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俳句でドラマ 4

今回ぼくのドラマづくり細胞を刺激してくださったのは次の自由律句です。

なんというやけくそな雲だろう  磯﨑峰水


 ぼくは、空や雲を見上げるのが大好きなのですが、磯﨑さんのこの句は、雲が「やけくそ」になっている、という表現が面白くて、ドラマが浮かんできました。    

世界雲会議  徳永純二

「そろそろ会議を始めたいのだが、みんな集まってるかい。すじ雲さん、上層の雲さんたちはどうだい」
「ええ、うろこ雲、うす雲、それにすじ雲のぼくと、そろってます」
「中層の連中はどうかな」
「ひつじ雲、おぼろ雲、あま雲、全員います」
「わた雲、くもり雲、きり雲の、下層雲さんたちは」
「はい、OKです」
「じゃあ、始めましょう。今日の議長は、私、積乱雲がさせてもらいます。私は、下層から中層、上層へと対流してるんで、まあ、いろんな層の雲さんたちの状況が分かっているからね」
「で、急なお呼びとは、何があったのだい」
「うろこ雲さん。あんたは春ののんびりした時季に現れる雲だから気が付かないだろうが、このところの私たち雲の世界は尋常じゃないことが多くてね。あま雲さんもそう思うだろう」
「ああ、確かに。こっちは適当に降らそうと思っても、必要以上に、それも季節外れに、ってことがしばしばだよ」
「ぼくたちくもり雲も、時々制御不能になることがある。ぼくたち雲は水分と空気だけでできてるでしょう。そのバランスが近ごろおかしいよね。どちらも地表で発生するんだよ」
「人間たちは本気で、温暖化をなんとかしようと思ってるのかね。排出ガスの規制だって騒いでるが、どうも本気でやってるとはみえないね」
「そうなんだ、ひつじ雲さん。私たち雲と人間の関係も、かつては行雲流水といった深い精神性でつながっていたんだが、今じゃそのかけらも見当たらない」
「昔、雲と対話するんだって、ぼくたちすじ雲を飽きず眺めていた詩人もいたがね」
「最近の人間の傲慢さと言ったら、もうどうしようもないね。私たち積乱雲もいい迷惑さ。竜巻を起こすスーパーセルなんて、あれは人間の驕りの結果だよ。私はあんなに凶暴じゃないよ」
「向こうじゃ、なんてやけくそな雲だろう、って思ってますよ」
「そこなんだよ、きり雲さん。行くとこまで行かなきゃ、人間たちは気が付かないのだろうか」
「こっちで心配するのも、なんか馬鹿らしくなったね」
「そろそろ風も出てきたし、雲散しましょうよ」
「ウン、ウン、そうしよう」


・スーパーセルは、落雷や強い雨はもちろん、巻まきを発生させたり、巨大な雹(ひょう)をもたらす非常に危険な雲。

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