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あらびき桃太郎 - 2 「ドンブラコ」

 ちょうどあの頃、あるところに、じいさんとばあさんが住んでいました。じいさんは週に1回ほど山に柴刈りに、対してばあさんは毎日川へ洗濯に出かけていたので、まぁまぁフラストレーションがたまっていました。

 そんなある日の朝。ばあさんは、いつものように川へ向かい洗濯をしていました。

「あーもう、あんのクソジジイ。早いとこくたばらねぇかな。毎日蒙古タンメン食ってやがんのに、なんで倒れねぇんだよあのヒゲモヤシ。イカれてやがる」

 すると、川上の方から小さい桃がひとつ流れてきました。しかしばあさんにはまだ分かりません。

「はて? あれはなんだ。目が悪くてなんにも見えねぇな。ピグレッ○か? 」

 ばあさんはそのぼんやりとしたピンクを拾って、ピグレッ○ではなく桃だと分かると躊躇なくかじりつきました。もちろん入れ歯です。

 入れ歯を医者からすすめられた時「松・竹・梅」の3つのタイプがありましたが、ばあさんは迷わず「竹」を選びました。そんなところは日本人であります。

「こりゃうまいぞ。これは持ちかえってジジイに食わせてやるにはもったいない」

 と言って、ばあさんはバクバク桃を食べ、ついに丸々ひとつ食べ終えました。すると、そのタイミングを見計らったかのように、また川上から小さい桃がひとつ流れてきました。

「なんなんだ」

 ばあさんは戸惑いもありましたが、とりあえずその桃も拾って食べました。今年74歳になるばあさん。丸々2つはなかなかツラい。それでもなんとか食べ終えたのですが、またも川上から桃がひとつ流れてきました。

 しかし今度の桃は小さくありませんでした。それはそれは大きな桃だったのです。その大きさを子どもにも伝わるように例えるとしたら、ビヨンセのお尻くらいのものでした。それはそれはグラミーです。

 この世のものとは思えない大きさの桃に、ばあさんは金のにおいをプンプン感じました。今年で74歳になるばあさんは、飛び跳ねるようにバシャバシャと川の中腹に分け入って、ビヨンセを待ち構えました。膝をまげて腰は落とし、視線を上げて準備万端。

「ヘイ! カモン、ビヨンセ!」

 川の流れに乗ったビヨンセがばあさんに勢いよくぶつかります。それを胸でしっかりと受け止め、微動だにせず立ち続ける姿はまるで横綱のようでした。

 川の勢いを完全に受けきり、両手でガッチリとホールドしたまま、ばあさんは桃を岸へ運びました。陸にあげてよく見ると、ただの桃ではなく丸々とした胴体があり、少し垂れた耳にツンと三角に尖った鼻がついていました。あと水を飲みすぎて溺れているのか、やたらとフゴフゴ言っています。

「あれぇ……これピグ○ットじゃん。 しかもリアルなやつ ……」

 ばあさんは、先ほど食べたのがもしかしてミニ・ピ○レットだったんじゃないかと不安になり、奥歯のほうに残っていた食べカスを噛みしめました。すると、やわらかい甘味が口いっぱいに広がったので、ホッと胸をなでおろしたのでした。

〈第3話につづく〉

イラスト : 石川マチルダ

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