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不倫裁判百選67不貞行為1回110万円


0 はじめに

不貞行為1回が110万円の支払いに結びついたら、高いと感じるか、安いと感じるのか。

本件では、他にも周辺事情を認定しつつ、宿泊を伴う明確な不貞行為は一回であると指摘したうえで110万円の支払いを命じています。

1 事案の概要

東京地方裁判所において平成30年 1月31日に出された裁判例は、1回の不貞行為を認定したうえで、110万円の支払いを命じています。

おなじみ?上司と部下の関係にあります。

(1) 原告及び訴外A(以下「A」という。)は,昭和54年2月に婚姻の届出をし,同年○月に長女を,昭和60年○月に次女をもうけたが,平成28年2月15日に離婚した。(争いがない。)
 Aは,訴外株式会社a(以下「本件会社」という。)に勤務していた,60代の男性である。(争いがない。)
(2) 被告(平成元年生まれ)は,平成25年4月から本件会社に勤務する20代の独身女性である。被告とAは,同月から1年間,上司と部下という関係であった。(乙1)

2 争点及びこれに対する当事者の主張

まっこうから、不貞行為があったのか?が争点になっています。 

(1) 被告とAとの間に不貞行為があったか。(争点1)

原告の主張 

被告は,Aが既婚者であることを認識しながら,遅くとも平成27年8月頃から,Aと一緒に喫茶店やカラオケ店で頻繁に密会をするようになり,カラオケ店の個室内でキスをしたりAが被告の胸を触ったりする性的行為をするなど,そのころからいわゆる不倫関係を有するようになった。
 平成27年10月12日から13日にかけて,被告及びAは,被告が有給休暇を取る一方で,Aが仮病を使って会社を休み,原告に隠れて2人で鎌倉に行き,神奈川県藤沢市内の「ホテル法華クラブ湘南・藤沢」(以下「本件ホテル」という。)に宿泊し,不貞行為に及んだ。


被告の主張 
被告がAを既婚者であると認識しつつ,喫茶店やカラオケ店で会ったこと,Aから一方的に数回キスをされたこと,Aと平成27年10月12日に鎌倉に行き,ビジネスホテルである本件ホテルに2部屋とって,それぞれの部屋で宿泊したことは認めるが,その余の事実は不知ないし否認する。
 被告は,主に仕事に関する相談のためにAと会っていたのであり,Aを異性として意識したり,恋愛感情を抱いたりしたことはなく,不貞行為には及んでいない。

3 裁判所の判断

(1) 平成27年4月,本件会社において花見のイベントが行われた際に,被告がAに仕事の愚痴などを聞いてもらったことがあった。(甲13,乙1)
 (2) 平成27年7月頃から,被告は,仕事帰りに喫茶店でAと2人きりで会い,仕事に関する愚痴や転職の相談などをするようになった。その後,被告及びAは,休日も含め,週に2,3回のペースで2人きりで会うようになった。(甲7,8,13,乙1,被告本人2頁)
 (3) 平成27年8月頃,被告とAは3回ほどカラオケ店に行ったことがあったが,カラオケ店の個室の中で,Aが被告の尻に触ったり,口にキスをしたりしたことがあった。二人は徐々に親密になり,被告がAを「Aちゃん」,Aが被告を「Yちゃん」とニックネームで呼び合ったり,敬語を使わずにいわゆる「タメ口」で話す関係になった。(甲4,乙1,被告本人3,8頁,弁論の全趣旨)
  (4) その後,Aは被告を繰り返し旅行に誘い,被告がこれに応じたことから,二人は10月12日から鎌倉へ一泊旅行に行くことになった。Aは,原告に対し,鎌倉旅行に行くことを秘し,徳島に出張に行くことになったなどと虚偽の説明をし,同月10日,原告に対する土産用に,あらかじめ徳島県の特産品を扱う店舗において生うどんなどを購入しておいた。(甲10,13,乙1,原告本人5~6頁)
  (5) 平成27年10月12日,被告とAは,鎌倉へ一泊旅行に出かけた。被告は,この旅行のために,有給休暇を取得した。旅行中,Aは被告と手をつないだり,被告にキスをするなどしたほか,被告の背中に手を回し,顔や体を密着させた状態で写真を撮影するなどし,被告もこれに笑顔で応じていた。同日夜,被告とAは,本件ホテルの隣同士の部屋を2部屋とり,宿泊した。(甲2,9,甲13,原告本人10頁,被告本人11~12頁,弁論の全趣旨)
  (6) 平成27年10月26日,原告がAの財布の中から本件ホテルの領収証を発見し,Aを問い詰めたところ,Aは被告と一緒に鎌倉へ一泊旅行に出かけていたことを告白した。(甲14,原告本人1,6,13~14頁)‥(以下略)‥
2 争点1(被告とAとの間に不貞行為があったか)について

 被告は,被告とAとの間には不貞行為がなかったと主張し,被告(乙1)及びAの供述内容(甲13,原告本人10,14頁)には,これに沿う部分がある。
 もっとも,被告及びAには,自己の責任を軽くするため,不貞関係の有無について虚偽の供述をする強い動機があることから,2人の供述の信用性はそもそも高くはない。そして,前記1で認定したとおり,被告とAは,鎌倉への旅行の前に,お互いをニックネームで呼び合い,尻を触ったり口にキスをしたりするなどの性的な接触を行う関係になっていたことや,鎌倉への旅行が原告に発覚した後の被告とAとの電話での会話の中で,Aが被告との間に不貞行為があったことを推認させる内容の発言をしていること,東京から鎌倉までは日帰りで旅行することが十分に可能な距離であるところ,被告はわざわざ有給休暇を取得し,Aと本件ホテルに宿泊していることなどの事情からすれば,被告とAは,鎌倉への旅行の際に不貞行為に及んだと認めるのが相当である。

 以上によれば,被告は,Aが既婚者であることを認識しつつ,平成27年7月頃から同年10月頃まで,性的な接触を伴う親密な交際をしたほか,宿泊を伴う不貞行為を1回したと認められる。

※ このケースでは、原告はAと離婚にまで至った事例です。

4 若干の検討

110万円の支払いを命じています(このうち10万円は弁護士費用として認容されている分です)。鎌倉旅行がキーですが、東京から鎌倉までは日帰りで旅行することが十分な距離であるところ、有給休暇をわざわざ取得していることを判断の要素として、不貞行為に及んだことを認めています。

他にも、性的接触を含める交際をしたことは認めつつ、宿泊を伴う「不貞行為」と明言したのは1回です。この判決文を読むと、性的な接触を伴う交際、には不貞行為が含まれているのか?含まれていないのか?についても判然としない点は残りますが、不貞行為1回にしては、100万円の慰謝料は高いでしょうか?

しかし、不貞行為の悪質さは十分立証できているでしょうし、さらにいうと、本件では原告は離婚にまで至ってしまった事情もあるようです。このように考えると、1回だけの行為なのに100万もするのか、高い、と考えるべきではなく、むしろ、不貞行為1回だけが明確に立証できているだけであって、さらに、原告は離婚にまで至るほど侵害を受けているのにもかかわらず、100万円は安いとみるべきではないか。ここから理解ができるのは、不貞行為一回が100万円は高い、安い、と決めてかかってしまうと、物事を正しく見れないでしょう。私個人は、100万円でも、安すぎる事例だとおもっています。



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