徳永純二
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今回ぼくのドラマづくり細胞を刺激してくださったのは次の自由律句です。 なんというやけくそな雲だろう 磯﨑峰水 ぼくは、空や雲を見上げるのが大好きなのですが、磯﨑さんのこの句は、雲が「やけくそ」になっている、という表現が面白くて、ドラマが浮かんできました。 世界雲会議 徳永純二 「そろそろ会議を始めたいのだが、みんな集まってるかい。すじ雲さん、上層の雲さんたちはどうだい」 「ええ、うろこ雲、うす雲、それにすじ雲のぼくと、そろってます」 「中層の連中はどうかな
6月1日の朝日新聞の記事です。 「詐欺救済求め『だまされた』」「ロマンス詐欺」相談で非弁提携(弁護士法違反)の疑い」「1800人超から約9億円」 これが見出しです。「何のことやら」とチラッと目をやっただけでしたが、読み進めると、「えーっ!」「何と!」「ここまできたか!」と、思わずうなってしまいました。 記事の内容をかいつまんで。 今、話題の、「ロマンス詐欺」は、ご存知ですよね。SNSなどを通じ、恋愛感情を利用して金をだまし取る、という犯罪です。 警察庁によると、「ロ
1 「ヘルパーさん、帰ったよ。シーちゃん」 そう言いながら、階下から上がって来たタツオは、甚平とパンツをつつっと脱ぎ、無造作にベッドの足許に投げやった。そして、タオルケットをめくり、引き締まった体をシズカの脇に滑らせた。 「またまた、素っ裸になって。あとで、モリナガさんが来るんでしょう。恥ずかしいったらありゃしないわ」 「何をいまさら。それに、モリナガとは雇い手と雇い人というより、兄弟分のような間柄や。わしに不都合なことは、後継者候補のモリナガにとっても不都合なこ
ぼくとチチが、いま借りて住んでいる家には塀がない。どの温泉町でもそうなのだろうか、この別府では土地に余裕がある家が少ない。特に、細い路地に向かい合って建物が密集しているこのあたりでは、どこも狭い敷地いっぱいに建てられている。 小さいながらも造りのいい2階建て木造家屋なのだが、建物がそのまま外に向かって剥き出しな感じがするのは、ぼくにはとても気恥ずかしい。生活の場が、そのまま外の世界に続いていることに、ぼくは慣れていないのだ。これまでに住んだのはアパートで、それも、2階より
えっ! 余命? このままだと1年か2年だって? これって、だれに言ってるの? えっ! オレ? このオレ? お医者様の顔をうかがう。その視線は、たしかにぼくに向けられている。 ぼくが「余命」と言われても、医学のうえでは、ごくごく当然のことなのです。 経緯は、こうです。 元にあるのは、動脈硬化です。それに、忙しさと心づかいによる疲労が加わって、心身ともに飽和状態となり、心筋梗塞を発症したのは、41歳でした。 その後の人生は、心臓の冠状動脈に襲いかかる動脈硬化との闘
高校教師になって4年目の夏休みのことです。 その夏、学校ではキャンプが流行っていて、生徒たちの強い希望で、ぼくたち5,6人の若手教師が、クラスや部活動のキャンプを一手に引き受ける羽目になって。 ある教師が発案したのは、それぞれが違う場所でキャンプするのは、計画も実施も面倒だ、同じ場所へ行こう、しかも、公共の施設を借りることができれば省力化できるぞ、ということで、「なるほど、なるほど」と全員で納得。 「では、A島はどうだろう、定期船の便数も多いし、島の学校の前は広い砂浜が
それぞれに春の陽にくるまれて羅漢さま 老梅のくびれくびれよ 命の管よ 神様 もう盗まないで 残り少ない寿命ですから 言の葉に生きた証の濃淡あり 「ご破算に願いましては」とならないままに 枯れるまで反抗したかどくだみ茶 ぼくの道はひらがなばかり お変わりないですか あの約束は忘れません 達磨さんが転んだ ダークマターはどこじゃ
知人が大病で入院した、という。 その知人を共通して知っている人たちが、知人のことを話している。ともに、70代後半である。 「若い頃、スポーツ万能だった、あの人がねえ」 「5年ほど前に会ったとき、スポーツジムにも通っている、1日1万歩のウオーキングを欠かさない、と言っていたがねえ」 この会話をする二人は、今もほどほどに元気な人たちだ。普通の生活が、過去からこれまで、普通に継続している人たちだ。 彼らは、病気の苛酷さを知らない。 一夜にして、普通が逆転する老いの真相を知
