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GLOBOTICS(グロボティクス)

どうも、犬井です。

今回紹介する本は、リチャード・ボールドウィンの『GLOBOTICS (グロボティクス) グローバル化+ロボット化がもたらす大激変』(2019)です。

本書では、かつて手を使って作業する人たちの雇用を脅かしてきたロボット化という現象が、「機械学習」の台頭により、ホワイトカラーやサービス・セクターの雇用まで脅かしているとしています。そして、翻訳技術や通信技術の発展が、言葉の壁や通信技術の制約を破り、海外人材の流入が容易になったことで、国内の低スキル労働者たちは低賃金競争に巻き込まれていると述べています。

ボールドウィンはこうした新しい形態のグローバル化(グローバリゼーション)と、新たな形態のロボット化(ロボティクス)の組み合わせを、「グロボティクス」と呼んでいます。

それでは以下で、グロボティクスという現象を、過去との違いに基づいて、詳しく見ていこうと思います。

過去のグロボティクスと今回のグロボティクスの違い

自動化もグローバル化も1世紀前からある現象だが、グロボティクスは次の二つの点で大きく異なる。

一つ目は、過去はモノの製造や運搬という物理法則に基づいたグローバル化と自動化であったが、今回は情報、つまり電子と陽子に関連した物理法則に基づいているため、襲来のスピードが凄まじいことである。グロボティクスがもたらす雇用破壊は、雇用転換によって社会・政治・経済システムがその圧力を吸収できるペースを上回るほどに速い。雇用破壊は、デジタル技術の爆発的なペースで進む一方、雇用創出は人の知恵によってゆっくりと進むからである。こうした動きは、敵愾心や暴力行為を抑える社会的仕組みを壊す恐れがある。

二つ目は、途方もなく不公正な競争である点である。国内労働者たちの新たな競争相手(=遠隔移民)は、低い報酬に甘んじ、同じ労働法や就業規則に従うこともない。退職手当や有給休暇を求めることはないし、年金積立もいらず、育児休暇も必要ない。グロボットに至っては、賃金はゼロだし、福利厚生も必要ない。要するに、AIロボットや遠隔移民との競争は、恐ろしく不公正に思えるということだ。

ニュー・グローバリゼーション

文明の夜明け以来、モノ、アイデア、人を運ぶコストの高さがネックとなり、生産と消費は地理的に結びついていた。技術の進歩はこれらのコストを低下させたが、一斉に下がったわけではない。第一の技術の衝撃である「蒸気力」の登場で、消費地の近くでモノを生産する必要がなくなり、輸送コストは大幅に低下したが、アイデアや人の移動コストまでも劇的に下がったわけではない。工場や工業地帯が集積するようになっていったのは、通信コストや移動コストがいまだにネックであった証拠である。

一方で、情報通信技術(ICT)がアイデアの移動コストを引き下げたスピードは、蒸気がモノの移動コストを引き下げたスピードを上回っていた。これにより、製造工程を一つの工場内・工業地帯に集約する必要性はなくなり、先進国の製造業企業は、近隣の途上国との大幅な賃金格差を利用できるようになった。移転したのは生産工程だけに限らない。外国人労働者が適切な方法で適切な部品が製造できるように、ノウハウまで流出させたのだ

これにより、かつての工業大国は歴史的な速さで脱工業化し、ごく少数の非工業国(=中国をはじめとする新興国)は歴史的な速さで工業化した。ただ単に、製品が国境を越えていた現象を「オールド・グローバリゼーション」とすれば、成熟国から途上国への大規模な技術の一方的な流出を伴う現象は、「ニュー・グローバリゼーション」と言える

グロボット時代に繁栄を築くための三つのルール

グロボティクス革命に自分自身や子供達が備える上で、助けになるルールが三つある。これらはごく常識的なものだ。第一に、ホワイトカラー・ロボット(AI)や遠隔移民(RI)と直接競争しない仕事を探す。第二に、AIやRIとの直接競争を避けられるスキルを磨く。第三に、人間らしさはハンデではなく強みだと心得ることだ

