小説ハイスクール物語 4 未来は今の延長線上にしかない 夢への第一歩を踏み出させてくれた彼女

僕は同級生で仲の良い小松とふたりでS女子高の
学園祭に行った。
S女子高は県内でも特に歴史ある高校で、進学校ではなかったが、制服のセーラー服も学校の教育方針も清楚な女性を感じさせるものだった。
夏場の白いセーラー服だけが唯一S女子高の女の子たちを華やかな感じにしていた。

S女子高の正門も校舎も全て茶色の煉瓦造りだった
威圧感すら感じさせる建物だった。
学園祭ということでお祭りムードになってはいたが
何処か道徳的な雰囲気が漂っていた。
男が勝手に入ってはいけない、という厳しさが感じられた。
小松も少し緊張気味に歩いていた。
僕たちは正門で貰った案内図を見ながら1年3組に行った。
教室の入口のところで理美が待っていた。

「小松、紹介するよ。竹田理美さんだよ。」
「初めまして、竹田理美です。」
「こんちは。小松克彦です。」
「私たちのクラスはレストランみたいになってるの椅子に座って。」

理美はプラスチック製のグラスに入った水を2つ持って来てテーブルの上に置いた。
「鈴原くん、小松くん、私の1番仲の良いお友だちを紹介させて。この子、笠原裕美って言うの。
裕美ちゃん、こちらが私が話した鈴原優雨樹くん、
そしてこちらが鈴原くんの友だちの小松克彦くん。」
理美は小松と裕美ちゃんを見た後、僕を見て微笑んだ。僕も同じことを思っていた。小松も裕美ちゃんもお互いに気に入ったみたいだった。
僕は理美が小松は裕美ちゃんが作った焼きそばと
お好み焼きを食べた。美味しいと思った。
小松も旨い旨いと言って食べていた。食後の珈琲を飲んでいると理美が来て
「私たち3時までこのお店の係りだから、3時にまたここに来て。」
と言ったので、小松とふたりでS女子高の学園祭を見学に行った。

当たり前の話しだが女の人ばかりだと思った。僕たちの高校の先輩方や同級生たちも何人も見かけた。
僕たちは学園祭を見学していると言うより、女子高を見学しているという感じだった。
1時間ほど見学していると、
「おい鈴原、女子高に男子トイレってあるのか?」
「僕も同じことを思っていたんだよ。男の先生が居るからあるとは思うんだけど。」
「おい、鈴原、あれじゃねえか?」
「ホントだ、男子トイレは職員用トイレをお使いください、と書いてある。」

僕たちは用を済ませた後、歩き出すと
「おい鈴原、プールの更衣室が道沿いにあるぞ。
みんなに教えてあげようぜ。」 
「そうだな。」
ゆっくり校内を見て廻っていると時間になった。

1年3組の入口で理美と裕美ちゃんが待っていた。
僕と理美は小松と裕美ちゃんと別れて、ふたりで
校内を歩いた。
少し歩くと弓道部が矢を射るのを見せていた。

「弓道、見たいけど、いい?」
「鈴原くん、弓道をやりたいの?」
「僕は中学の時から趣味でアーチェリーをやっているんだよ。だから見てみたいんだ。」

女の人が白い弓道着を身に纏い矢を射る姿は美しくもあった。
「ねえ、弓道部って、何て言って新入生を勧誘すると思う?」
「分からない。何て言って勧誘するの?」
「弓道をやると胸が大きくなるからやった方がいいよって言って勧誘するの。BカップがDカップになるよって。私、Dカップだからいいですって答えた私ね、胸が大きいのが悩みなの。セーラー服は胸が大きいのが目立たなくていいんだけど。」
「胸が大きいのが、どうして悩みなの?」
「私、中学2年の時からDカップなの。中学生で
Dカップって殆どいないのよ。だからいつも男子に胸をジロジロ見られて。鈴原くん、ごめんね。」
そう言うと理美は涙を浮かべた。
「中学の修学旅行の時に同じクラスの男の子に胸を触られちゃったの。ごめんね。」
「そんなこと気にしなくていいよ。」
「ありがとう。でも、右の胸は触られていないからね。」

僕たちはその後、ゲームに参加して大きなキャンディーを貰った。僕たちはそのキャンディーを食べながら歩いた。

「女子高って上品な雰囲気があるよね。男子校なんて男だけでしかも私服だから、ジーンズのチャックを上げながらトイレから出て来たりするよ。」
「ねえ、女子高ってもっと凄いのよ。実態を知ったら男の人は幻滅すると思う。この間なんてね、体育の水泳が始まる前、更衣室で葉子って子が生理が始まっちゃったの、それでね、」
葉子
「由美、私、始まっちゃった。私、持って来るの忘れちゃったの。タンポン1つ分けて。」
由美
「あげるけど、私のタンポンじゃ葉子にはゆるゆるで、すぐに抜けちゃうと思うわよ。」 
葉子
「ちょっと由美、それどういう意味よー!」 

「そうしたら、取っ組み合いの大喧嘩になっちゃってね。」
「ホント?・・」
「女子高に幻想を持ってはダメよ。」

フォークダンスの時間になったので、僕たちは
会場のグランドに行き、フォークダンスを踊り始めた。

「ねえ、鈴原くんの夢を教えて。」
「ヨーロッパに行くこと。」
「鈴原くんはヨーロッパに行きたいんだ・・」
「先輩に理由を説明して軽音楽部を辞めようと思う。だが、辞める前に代わりのベース担当者を探さないといけない。僕のベースを譲ってもいいと思ってる。そして夢に向かってスタートする。」
「鈴原くん、今日から始めて。私が読んだ本に
こう書いてあった。未来は今の延長線上にしかないいつかこうなりたいという夢があるのなら、
今この瞬間からそれを始めなければならない。
そうしないと永遠にその夢は叶わない。」
「確かにそうだね。今日、帰りにヨーロッパの地図を買って帰る。そして、それを部屋の壁に貼る。」
「私、鈴原くんの夢を応援してもいい?」
「竹田さん、僕の彼女になってください。」
「はい、喜んで。」
理美は優しさそうな微笑みを浮かべていた。
そして少しの間、僕を見つめた後、
「鈴原くん、私のこと理美って呼んで。私も鈴原くんのことをユウキって呼ぶから。」

僕は帰りに書店で1番大きなヨーロッパの地図を買った。家に帰るとその地図を部屋の壁に貼った。
10年後、僕はヨーロッパにいる。そう心のなかで誓った。
16歳の夏のことだった。






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