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不倫裁判百選90調査費用全額が認められた事例

0 はじめに

不倫裁判百選では調査費用についても、どの程度まで認められるのか、これもテーマとして多く扱ってきました。

全額認められる事例に特徴はあるのか?その多くがあまり検討をすることなく、慰謝料の1割にとどまるものばかりでした。

2 事案の概要と当事者の主張

以下原告は、必要不可欠な主張であると調査の重要性を主張しますが、被告は、あまり調査費用額の相当性について積極的には争っていないことが理解できます。

(原告の主張)
(1)被告とCは,遅くとも平成25年1月頃から親密な関係にあり,継続した不貞関係にあった。
(2)原告とCとの夫婦関係は,被告との不貞行為が原因で悪化し,平成25年3月9日にはCが自宅を出て,両者は別居するに至った。原告とCとの婚姻関係は,被告がCとの間で不貞行為に及んだために,極めて悪化し,それによって原告は精神的に多大な苦痛を被った。これを金銭に換算すると,慰謝料額は500万円を下らない。
 また原告は,調査会社への相談,調査費として,調査会社に対し,100万円を支払った(甲33)。同調査費は被告とCとの具体的不法行為を把握するために必要不可欠な調査であり,原告の財産的損害である。
 また本件により原告が負担せざるを得ない弁護士費用は60万円である。
(3)後記平成25年3月時点において婚姻関係が破綻していたとの被告の主張について争う。

(被告の主張)
(1)原告とCは,平成25年3月9日に別居に至っており,その時点で婚姻関係が破綻している。したがって,被告とCがホテルに滞在した平成25年3月21日には,婚姻関係は破綻していたのであるから,被告の行為は不貞行為にあたらず,不法行為責任を負わない。
 また,被告は,原告とCが別居した平成25年3月9日以前において,Cと不貞行為を行った事実はない。
(2)被告はCより,平成25年3月21日までには,別居の事実を聞いており,原告とCの婚姻関係が破綻したと認識していた。したがって,客観的な婚姻関係の破綻の有無を措いたとしても,被告には故意,過失がなく,不法行為責任を問われない。

3 裁判所の判断

実は本件では、全額の調査費用を認めています。実はこれは珍しい判断なのです。

‥(前略)‥
(2)平成24年秋ころから,Cは携帯電話に常にロックをかけ,自宅内でも肌身離さず持ち歩くようになり,また原告はCが身だしなみに気を遣うようになったと感じていた。
(3)平成25年1月ころから,Cは被告の手書きのメモが添えられた手作りの食品を持ち帰るようになり,メモにはCの体調を心配している様子がうかがわれるものもあった(甲2の1ないし3)。Cは午後6時に退社しながらも帰宅が午後11時すぎになることが増え,夜遅く帰宅するときは決まって女性向けの雑貨や宝飾品の店舗の紙袋に手作りの菓子を入れて持ち帰るなどしていた。またCは社内便の袋(甲3)に入った菓子を持ち帰ったこともあった。さらに同じ頃,Cのスーツのポケットに避妊具が入っていることがあり,原告は自宅の避妊具の数が減っていることに気づいた。
(4)原告は,Cの帰宅の遅い日が決まって火曜日であったことから,探偵事務所に調査を依頼したところ,調査実施当日(原告本人尋問調書18頁)の同月29日にCと被告とが一緒に退社してタクシーに乗り込む様子が観察された(甲4,甲10)。同年2月ころ,原告がCに被告との関係を尋ねたところ,激しい口論となり,夫婦関係は悪化し,同年3月9日,Cが自宅を出て別居に至った。
(5)同月21日午後6時ころ,被告とCはそれぞれ別々に勤務先を退社し,2分後に近隣にて合流をしてラーメン店に入り,20分程度で食事を済ませ,コンビニエンスストアで買い物をした後,ホテルに入った(甲4,10)。
 また同年4月3日,被告とCは退社後合流して食事をした後,手をつないで歩いていた(甲4,10)。
(6)原告は,別居後も,Cに対し,帰りを待っているとのメールを送ったり(甲23),同年5月初旬までは毎晩自宅の玄関とリビングの明かりを付けてCの帰りを待った。同月22日,原告はCを相手方として,東京家庭裁判所に夫婦関係調整調停(円満調整)及び婚姻費用分担調停を申し立て,婚姻費用分担について調停が成立するとともに,夫婦関係調整調停については,同年10月10日,原告とCは当分別居し,長男の監護者を原告と定める旨の調停が成立した(甲5)。

