能でしょうか。

2 争点及びこれに関する各当事者の主張

 (1) 原告との交際の解消に係る被告の違法行為及び損害賠償義務の有無 〔原告の主張〕
 ア 原告と被告とは内縁関係にあった
 原告と被告は,平成12年から平成23年8月まで,約11年もの間,共同生活を継続していたところ,このような生活実態から,原告と被告との間に客観的な婚姻意思が認められる。加えて,原告と被告との間には,内縁関係の存在を裏付ける次の事情があった。
 (ア) 被告は,原告と交際を開始した平成6年,7年ころから,ほとんど毎日,原告が賃貸していたマンションに宿泊していた。原告と被告は,平成12年,いずれ結婚することを前提として,和田マンションへの転居を決めた。
 (イ) 原告と被告は,それぞれの両親等の家族に対し,互いを結婚相手として紹介し,平成20年ころには,各自の親族の間においても夫婦として認識されていた。また,被告は,勤務先会社に対し,原告を婚約者として記載した書類を提出したことがあった‥(中略)‥
 (キ) 原告は,子がほしかったので,早く被告と結婚したかった。被告は,借金を抱えていたため,原告に対し,その返済を終えるまで待ってほしいと言っていたが,原告との婚姻を希望していた。

イ 被告の違法行為による内縁関係の破綻
 (ア)内縁関係にある男女は,相互に貞操義務を負っているというべきである。
 (イ)被告は,盗撮という犯罪行為によって,わいせつな写真や動画を収集していた。被告は,原告が子をほしがっていることを知りながら,原告との性交渉を避け,他の女性と性的行為を行っただけでなく,上記の行為をしていた。被告の性的な指向,異常ともいえる性癖は,男女の精神的・肉体的な結合を重要な要素とする婚姻生活,これに準ずる内縁生活において,その正常な結合を妨げる事情である。被告の行為は,内縁関係を継続しがたい重大な事由に該当する(民法770条1項5号類推)。

内縁の裁判例ではありますが、男女の精神的・肉体的結合を重要な要素とする婚姻生活、これに準ずる内縁生活、と原告は位置づけています。

被告の主張 
ア 原告と被告とが内縁関係にあったことは否認する。被告は,平成12年から平成23年8月まで,原告と同居していたが,原告も被告も婚姻意思を有していなかったし,社会的に夫婦として認知されたこともなかった
(ア) 原告と被告は,平成12年,主として双方の経済的理由によって同居を開始したが,それは婚姻を前提にしたものではなかった。
(イ) 被告は,原告から,原告の両親に対して婚約者であると紹介されたことはなく,原告を被告の家族に対して婚約者と紹介したこともない。原告と被告が,互いの親族の通夜や葬儀に出席したことはあるが,夫婦として認識されたことはなかった。もっとも,原告が被告の知らないところで,被告を婚約者あるいは配偶者として紹介した可能性はある‥(中略)‥
(キ) 原告と被告は,同居開始後も結納,挙式等の婚姻儀礼行為を一切行っていない。また,原告と被告は,平成16年ころから,性交渉を一切持っていない。‥(以下省略)‥

同居は認めていますが、結納や挙式などの形式的な婚姻儀礼行為の不存在、性交渉の不存在を主な理由として、内縁関係を否認しています。

3 裁判所の判断

原告と被告の交際開始後の関係について,次のとおり認められる。
 ア 原告と被告は,平成12年3月ころから平成23年8月5日ころまで,11年以上もの間にわたって生活を共にし,その間,各自の収入は,それぞれ独自に管理していたものの,和田マンションや亀戸マンションの賃料,食材その他日用品の購入費用等,共同生活に係る費用の支出については,それぞれ負担し合っていた。また,被告は,株式会社aを退職したころには,精神的にも経済的にも原告の支援を受けていた。
 イ 原告と被告は,交際開始後,互いの両親を紹介した。原告は,被告の実家に宿泊したこともあり,原告の両親は,遅くとも亀戸マンションの賃貸借契約締結時までには,被告について,原告の婚約者であると認識していた。また,原告は,平成15年に被告の父の葬儀が行われた際に被告の親族として葬儀を手伝い,被告は,平成20年に原告の父の葬儀が行われた際に原告の親族として葬儀に参列し,そのころまでには,双方の親族において,原告と被告が婚姻を予定して生活を共にしていると認識していた‥(中略)‥