今回の「俳句でドラマ」は、次の自由律俳句が題材です。 干涸びたみみずのさいごの抵抗 瀬崎峰永 「だから言ったじゃないか」 徳永純二 ぼくが今いる場所は、ある農家の庭の端っこの、土の上に直接置かれた植木鉢です。 植木鉢には結構大ぶりのカネノナルキが植わっていて、ぼくはその鉢の底に住んでいます。 ぼくは普段は無口で、話し下手なんです。でも、昨日とても悲しい出来事があって、誰かに聞いてもらいたくて、こうやってしゃべっています。 こういう事態になるのは予想できたので
死 相 ぼくの死相はまだ涅槃を知らないらしい 宇宙太陽系地球日本大字臼杵字死相 死相を変換 そこは永遠だった あの雲を千切って死相を作りたい 死相は「ぼく」と「生きる」の繋ぎ目か ぎょっとしたのは鏡の中の死相の方だった 「なんだか腹が減ったなあ」と死相が言ってるよ そーゆーのってぼくの死相らしくなーい ぼくの細胞のどこかに死相が寄生している 死相を保存パックに入れ拾得物として届けたい 死相の生年月日がぼくと同じだって 死相よゆっくり来いまだ時間は
本当のことは言わないは、昔も今も 村上春樹さんはエッセイを書くに当たって、時事的な話題には触れないことを原則にしているとか。ぼくもそう考えておるのですが、最近、ええっ、ということがあまりにも続くので、ついつい。 ここのところの政局は、自由民主党の、政治資金パーティーの、キックバック不記載の問題が中心です。 マスコミ報道や政治倫理審査会の答弁などを聞いていると、かねてから行われてきたものであり、慣例にそって事務局が処理したもので、従って、派閥の事務総長や役員の代議士
今、匂いに悩んでいます。 世の中、特にコロナ禍で、匂いがわからなくなった、と悩んでいる方が大勢いるらしい。ところが、ぼくは匂いに敏感すぎて困っています。 特に、魚。食べる間は問題ないのです。おいしいのです。ところが、食後数分もすると、口中に魚臭が取り憑き、ぼくを悩ませるのです。 魚のほかに、焼肉、ふろふき大根、調理の油煙の残り香も。それに、デパートの化粧品売り場や、すれちがった女性の濃い香水も、NOです。 そんな時は、ていねいに歯磨きをします。ガムを噛みます。のど飴
今回で2回目の「俳句でドラマ」。 1回目でご説明いたしましたが、この「ドラマ」の趣旨はお分かりいただけましたでしょうか。まだまだですよね。なんたって、2回目ですからねえ。 で、簡単に、もう一度。 ぼくは、人様の俳句を読んでいると、やたらと、ぼくの頭の中にドラマが浮かんでくる作品があるんです。それを、さっとすくい上げて、短い文に仕立てる。これが、結構、快感なのです。寄席の大喜利で、お題をいただいて、お客様にも、自分にも、「うーん、なるほどね」という回答ができた噺家さんの
あの日も月を見ていた 少年のぼくと決別した日 端役にもなりきれず でもそれらしいふうをして 最後までつつましく善人のままで ひょいと出てきた陽水を一日中口ずさんでいる 飲んで来し方 酔って行く末 大阪の串揚げ屋の夫婦は同郷の人だったよ 背中が寒い だから言っておきたいことがある
さてさて、みなさま。ぼくは、自由律俳句の作品をモチーフにした、短いドラマを書いています。 題材にさせてもらうのは、他人様の自由律俳句です。 北九州市に「新墾(にいはり)」という自由律俳句を定期発行している結社があります。その「新墾」の機関誌に発表された作品の中から一句を選び、短いドラマに仕立てます。10数年前から続いています。 ぼくがこのドラマを発想したのは、俳句は、原作者の句想をこえて、読者を無限で、自由なポエムの世界にいざなってくれる文学だ、と日ごろ思っているから
今日は、2つのことを書きます。 ぼくが小学6年生だったかなあ、戦争が終わって7,8年たっていたころの話です。 取るに足らないことのようだが、なぜか、ぼくの心から離れないのです。 共通するのは、父親が経営していた小さな鉄工所に関連することです。ですから、まず、その工場(こうじょう、ではなく、こうば)のことから書きます。 当時、私の父は漁船の鉄鋼部品を製作する小さな鉄工所を経営していました。経営といっても、従業員10数人の、零細な町工場です。戦前に、四国から九州にやっ