第一のルールに従うと、AIが圧倒的に有利な、経験をもとにしたパターン認識だけに頼るスキルからは遠ざからなければならない。他方で、身につけるべきスキルは、頻繁に直接会う必要のある生身の人間との付き合いが良くなるようなスキルだ。なぜなら、遠隔移民にはできないことだからである。能力向上のための訓練という観点では、チームワーク、創造力、社会的認知能力、共感性、倫理観といったソフト・スキルを養うことに投資すべきだ。グロボットはこれらが苦手なので、今後、仕事上で求められるスキルになる。

もちろん、100%のソフト・スキルはあり得ない。公の議論では見落とされがちだが、極めて単純なポイントがある。「グロボティクス転換」で勝ち残る人たちの多くは、グロボットを【設計する】のではなく、グロボットを【使いこなす】人たちだ、ということだ。厳しい言い方をすれば、グロボットに代替されたくないなら、仕事の中でグロボットを使いこなす方法を学ばなければならない。動きの速い将来の仕事の世界では、柔軟性と適応性がものを言うはずだ。これに対し、語学力は、機械翻訳の出来が悪かった以前ほど武器にならない。

大激変に備える

グロボティクスによる破壊的な変動が暴力や過激な反応につながるとすれば、その原因は、この速さと不公平さにある。こうした不都合な事態を抑えるには、失業する労働者を支援し、転職を促し、ペースが早すぎると判断すれば、規制や雇用保護規則によってペースを落とさなければならない。

したがって、これからの時代、政府がなす最善手は、変化にうまく適応できるような政策を強化することである。実現可能な方法を考える上で、柔軟性(フレキシビリティ)と安全(セキュリティ)を兼ね備えたデンマークのフレキシキュリティ政策が参考になる。その政策は、次の政策のトライアングルが基礎にある。

第一は、従業員の解雇と採用を容易にする政策。第二は、失業者に提供される包括的なセーフティネットだ。失業給付は寛大だが、そこそこの所得水準に止める。賃金の約90%を支給するが、最大で月額2000ドルに抑える。最後が「活性化」政策で、職を失った労働者の就業を支援するものだ。

「グロボティクス転換」によって必要な政策に目新しいものが加わるとは思えない。ただ、全てが猛烈な速さで進むため、将来必要なデンマーク型の労働市場調整政策は過去よりも大規模なものになるであろう。

あとがき

リチャード・ボールドウィンの有名な著作として、『世界経済 大いなる収斂  ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』(2016)が挙げられますが、本書は2019年に出版された書ということで、機械学習のアップデートとともに、本の内容も更新されています。ここ数年の機械翻訳の質の向上や、テレワークの浸透を鑑みれば、いよいよもって、グロボティクスに適応するために、個人でできること、そして、政府ができることを考える必要があるように思えます。

ボールドウィンは、政府がなすべきこととして、デンマーク型のような労働市場調整政策の強化を提案しています。個人的にも、この提案に賛同するところです。特に、MMTerが推奨する就業保証プログラム(=JGP)は、これからの大激変への備えとして、一考の価値があると考えています。

理由としては、勿論、ボールドウィンの論を踏まえているということもありますが、やはり、今現在が、時代の転換の只中にあることが挙げられます。GFC以降、新自由主義からの脱却に世界が動き始めていましたが、今回のコロナ禍でそれが決定的になりました。つまり、1970〜80年にかけて、戦後のブレトン=ウッズ体制から新自由主義体制へ社会の仕組みが大きな転換を迎えたように、新自由主義体制からポスト新自由主義体制への転換が、これから起こると考えられます。

こうした歴史の大きな流れをつかまえれば、今でこそJGPは夢物語のように考えられていますが、10年後、20年後の社会では、どこかの先進国で取り入れられてもおかしくないような時代が来ているかもしれません。我が国でも、これからの時代に適応するための制度を、特に若い世代が議論していくことが必要なのではないかと考えています。

では。

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