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短編小説 愛して、守るということ。(1533字)

妻が二度目の万引きで逮捕された。
予想もしない電話に、私は仕事を切り上げ警察に急いだ。
妻は私が取調室に入ったのを感じたのか、警察官に反論し始めた。
万引きなんかやっていません。精算前でした。
警察官は、怒ったように
証拠はあるんだよ、現行犯だ、目撃者もいる。防犯カメラも録画してる。
警察官が言うには、精算せずに店を出た所を万引きGメンに捕まったとの事だった。
やってないの一点張りで、このままでは家に帰せないとの事だった。
私は、妻を信じたい、何か間違いがあるのではないか。と警官に話した。
また一方で、一回目の経験から弁護士に連絡し、店側と和解して被害届を取り下げてもらうよう、依頼した。妻の会社にも連絡し体調不良で1週間の休みをもらった。
頑なに無実を訴える妻の前に、警察は家に帰さず、その日は勾留される事に成った。
一度目の万引きの時は、妻も認め謝罪し、弁護士に入ってもらい店側と和解し、被害届の取り下げをしてもらい、起訴されずに済んだ。
私達夫婦は私が26歳、妻が22歳の時に共通の友人の紹介で出会い結婚し今年で7年目に成るが、未だ子供はいない。
家事は二人で分担して行っている。夫婦仲は、普通と言うか、悪くは無いし、だんだんお互いが空気の様な存在に成ってきているのは感じていた。
その晩妻の居ないマンションのリビングで考えた。
何が悪かったのか、私の収入が足りないのか、道徳心がないのか、善悪の判断が出来ないのか、頭に浮かぶ全ての事は、妻の万引きの動機には成らなかった。分らない。分らないのだ。
客観的に、警察の話、弁護士の話を訊く限り、妻には不利である。しかし妻は否定している。
私は信じようと思った、妻を庇う、信じる人が一人ぐらいいてもいい、愛していたら信じられる。夫婦の危機だ、妻を守れるのは夫の私だけだ。その夜妻もそうだろうが、私も一睡も出来なかった。
翌日、弁護士と被害店舗に行き、謝罪し被害届の取り下げ補償の話をしをしたが、二度目であり本部の了承事項との事で、良い返事は貰えなかった。
警察の方は、よほど心証が悪いのだろうか、もう一晩勾留されることとなった。弁護士とも話をして私は翌日から会社に行くことにした。
仕事中に携帯が鳴った、弁護士からだ。
忠雄さん、加代さんからの大事な話があるので、すぐ時間を取れますか
結局、弁護士事務所で会うことにし、私は慌てて会社を出た。
着くなり、時間が無いのだろう弁護士は、本題に入りますと話し出した。
忠雄さん、奥様、加代さんと離婚される考えはありますか。
えー。
加代さんは離婚を望まれています。
私は、
こんな事で加代を見放したりしません。離婚なんて考えてもいません。
弁護士は饒舌に砕けた話し方で語り始めた。
ここからは私の見解です。加代さんは、御主人忠雄さんに、見捨てられた形での離婚を望まれています。しかし本当は、会社で好きな人が出来たのです。その人と、一緒になる為に、自分に罰を与え、つまり罪を犯して前科者に成る事で、あなた忠雄さんに、謝罪し、離婚されようとしたのです。
私の見た処、加代さんの覚悟は、崩れないと思います。
忠雄さん、この話は聞かなかった事として、
忠雄さん、騙されてみませんか。
私は、混乱し言葉もありませんでした。加代との出会いからの思い出シーンが次々と現れ消えて行きました。正義も悪も有りません。ただ頭をかかえました。
翌日から私は、弁護士と被害店舗本部に通い詰めて、被害届の取り下げ、補償を決め、示談をまとめました。
そして、安堵する弁護士に私は、署名をした離婚届を手渡しました。
彼女は不起訴に成りました。

           おわり。
















あなたを護ります。誰も味方はいない、そんなとき身内の一人が味方する、それは人情でしょう。愛でしよう。

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