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小説:剣と弓と本

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セド、ナスノ、ライが「冒険」をするお話。2024/05/26第一部完。さて第二部は?
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2024年1月の記事一覧

小説:剣と弓と本005「毒」(986文字)

小説:剣と弓と本005「毒」(986文字)

「二人とも凄いです。かっこよかったです!」
 ライと名乗る少年は屈託のない笑顔を見せる。片眼鏡がきらりと光る。背負い鞄は大きく膨らんでいる。何が入っているのか。
「……セドさん、気づきましたよね? 先ほど背中に……」
「お前の仕業か?」
「勝手なことしてごめんなさい。波術・飛鳥、使ってみたんです。一時的に運動速度を上げる効果があります」
 するとナスノが、入り込む。
「ん? ということはライ、君は

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小説:剣と弓と本004「ナスノとライ」(924文字)

小説:剣と弓と本004「ナスノとライ」(924文字)

「ありがとう」
「助かったぜ」
「あなたが私たちを救った」
 と店内の者から感謝される。
 俺は反射的に行動に出ただけで彼らを救おうとしたわけではない。むしろ自分が生き残るために当たり前のことをしたまでだ。それに俺が出ずとも他の誰かが始末していたのかもしれないし、そもそも冒険者なら自分の身は自分で守るのが前提だろう。
 ただ、残念ながら一人犠牲者が出たのは事実だ。きっと彼も何らかの目的があってこの

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小説:剣と弓と本003「血」(617文字)

小説:剣と弓と本003「血」(617文字)

 俺は反射的に剣を構え、そいつに飛びかかる。右肩を軸にして上から下へ弧を描くように斬りつける。
 ガギギッという音をたてて、そのむき出しの牙が俺の剣を噛みしめる。剣を奪われてはまずい。両手で柄を強く握りしめる。
 ワニ頭は右手を振リ上げる。長い爪が光る。この俺の首を切り落とそうという魂胆のようだ。どうする? 剣を捨てバックステップで回避するか?
 その時、何かが後ろから飛来しワニ頭の右手にバシュッ

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小説:剣と弓と本002「さえずり」(942文字)

小説:剣と弓と本002「さえずり」(942文字)

 よし、これでダンジョンに入れるわけだが、その前に情報収集だな。まあ月並みだが、酒場にでも行ってみるか。

 集落の外れにバーを見つけた。『さえずり』という店名だ。最高難度とされるダンジョンのお膝元で『さえずり』とはな。まるで冒険者を雛扱いだ。まあよい。入ってみるか。
 間取りとしては、ほぼ正方形で奥がカウンターだ。壁に沿って丸形のスタンディングテーブルが点在しており、冒険者が群がっている。話し声

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小説:剣と弓と本001「セド」(482文字)

小説:剣と弓と本001「セド」(482文字)

「井戸水うめぇーーー!」
 目的の村に何とか到着した。脇目も振らず井戸に駆け寄って桶を両手で持ち上げ、浴びるように飲む。

 ろくなミッションじゃないことは分かっていた。難易度は最高クラスだと聞いている。そもそもクリアした奴いるのか。“帝国さん”のお達しだからとりあえず従うことにしてはいるが、まあ、それとは別で個人的にも興味があるから引き受けたわけだが。
 それにしても、とんでもなく遠かったな。三

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