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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2022年7月の記事一覧

詩)弟の死顔

詩)弟の死顔

弟の死顔は苦悶の暴悪大笑面であった
歪み 叫び 裂け はみ出し
十一面観音の裏の顔

誰にも見せられず
妻と二人だけの秘密にした
写真を顔の上に被せてもらった
死顔は穏やかな写真となった


いったい
笑顔で死ぬとはなんだ

その結論の
前で

だから
いいのだと思う
死顔が
裏の顔でも
建前に囲まれて
最期まで
無理に笑うより

正直に
死んでいく
自分の結果に
苦しみ
満足せず
死んで

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詩)弟の三回忌

詩)弟の三回忌

なんやその態度は!ええ!
少し身体が大きくて動きの鈍い店員に 客が怒鳴り続ける声が店に響く
立ち食いうどん屋の店内で 店員が立ちつくしていた

「お客さん帰ってくれるか」
「なんやおまえ、客に向かって帰れと言うんかあ」
「お客様は神様とちゃうんか!なに考えてるや このボケ」
「うちはお客さんより店員の方が大切なんや。金は要らんから帰ってくれるか」
「なんやと そんな態度でええんか ネットでおまえの

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詩 鳥語

詩 鳥語

ひばり

雨が昨日から降り続いて
湿度も高い朝
マンションの手すりに
羽を濡らした一羽のひばりが
じっとしている
シャワーでも浴びてきた後のよう
「やれやれよく降るよなあ」
「ほんとだよ。朝からいやだね」
そう お互いに 短く
アイコンタクトで語り合った

こがも

小出川の土手を
こがもが隊列をなして
こてこてと横切る
なにやらお話しに夢中
「ちょっと歩くの疲れましたな」
「そうですなあ」
「僕

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