 以上の事実に照らせば,原告と被告は,平成12年3月以後,近い将来に正式に婚姻関係に至ることを予定して性的関係を含む共同生活を営む関係にあったと認められ,このような関係は,客観的には平成23年8月5日まで継続していたということができる。この間,原告と被告は,婚姻届出という形式を欠くものの,実質的には相互の信頼関係に基づいて精神的,肉体的,経済的な結合関係を形成していたといえるから,内縁関係ないし婚姻関係に準ずる関係にあったというべきである。なお,被告は,原告と被告が結納,挙式などの婚姻儀礼行為を一切行っていないと主張するが,このような事実は上記の認定を左右しない。

裁判所は、婚姻届出=形式、相互の信頼関係に基づく精神的・肉体的・経済的結合関係をもって、内縁ないし婚姻関係に準ずる関係にあったと認定しています。この意味では、婚姻届けという形式的な要素に拘泥しない判断をしています。

‥(中略)‥被告は,平成16年ころから,原告と性交渉のなかったことを主張する。しかし,男女間の性交渉の有無は,婚姻関係に準ずる共同生活の一要素となり得るものではあるが,その有無は当事者のその時々の身体的・精神的な状況に影響されることもあり,性交渉がなくなったという一事をもって,直ちに婚姻関係に準ずる関係が解消されたと判断することはできない。
  (3) 原告と被告との間の内縁関係ないし婚姻関係に準ずる関係の解消に至る経緯は,前記第2の1(前提となる事実)(3)アからエまでのとおりであり,原告は,平成23年7月23日までに,被告が,風俗店を利用したり,複数の女性と携帯電話でメールのやり取りをしたりしていたことを知り,さらに,同年8月5日までに,被告が,下着が露出している女性を本人の許可なく撮影(盗撮)したり,これと同種の画像のデータをパソコンに保存したりしていることを知って,被告に対する信頼を失い,婚姻に向けた共同生活を維持することができなくなったことにあると認められる。
 被告の上記行為は個人の(性的な)指向の問題ともいえるが,他面,被告は,風俗店の利用や下着が露出している女性を盗撮することなど,原告が嫌悪することを,原告との内縁ないし婚姻関係に準ずる共同生活を継続している間に行い,これによって原告の被告に対する信頼を失わせた上,積極的に信頼の回復に向けた努力をしたことをうかがわせる事情も見当たらない。被告は,原告との内縁ないし婚姻関係に準ずる関係を解消させ,これによって原告の被告との婚姻に向けた期待を害したというべきであるから,原告に対する不法行為責任は免れないと言わざるを得ない。

裁判所は、性行為の不存在一時をもって婚姻関係に準ずる関係や内縁関係がないと判断することができないと指摘し、精神・肉体・経済的結合の要素のうちどれを重視するとも考えていないようです。

4 若干の疑問

内縁関係の結合を、精神・肉体・経済的結合であると理解する点においては、婚姻関係と相違はありません。

ただ、裁判所は、双方の親族の認識や儀礼の有無などを重視している判断であるようにも読めてしまいます。

婚姻関係では、これら儀式がなくても、婚姻届を提出する行為を介在させていればよく、これら形式的な儀礼的行為に言及すらしないはずです。

内縁関係こそ、これら形式的儀礼にこだわる必要はないのではないでしょうか?もちろん判決文も、これらがある本件では内縁関係がある、と積極的に認めるために用いていることはわかりますが、精神・肉体・経済的結合の有無を判断すればよいだけであって、親の認識や儀礼の有無などは無関係ではないでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?