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10年越しの夢を捨てる時が来た

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どんな人生にも、希望はあると信じて。
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#虐待

10年越しの夢を捨てる時が来た #3

10年越しの夢を捨てる時が来た #3

 苦しくなかった訳ではない。むしろいつも、逃げ出したいほど苦しかった。息をしているのに、溺れて呼吸困難でいるような感覚が常にあった。

 夏菜子は小さい頃から「弱い子」だった。

 小学生の頃は、数ヶ月に一度は熱を出す子だった。風邪を引いたり扁桃炎を起こしたりインフルエンザに罹患したり、冬場なんかは毎月近くの小児科にかかって点滴を打たれていた。小さな子どもは注射針を見たら泣いてしまうものだが、夏菜

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10年越しの夢を捨てる時が来た #5

10年越しの夢を捨てる時が来た #5

 看護師を辞めると決意した夜、腹の底から溢れ出る何かが嗚咽となって夏菜子の心を引き裂き、これまで積み上げてきた全てが音を立てて崩れていくのを感じた。

 なぜこんなにも泣いているのだろう。

 荒い呼吸で酸欠状態の時でもどこか冷静な部分が常にあって、俯瞰して自分の感情と向き合った時、まず夏菜子を襲ってきたのは悔しさだった。やはりまともな人間にはなれなかった。看護師として正社員で働くというただそれだ

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10年越しの夢を捨てる時が来た #6

10年越しの夢を捨てる時が来た #6

 近くの精神科クリニックはインターネットですぐに見つけることができた。

 夏菜子がうつ病で心療内科に通っていた15年程前は、心療内科や精神科を受診するハードルが今よりももっと高く、まずもって予約制のところばかりで、1ヶ月待ちなんていうことがザラにあった。1ヶ月後の予約が取れたところで、その日の調子がどうなるかは分からないし、もし行けなかった場合、次に受診できるのは必然的に1ヶ月後ということになる

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