調査結果をきっかけにして、その後なし崩し的に不貞行為が発覚していくことがわかります。

以上に基づき検討する。
(1)前記認定事実によれば,原告は,平成24年秋ころからのCの変化や平成25年1月以降の被告の手書きのメモ等の存在などからCが不貞をしているのではないかとの疑惑を深め,Cの行動調査を依頼したところ,同月29日の調査開始当日,被告が退社後,Cと一緒にタクシーに乗り込む姿が確認されている。
 これについてCは,会社の運営しているαのレストランでマネージャーを集めて行った試食会に被告とともに出席した際に同乗した可能性があると具体的に供述し,会社の同僚等に確認すれば判明すると述べ,(証人C尋問調書21頁),被告もCとタクシーに同乗することがあったとすれば職場の行事で移動する際と述べており(被告本人尋問調書3頁),当日の行動を振り返る手がかりとなる具体的なエピソードがあり,被告は調査報告書(甲4)の写しを平成26年4月10日の訴状送達とともに受領しているにもかかわらず,当日の行動について明らかにしない。
(2)また被告はCが自宅を出た当日に,Cから別居したことを聞いたと供述している。隣の部署で働く異性に対し,別居した当日に夫婦の別居という事実を告げるとすれば,それ自体既に相応に親密な関係にあることが推認されるうえ,C自身も被告に平成24年の暮れ頃から相談をするようになったと述べ(証人C尋問調書25頁),別居の事実の伝え方も「いや,もうやっぱり別々に暮らすようにしたよ」(証人C尋問調書10頁)という既に一定の夫婦間の事情を知った者に対する説明ぶりであり,さらに被告とCは別居後2週間も経過しないうちに,退社後に待ち合わせをして20分程度で食事を済ませ,退社から1時間以内にホテルに入室している(甲4,10)。
 以上の事実に平成25年1月以降のCの帰宅時間等の変化,前記認定の被告の手書きのメモ等の存在やその内容等を併せ考慮すれば,被告はCと遅くとも平成25年1月頃から不貞関係にあったものと認められる。
(3)この点,Cは,原告とCは平成24年6月には食事も別々となり,婚姻関係は破綻していたと述べるものの、当時既に婚姻関係が修復不可能な程度に破綻していたことを裏付ける客観的な証拠はない。
 また原告は別居後も,Cに対し,帰宅を促し,修復に向けた具体的な提案をするメールを送信し(甲23,24),円満調整を求める調停を申し立てていること(甲5),平成25年5月初旬に自宅の鍵を替えたものの,その理由は別居から約2か月が経過し,Cが不在の日々が続いた中での,主として防犯上の理由によるものであること(甲11),同年6月の転居もCと生活費について具体的な協議ができない中,賃料の支払に不安を感じてのものであり(甲11),新住所もCに知らせていること(甲25)からすると,別居時点においても,原告とCの婚姻関係が修復不可能な程度に破綻していたとは認められない。 
3 損害について判断する。本件不貞行為の態様,原告及びCの婚姻期間,原告とCとの間には未成年の子がいること,被告の不法行為により原告とCの婚姻関係は相当程度荒廃したこと,他方で夫婦が離婚にまでは至っていないこと,その他本件訴訟に顕れた一切の事情を総合考慮すると,被告が原告に支払うべき慰謝料の額は150万円が相当である。
 また原告は,調査費用として100万円を支出しており(甲33),Cが不貞行為の存在を認めていなかったことや,調査の内容等に照らすと,調査費用100万円は本件不法行為と相当因果関係にあるものと認める。
 また本件事案の内容,本件請求額,認容額その他諸般の事情を考慮すると,弁護士費用として25万円を相当因果関係あるものと認める。

4 若干の検討

金275万円の内訳は、慰謝料150万円+調査費用100万円+弁護士費用25万円となっています。

少なくとも配偶者が不貞行為の存在を認めていないことを前提としていることがわかります。

この事例だけをみていると、他の損害額を1割認容する事例と決定的な違いがあるのか?に疑問が生じます。調査費用は15万円相当と認める判断が多いのですが、それらの事例と本件に決定的な違いはあるのか?。一つの試論としては、原告は、Cが手書きメモ入り食品の持ち帰り、11時深夜の帰宅、女性向け雑貨店舗の紙袋入り手作り菓子の持ち帰り、自宅の避妊具の減少など不貞行為を決定的に基礎づけるとまでは言えないが怪しい状況、この状況を打破するために、明確に必要があったと判断できることは指摘できるのではないか。

残念ながら、探偵証拠がないと弁解されてしまう状況にあるともいえる、ここで探偵を依頼する原告には合理的な理由があるから、その判断は正当といえる以上、探偵費用全額を認容した?と考えられるのではないか。

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