chapter1-1.We dare be born to be
chapter1. someone's lost
1.We dare be born to be
深く重い殺伐とした空気が漂う厚い霧に覆われた
朽ちた木々が一面を埋め尽くした森の中
とある1つの集落がありました。
その集落の言い伝えでは、
「村の外に出ると”魂を喰らう怪物”に襲われ、心を喰い尽くされてしまう。だから決して村から外には出てはいけない」
そう子どもたちは教えられ、その言い伝えが代々信じられてきました。
実際に、好奇心から森に入ってしまった人間が、二度と戻ってくる事はなく行方も分からなくなってしまったという事が度々起こりました。
村にはとても重く冷たい空気が流れ、濃い霧に阻まれ月の光が届かないため暗闇に覆われ、じめじめとしています。
村民は毎日細々と食料を育て、獲物を狩り暮らしていましたが、村民同士の会話も少なく静寂に包まれ、何の娯楽も無く、毎日を過ごすうちに歳を重ねるだけの生活を続けており
誰一人として、森の外に知らない世界が広がっていることや、空には明るい満月が登っていること
この世界にはまだ知らない感情が沢山あるという事すら信じる人はいませんでした。
この村で暮らすある青年もその1人でした。しかし、青年が毎日のように夢で見るのは空に浮かぶ月や星々。青年はそれが何なのか分からず、仲間に夢の詳細を伝えても信じてもらえることはありませんでした。
ある日青年の元へ、一匹の渡り鳥が珍しく空から降りてきました。
渡り鳥の口には古びた書物が咥えられ、青年に渡すように地面へ落とし、渡り鳥は再び空へと去って行きました。
渡り鳥が落とした書物には
見ず知らずの土地で「王国の支配に対して疑問を持ち、王者を夢見て仲間を引き連れ王国に戦いを挑み、苦難や葛藤を重ねつつも最終的には、満月の夜、戦いに勝利した英雄」の伝記が記されており
青年は見たこともない場所でも聞いたこともない物語に対して、夢中になって情景を想像で膨らませながら何度も何度も伝記を読み返しました。
物語の終盤、戦士の最後の闘いのシーン
そこには満月が浮かぶ夜空の存在が絵図と共に記されており、青年が毎日夢に見ていた情景と限りなく一致していました。
青年はこの伝記を読んで以来、空に浮かぶ月の存在を確かめようと空を幾度も幾度も見上げてみましたが、霧のかかった空に月が見えることは一度もありませんでした。
しかし、彼は村の外には見たこともない情景や得たことのない感動が広がっていることを確信しました。
これらの不思議な経験村のを人々に尋ねてみても、村の人々は彼を散々に馬鹿にし、耳も傾けず挙げ句の果てには彼がおかしなことを言うようになった原因として彼の大事な伝記を燃やしてしまおうと企みました。
彼は間一髪で伝記を取り返しましたが、村の仲間に対する不信感や孤独感、絶望感を抱きながら村の外れにあるボロ小屋へと身を寄せました。
涙に視界を滲ませながら空を見上げると、遠くにうっすらと見える塔の先に初めて見る満月がぼんやりと浮かんでいました。
初めて見る満月は何故か懐かしくもあり、落ち着きや大きな希望を与え、とても輝いて見えました。
「あぁ、誰も気づかない。誰も信じてくれない。外にはまだ知らない世界が広がっているのに。
あの月の光を手に入れたい。伝記の主人公のように光を纏いたい。」
自分が信じていたことは間違っていない。
あの満月を手に入れたい。あの満月を手に入れれば深い霧も晴らせる。
そう決心を決めた青年は小屋に取り残されていたランプと伝記を手に、森の中へ踏み出して行きました。
青年は村民に対する不信感や孤独感から暗い気持ちに覆われていましたが、ついに望んでいた満月が姿を表し、森へと踏み入れることを躊躇っていた彼に決心や希望を与え、彼は一歩進み出しました。
青年は伝記や満月から、生まれて初めて感情を学び
彼を重くさせていた闇や霧の隙間から光が差し込むような不思議な感覚を得ました。
森の中は深く重い殺伐とした空気が漂い一歩一歩進むのにもとても重い脚で、強い重力に捕らわれながらも自分を信じながら脚を進め始めました。
言い伝えで聞いていたような”魂を喰らう怪物”に対する恐怖が頭をよぎることもありましたが、強い好奇心のままに重い一歩を順調に重ねていきました。
しかし、あの日以来再び月を目にすることはありませんでした。
彼の歩みを支えるのは見たこともない世界に対する好奇心や月の光を掴もうとする気力、伝記の中から得られた希望でした。また、彼の中には「誰も信じないのであれば、自分が月の光を手に入れ証明しなければならない」という強い観念も生まれました。
反対に、たった一人で歩む孤独感、霧の中の重く殺伐とした空気や、言い伝えの中で聞かされてきた文言も呪いのように彼の歩みを苛めるなど、彼の足取りを止めようとするフラストレーションも否定できませんでした。
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