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不倫裁判百選66当初,独身であると偽りその後も既婚者であることを知らせなかった

0 はじめに

裁判所に、何ら実りの得られない不毛な関係というべきとまで指摘された裁判例をご紹介いたします。

婚姻に至ることがすべてではないはずですが、どんなきっかけで、不毛な関係を継続したとまで判断されたのか?

1 事案の概要

東京地方裁判所において平成22年1月14日に出された裁判例は、既婚を秘匿し続ける不法行為の成立を認めています。

(1) 原告は,昭和○年○月生の独身女性である。被告は,昭和○年○月生で,昭和55年に婚姻届出した妻との間に男子(昭和○年生)のある既婚男性である。
(2) 原告と被告は,平成12年12月23日,東京都港区竹芝所在のクラブ「Two Face」で知り合った。
(3) 原告と被告は,平成13年1月ころ,交際を開始した。その後,情交関係を持つに至った。

上記のような事例ですが、その後、婚約の破棄をしたことだけではなく、既婚者であることを秘匿し続けたことに対する不法行為責任の成立が主張されています。

2 当事者の主張

原告の主張
 (ア) 被告は,原告と知り合った際,昭和○年生の既婚者であるにもかかわらず,昭和△年生の独身者であると偽り,積極的に原告に近づき交際を求めた。
 (イ) 被告は,原告と婚姻できないにもかかわらず,真実を語らないまま言を左右にして引き延ばし,あたかも被告との婚姻が可能であると信じさせた。これにより原告は情緒不安定となり,抑うつ状態が悪化した。

不倫判例百選でご紹介する典型例でもいえましょうか。

被告の主張
 (ア) 被告には原告に対する権利侵害行為はない。
 (イ) 被告は,原告と知り合った際,酒の席で,あくまで冗談めかして,年齢は38歳位で独身であると述べたに過ぎず,原告との交際を目的として騙そうとしたものではない。原告は,被告と出会ったころ,大手人材派遣会社の社長と不倫していたが別れたばかりであること,大学を卒業したばかりの恋人がいることを被告に告げた。

イメージ、冗談で言ったのだから騙していない、原告自身も、被告以外と交際をしていたのだから、婚姻生活を誠実にするつもりはないのだろう、といったところでしょうか。

3 裁判所の判断

(1) 原告と被告は,平成13年1月ころ交際を始め,交際中の当初2年間は,少なくとも月に2,3回程度は外食をしたり,週末には旅行に出かけたりしており(甲7,枝番を含む。),被告マンションをラブホテル代わりとして性交渉を持つなどしていた。しかし,被告は,原告との交際中,原告に対して婚姻を求めることはしなかった。
(2) 原告は,被告マンションに出入りして被告とともに過ごすこともあったが,原告マンションを維持しており,被告が平成15年から平成19年2月にかけて原告マンションの家賃を負担した。
(3) 被告は,千葉県市川市において,妻子らとともに居住しており,その経営する会社の代表取締役として平日の日中は会議に出席するなどスケジュールが詰まっており(乙11の1~7),原告と被告マンションでゆっくり過ごす余裕はなかった。また,被告は原告マンションを訪れることもなかった。‥(中略)‥原告は,被告と知り合った平成12年12月当時,銀座の高級クラブ「ピロポ」で日給制のホステスとして稼働しており,1歳年下の男性と交際していたが,被告と交際を始めて平成13年春ころ肉体関係を持つようになって,平成14年12月にはホステスを辞め(乙10),上記男性との交際も止めた。その後,原告は,趣味のフラワーアレンジメントを仕事とするべく活動したが確実な収入を得るには至っていない。
(6) 被告は,原告と知り合った当時,実際には昭和○年○月○日生であるにもかかわらず(甲6),昭和△年△月△日生であると告げ,その後も原告に対して訂正することはなかった。そのため,原告は,△月△日の前後には,被告の誕生日祝いをした(甲7の15~17,43~50)。
(7) 被告は,平成13年12月10日,その経営する会社名義で港区六本木3丁目に宅地を購入し(甲1),3階建ての建物の図面(甲2の1・2。以下「本件図面」という。)を作成させ,本件図面を被告に交付した。本件図面の建物は,1階に和室や居間,2階にファミリールームや主寝室を備えるものである(甲2の1)。
(8) 原告は,被告との交際を止めた後,被告には妻子があり,年齢も偽っていたことを知った‥(中略)‥

3 争点(2)(不法行為の成否)について
(1) 被告は,原告と知り合った際,実際より16歳ほど若く年齢を偽り,既婚者であるのに独身者であると偽っている。そして,原告は,被告との交際を止めた後,被告が既婚者であることや実際の年齢を知ったものであり,それ以前に,かかる事実を原告が知ったことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告は,原告と被告の関係はホステスとパトロンの割り切った交際であった旨を主張する。なるほど,原告は被告と知り合った当時はホステスとして稼働しており,食事や旅行に誘われて被告に同行したり,被告は原告マンションの家賃等の負担をしており,他に多数の宝飾品等を受け取るなど相当な経済的な利益を享受しているものといえる。
しかしながら,原告は,被告と交際を開始した際には同年代の恋人があったところ,被告と交際を始めた後に別れたものであり,また,被告は,原告が大手人材派遣会社の社長と不倫関係にあったと主張するが,妻子があることを同社長が隠していたことを原告が知って別れたとも被告は供述していることに照らせば,被告が既婚者であることを知ったならば原告は被告と交際を止めた可能性が高いことを被告は知っていたものというべきであり,少なくとも,被告は原告に対して既婚者であることを告げたりしていないのであるから,既婚者である被告との性交渉も含めた交際を継続してきたことは,結婚を前提とした交際とは異なり,何ら実りの得られない不毛な関係というべきであって,一面に経済的な利益を享受していたとしても,被告の行為(当初,独身であると偽り,その後も既婚者であることを知らせなかった行為)により,原告が被った精神的な苦痛は,法的保護の対象とすべき利益の侵害と評価することができ,被告には不法行為が成立するものというべきである。

4 若干の疑問

本件では、250万円の慰謝料を認容しています。

判決文のうち、原告・被告らは、原告が、独身であると当初偽り、その後も既婚者であることを知らせなかった行為を起点としています。

そうすると、どこかで、真実の告知義務があったのか?とも思わせます。既婚者である被告との性交渉も含めた交際を継続してきたことは,結婚を前提とした交際とは異なり,何ら実りの得られない不毛な関係というのはいいすぎではないでしょうか。

もしかしたら、原告も、不倫であることを認識していなくても、不毛?な関係をつづけたのではないか?当初うそをつく行為をもって、不毛な関係の継続を強いられたとみるのは、無理がないか?と思わずにはいられないのです。

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