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コラム 匂い騒動事件

 今、匂いに悩んでいます。
 世の中、特にコロナ禍で、匂いがわからなくなった、と悩んでいる方が大勢いるらしい。ところが、ぼくは匂いに敏感すぎて困っています。
 特に、魚。食べる間は問題ないのです。おいしいのです。ところが、食後数分もすると、口中に魚臭が取り憑き、ぼくを悩ませるのです。
 魚のほかに、焼肉、ふろふき大根、調理の油煙の残り香も。それに、デパートの化粧品売り場や、すれちがった女性の濃い香水も、NOです。
 そんな時は、ていねいに歯磨きをします。ガムを噛みます。のど飴やチョコレートもいいみたい。それから、濃い緑茶も。
 こんなあんなで匂いに翻弄されているぼくですが、実は匂いで加害者(?)になったことが、2度ほどあるのです。
 いずれも満員のJRの電車が舞台。乗車区間は次のとおりです。
  宮崎方面←臼杵…(50分)…大分…(20分)…別府→小倉方面

丸焼きニンニク事件

 同僚7,8人と、別府の、当時まだ珍しかった韓国料理店に行きました。
 珍にして、美味。満悦至極の一同、帰路は、JR別府駅から電車で。
 ぼくを除いて、ほかの連中は大分駅で下車しました。なぜか、車内がホッと解放された感じに。
 大分駅では、乗客がどっと乗り込んできました。
 その乗客の、あっちからこっちから、「この車両、クッセェーなあ」と話すのが聞こえてきました。中には、隣の車両に移って行く乗客も。
「あっ!」
 ここで、気が付きました。
 あの店の名物料理は、丸ごとほっこりの焼きニンニク。もちろん、全員、いただきました。そのほかもニンニクたっぷりの料理が次々と。その上、電車で酔いにまかせて、はしゃいでしまいました。
 ああ、ニンニク仲間から取り残されたぼくは、自宅のある臼杵まで、この電車に座り続けなければなりません。きびしい視線をあびながら、吐く息に気づかいながら。

ケンタッキーフライドチキン事件

 マクドナルドが、ミスタードーナツが、スターバックスが、大分では「それって、何?」って頃に、やってきたのがケンタッキーフライドチキンでした。
 それも、JR大分駅から徒歩2分。
 ぼくはチキンが大好物。家庭でも、唐揚げをよく作ります。カミさんも子どもたちも大好きです。
 その頃、ぼくは電車通勤でした。普段はちょっと遅い電車ですが、その日は家族が早めに揃うというので、いつもより早い電車に乗るつもりで、職場を出ました。
 駅前に到着。見える。見える。KFC。いた。いた。サンダースおじさん。
 早速、購入。子どもたちの喜ぶ顔が目に浮かびます。
 電車は、いつもの遅い電車と違い、通学の高校生や専門学校生で超満員。かき分けて、どうにか乗り込みました。ホッカホカのチキンのパッケージは、とりあえず網棚に。
 そのうち、あっちから、こっちから、「ああ、いい匂い」「たまんねーよな」「腹、減ったあ」などのささやきが聞こえ始め、徐々に怒りと非難に高まっていく気配です。
 ぼくは、と言えば、空気の拡散防止のため、チキンの発する芳香を全部吸い込もうとしていました。が、むなしいことが分かったうえの行為は、さらにむなしさが増して……。
 ああ。

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