年上ヒモ男との短命な恋


一つ前の記事で、運命の出会いを果たしたと思い込んだ私。

当時大阪に住んでいた彼と京都在住の私は、お互いの拠点を行き来して数回のデートを重ね、晴れて付き合うことになった。

彼とtinderでマッチした時でさえ「鈴虫寺効果だ!」と思っていた私は、付き合うとなるとより一層「鈴虫寺本当にすごい!お地蔵様まじでありがとう」と一人舞い上がっていた。
(鈴虫寺に関しては一つ前の記事参照)


しかし、恋人といっても所詮は他人だ。

そりゃ価値観が合わない部分だってあれば、
どう頑張っても理解し得ないことだって山ほど出てくる。

最初は「好き」という気持ちが勝るため、嫌な部分があったとしてもまだ多少は我慢できる。しかし、それらが度を過ぎると「好き」という気持ちだけではどうしても片付けきれないのだ。

まず、付き合う前も付き合ってからも、彼は私を名前で呼んでくれない。かと言って「お前」とか言うわけでもなく、「おい」とも「ねえ」とも言わない。そもそも口数が圧倒的に少ない。「好き」という言葉は告白時に発してくれた一回のみ。外でご飯を食べる時は自分の分しかお水やお箸等を用意しない。私が体調を崩して彼の横でぐったりしていても心配せずにゲームに夢中。目薬を使った後はキャップをしないまま放置。可燃ゴミを平気で道端のペットボトル用のゴミ箱に捨てる。平日仕事終わりは残業することも友達と飲みに行くことも一切なく、即帰宅してビールとハイボールを一人で8缶飲むのが日課。それなのに(それだから?)、「俺本当に貯金ないからさ〜」とヘラヘラしながら言う。

極め付けは、外食した時のお金は全て私持ちということ。
『払う気が一切ないのにとりあえず鞄から財布を取り出す素振りを見せる女性』以上にひどい。だって財布を取り出す気配すらないのだから。お金を出さないのは外食時だけではない。コンビニも、タクシーも、諸々の交通費も、スタバも、サクッと行くラーメンも、TSUTAYAも、何もかもお金を払うのは、私だ。

「こんなん全部、付き合う前にある程度分かることじゃん!気づけよバカwwwってか逆に彼のどこを好きになったの?!しかもなんで割り勘しようとか言わないの?お前もおかしいだろ(笑)」
と当時はいろんな友人から突っ込まれていた。

…正論すぎて一ミリも反論できない。
多分私は鈴虫寺で洗礼を受けすぎて、tinderでマッチした瞬間に「あぁ鈴虫寺本当にすごい」と思い込みすぎてしまい、かつ彼の優しそうな笑顔から「この人ならきっと地雷男じゃない」と安堵してしまったのだろう。

 …ってお金を出さない時点で相当な地雷だが(笑)

今ならこれらがTHEクズの特徴なのは分かるが、当時は本当にこれらの要素がどうでもいいと思えるくらいにはなぜか彼のことが好きだったから、やっぱり恋は盲目だ。

**


そんな彼と付き合い続けて3ヶ月目に突入したところで、クリスマスを一緒に迎えることになった。

イブは私、クリスマス当日は彼が担当してデートをプロデュースしよう、という計画を立てて、純粋に楽しみにしていた。

いつも京都大阪間を行き来してデートしていたため、クリスマスイブは滋賀県に行こうと私は決めていた。琵琶湖テラス周辺を観光したあと、有名なチャペルが併設されているザ・クリスマス感満載のレストランでディナーコースを食べて、その近くにある素敵なホテルに泊まる、という計画だった。

当日、美味しいご飯を堪能して部屋に戻ると、私はバスルームでこっそりセクシーサンタに着替えた。そして用意したプレゼントを大きな真っ白いバスローブに包み、肩に背負いながら、アメリカのサンタスタイルで「HO HO HO!」と言いながら彼が待つベッドルームへと向かった。

(ちょ、今書いてて恥ずかしい。////)

そんな私の姿を一目見た彼は「なんなんそれ!(笑)」と爆笑しながらも、ワクワクしてプレゼントを開けてくれた。欲しがっていた財布に喜び、その場で財布の中身を入れ替え始めた。もともと使っていた財布がドン・キホーテで買った1080円の財布だったから、それに比べたら私からのプレゼントは本当に充分すぎる。

そこで私も期待する。

付き合ってすぐのクリスマス、何をくれるんだろう?
どんな演出をしてくれるんだろう?
手紙もくれるかな?

とにかくワクワクが止まらない。

しかし、その夜は何もなかった。
「まあ彼はクリスマス当日担当だし、明日きっと何かあるだろう」と自分に言い聞かせ、その日は眠りについた。

翌日、ホテルの朝食ビュッフェを楽しんだあと、彼が「大阪に戻ろう」と言った。キターーーーと期待して大阪に戻ると、真っ先に向かったのはなぜか茶屋町周辺にある彼の家。そして部屋に入るなり、スウェットに着替える彼。からの「TSUTAYAでDVDを借りてくるけど何がいい?」と平然と聞いてきくる彼に対して、戸惑いながらも「最近ジュラシックワールドとOCEANS8を2回ずつ見たからそれ以外がいい!」と答える私。


?????????


