ダイナミック・ケイパビリティの企業理論
どうも、犬井です。
今回紹介する本は、デイビット・J ・ティースの『ダイナミック・ケイパビリティの企業理論』(2019)です。
この本では、デイビット・ティースが提唱するダイナミック・ケイパビリティ理論について記述されており、その理論は、グローバリゼーションの進展などによって不確実性が高まった現代において、とりわけビジネスに関わる人は理解すべき理論であると思われます。
それでは以下で、簡単に内容をまとめていこうと思います。
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ダイナミック・ケイパビリティ
現在のビジネス環境は、グローバルな競争にさらされて変化が速く、イノベーションや製造の源泉が、地理的にも組織的にも拡散していることで特徴づけられる。こうした状況下で持続的競争優位を得るには、独自の複製困難なダイナミック・ケイパビリティが必要である。
ダイナミック・ケイパビリティとは、変化に適応するために、既存の固有の資源自体を再構成、再配置、そして再利用し、付加価値を最大化しようとする、より高次の変化対応的な自己変革能力のことである。具体的には、ダイナミック・ケイパビリティは以下の三つに分解することができる。
(1)機会・脅威を感知し形成する能力
(2)機会を捕捉する能力
(3)企業の有形・無形資産の価値を高め、結合・保護し必要な場合には再配置することで競争力を維持する能力
こうした能力は、とりわけ以下のビジネス環境下にある多国籍企業のパフォーマンスを左右する。
(1)環境が国際的な商取引にオープンで、急速な技術変化に関係する機会・脅威にさらされていること
(2)技術的変化自体が、顧客ニーズに対応した製品やサービスを創造するために様々で多角的に結合されなければならないこと
(3)財やサービスを交換する十分発達したグローバル市場が存在すること
(4)ビジネス環境が、技術・経営のノウハウを交換する未発達な市場によって、特徴づけられていること
こうした環境下では、企業の成功は所与の最適化や生産における規模の経済性はほぼ関係がない。むしろ重要なのは、発明間の有効な結合、効率的かつ有効な技術移転、知的財産の保護、バイアスのない意思決定の実施、ライバルの模倣を阻止するなどの、組織・経営のイノベーションである。
オーディナリー・ケイパビリティ
ダイナミック・ケイパビリティと比較される能力として、オーディナリー・ケイパビリティというものがある。
オーディナリー・ケイパビリティは、ダイナミック・ケイパビリティよりも、ルーティン化された活動に根付いたものである。ルーティン化された活動とは、繰り返される連続的な活動であり、企業の物事の進め方のアルゴリズムや経験則に根付くものだろう。ルーティン化された活動は、基本的に安定化や惰性に向かう傾向があるので、環境の変化が小さい状況には適している。
しかし、急速に変化する競争環境においては、企業が属するエコシステムに適応し続けるために、企業はその活動を絶えず修正し、必要に応じて全く新しいものにすることが求められる。その際、変化に対処するために従うべき共通の方針を認識し、それに加えて変革をルーティン化することは不可能ではないにしても、非常に困難なことが多い。
したがって、オーディナリー・ケイパビリティの特性を活かしつつも、長期的には、ルーティン化された活動の再設計を含めて、準連続的に資産の調整、共調整、再調整、再展開するダイナミック・ケイパビリティの保持に、組織・経営幹部は努めなければならない。
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あとがき
ダイナミック・ケイパビリティとは、環境が変化した時に、経営資源を再結合・再展開する経営者や組織の能力であり、オーディナリー・ケイパビリティとは、基本的な企業が追求する目標、つまり、生産性の向上、利益率の上昇、品質の管理といった能力のことです。
変化が少ない環境では、オーディナリー・ケイパビリティは適しているのですが、例えば今回のコロナのような問題が発生し、グローバルサプライチェーンが寸断されたときには、効率のために在庫を持たなかったことや、製造拠点を分散させたことが裏目に出ることがあります。したがって、変化に適応するための能力として、危機に備えスラッグを持たせるなどの、ダイナミック・ケイパビリティが必要になってきます。
日本企業で具体的にダイナミック・ケイパビリティが高い企業として、訳者の菊澤先生は、”富士フィルム”を例に挙げています。もともと富士フィルムは写真フィルムでビジネスを展開していたのですが、デジタルフィルムが急速に広まるという大きな環境変化があっても、前々から化粧品や再生医療などの分野でビジネスを展開していたために、危機に対応することができたとされています。ちなみに、富士フィルムの傘下の企業が、今回のコロナの前から、治療に有望とされる新薬「アビガン」を作っていたというダイナミック・ケイパビリティをみせています。
これからの不確実性の高い世界に適応するためには、ダイナミック・ケイパビリティは必須の能力ですので、日本企業全体が、もっと言えば日本全体が、その能力を高める、あるいは自ら育成していくことが必要であると思います。
また、ダイナミック・ケイパビリティの企業論の源流はジョセフ・シュンペーターにあるとされています。これを受けて、次回は、シュンペーターの著書をまとめようと思います。
では。
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