彼が家を出て行くなり、脳内で状況を飲み込もうとする。
「まず、いつも私が払っていたTSUTAYA代を初めて彼が払うことに関しては、合格。だけど、え、クリスマス当日に家で映画見るの?普通の週末やん。もしかするとこれは何かのサプライズで、彼は今からバラの花束でも持って再登場するのか?いや、でもスウェットで家を出たしな…え、冷静にどういうこと??泣」
という考えで頭がいっぱいになる。

しかも、数十分後帰ってきた彼が手にしていたのは、
まさかのジュラシックワールド。

もう本当になんで?????涙涙涙

それは2回見たからと念を押したのに、全く伝わっていなかったようだ。
しかも、もう一つ借りてきた映画が【戦慄怪奇ファイル -コワすぎ!真相!トイレの花子さん-】という、タイトルからしてなんともクセが強い作品だったのも非常に印象深い(笑)クリスマスにこれを借りてこようと思った彼の脳内は一体どうなっているのか、もはやセンスすら感じる。


映画を見てただダラダラする時間がゆっくりと過ぎていき、夕方になった。
すると何か思い出したように「行くよ!着替えて」と彼が立ち上がり、私たちはタクシーに乗り込んでリッツ・カールトンへと向かった。

一応クリスマスディナーの予約はしてくれていたようだ。
そしてディナー代も流石に出してくれた。というか、デザート終わりに私が「トイレ行ってくる!」とわざと言ってお会計を避ける行為に出てみたのだ。充分な時間を与えて席へ戻ると、すでにお会計は済まされていた。

付き合って3ヶ月目にして、初めて私が1円も払わなかった日だった。

そんなディナー中、特に何か変わったことがあったわけではない。
プレゼントも渡されていなければ、何か特別な演出があったわけでもない。
帰りも当たり前のように私持ちでタクシーで帰宅し、翌日はお互い仕事だからと、すぐに寝る支度をした。お風呂に入り、ユニクロの女っ気ゼロなグレーのスウェットに着替え、すっぴんメガネ状態で歯を磨いてベッドに入る。

すると、彼が「はい」と自信満々に枕の下から小さい箱を取り出した。
ブランド名と箱の形からして、それがネックレスであることをすぐに察知した。

「ありがとう!今開けていい?」と目で笑い言いつつも、内心では「プレゼント用意してくれてたのは純粋に嬉しいけど、え、なぜ今??なぜ今最強にブサイクな瞬間に渡す??今からもう寝るよね??さっきディナー中に渡せる良いタイミングたくさんあったよね??私今すっぴんメガネだよ??本当にどうして??」と混乱した。

複雑な笑みを浮かべながらも箱を開けると、そこには小さなダイヤが一つ輝いている金のネックレスがあった。シンプルで、華奢でとても可愛かった。

前置きしておくべきだったが、彼は極度の恥ずかしがり屋でラーメン屋やスタバにすら一人で行けない性格だった。そんな彼が、こんなに可愛い物を選んでくれたという事実を重ね合わせると、複雑な気持ちはありつつも、嬉しくって自然と笑顔になった。

「一人でこんなところ行けたのすごいね〜!頑張ったね〜!」と髪をわしゃわしゃしながらからかうと、彼から衝撃の一言が。

「いや、俺こういうお店一人で行けないから、去年元カノにあげた同じものを同じお店で買ってきた!だから選ぶ手間がなくてすんなり買えた。」


…?!?!?!?!?!?!

さっき見たトイレの花子さんの怖い映画よりも、彼の今の発言の方が百倍怖すぎる。

例えそうだとしても、それを私に明かす必要性は微塵もない。わざわざ言う必要性が全くないのはもちろんのこと、女心を一切理解していない。まず、どスッピン状態で渡してくるあたりから、おかしい。いや、その前からおかしいことはたくさんあるが、とにかく全てがおかしい…


その夜は、セックスせずに寝た。

そして翌日、私は京都にある会社へ向かいながら、やっぱりこの関係性は何かが違うということばかり考えていた。


私はもっと愛されるべきだ。
もっと女の子扱いされるべきだし、もっと優しくされるべきである。もちろん名前で呼ばれて当たり前だし、自分に合ったプレゼントをじっくりと時間をかけて探してもらうべきである。毎日「今日もとびっきり可愛いね!」って言われて当然だし、毎度とは言わないけれど外食をする時たまには「俺ちょっと多く出すから、3000円だけもらってもいい?」と言われるべきだ。「素敵なデートプラン考えてくれてありがとうね!でも俺もっと喜ばせちゃうから!」と満面の笑みで言われて、もっともっと幸せにされるべき女性である。
今のままだと、彼と一緒にいることで、自分の価値がどんどん下がっていく気がしてたまらない。

そうだ、私はもっと愛されるべき。
もう自分から歩み寄るのをやめて、あまり期待はせずにとりあえず様子をみよう。


…と思い、5日間彼にラインをしなかった。

でも、彼からも連絡が一切来なかった。
「クリスマス楽しかったね!欲しかったプレゼントもありがとう!アルバムに写真載せて!」という連絡すらない。本当に何もない。
この時学んだのは、人間は何かを期待していないと全く悲しくないということだ。私は悲しさは一切感じず、むしろ呆れの感情ばかり募っていった。

連絡を取らないまま6日目に突入したところで別れ話をするために電話をすると、驚きながらも別れの原因を探ろうとしている彼がいた。

自分の言動によって私が傷ついていることを何も理解せず、ただひたすら「なんでなん?なんで別れる必要あるん?」と38分間繰り返す彼。日常生活においても、金銭面においても、私が甘やかし過ぎていたことは彼にとっての「普通」であり、その「普通」が「異常」であることを遅らせながらも私は気付けたが、彼はやはり最後までそれに気付かなかったようだ。

クリスマスから6日経過した大晦日に別れた私は、その夜年越しそばを食べながら、今度こそ「自分にとってふさわしい人と出会えますように」と新年の目標を立てた。

だって私はもっと愛されるべきだから!

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