見出し画像

帰省のついでに静岡に寄る旅行記

「そういや静岡ってあんまり行ったことないな」
帰省の寄り道先を考えているときにそう思った。

「帰省の寄り道って何やねん」という疑問にまず答えよう。僕は現在関東に住んでおり、実家は京都である。普通なら新幹線か夜行バスで一直線に行くところだが、旅行に関してタガが外れている僕は東京〜京都間の帰省すらも旅行に変えてしまうことを思いついた。

これまで僕は帰省の道すがら、北陸、信州、志摩などに寄り道旅行してきた。バスの値段が安いからと言って仙台まで足を伸ばしたこともある。寄り道レベル999の帰り道、それが「帰省」の秘めている可能性である。

さすがに仙台まで行くと寄り道と言えるのか怪しい領域だが、今回の帰省では正真正銘真っ直ぐ帰りながら寄り道をする。

今回立ち寄るのは静岡県。
ご存知の通り、東海道新幹線も東名・新東名高速も国道1号線も静岡県を通る。東京〜京都をストレートに移動するなら、必ず通ることになる県だ。

しかし、その割に立ち止まって散策する機会はそう多くない。なぜなら静岡県を通過する時、人類は皆眠っているからである。
新幹線のぞみ号で静岡県の駅を全通過するサラリーマンも、深夜に駆け抜ける夜行バスの若者も、静岡県の区間では誰一人として起きていない。いや普通に起きてるわ!と今思った人でも、きっと一度くらいは静岡が長すぎて寝たことがあるはずだ。

僕は真面目なので、その睡眠罪をいつか償わなければという気持ちを常々抱えていた。というより普通に静岡を旅行してみたいと思っていた。そういうわけで、今回静岡県に立ち寄ってみるのである。


浜松

2023年12月27日昼過ぎ。

東京から青春18きっぷを使って、普通列車を乗り継いで浜松までやってきた。人口約80万人、静岡県最大の都市である。

駅を出るとちょうど広場で大道芸を披露している若い男性がおり、手の中でガラス玉を浮かせたり筒の上でバランスを取ったりと次々繰り出される圧巻のパフォーマンスに感動していたらいつの間にか数十分ほど経っていた。

今回浜松に来たのには目的がある。今度こそ浜松餃子を食べたいのだ。

僕は今までにも何度か浜松で途中下車したことがあるが、その度にちゃんとした浜松餃子にありつくことができなかった。日本縦断の途中に降りた時も、時間がなくて一風堂(福岡発祥)の餃子で我慢した。
今日はちゃんと時間があるので、今度こそ積年の食欲を解放して美味しい浜松餃子を味わい尽くしたい。

……が、大道芸に夢中になっていたため時刻はもう14時。駅近くの店のほとんどが昼の営業を終えてしまう時間だ。しばらく歩いたものの全く当てがなく、空腹感だけが増していく。

地元の名店みたいな店を探していたがどうにも無理っぽかったので、浜松駅の隣にある遠鉄百貨店の「錦華」に行った。

浜松餃子御膳(1200円)を注文。
パリパリの皮が割れて、中から野菜と肉汁が溢れてくる。野菜が多めのあっさりした味付けで、もやしが付いてくるのが浜松餃子の特徴。数年分の浜松餃子食べたい願望がビビッドフィルターをかけていることもあって、一噛みごとにめちゃくちゃ鮮やかな味がする。でもきっとフィルターがなくても美味しい。

サラダとスープと杏仁豆腐まで付いて1200円。素晴らしいご飯だった。


弁天島

冬の短い日が傾きかけた夕方の始め、浜名湖の上に浮かぶ弁天島駅に到着。浜松からは在来線で西に10分ほど。

弁天島では、毎年冬至(12月22日頃)の前後一ヶ月間にしか見られない特別な絶景があるという。

それは、湖上に浮かぶ大鳥居の真ん中にすっぽりと夕日が沈む光景である。

少し黄色を帯びた太陽が、静かに鳥居の上で待機している。あれが鳥居に近づくまで、しばらく湖畔を散歩して待つ。

ちなみに弁天島には温泉があり、近くのホテルで日帰り入浴することもできるらしい。この日は残念ながら定休日だった。寒風が身に染みる。

だんだん辺りに人影が増えてきた。人だかりのできている場所がベストスポットのようだ。「今日はよく晴れてるねー」と地元のおじさんに話しかけられたりした。

それからさらに観客が増え、気づけば数十人の大群衆となっていた。まさか弁天島がこれほどの人気スポットだったとは。

地平線の際まで迫った太陽が、地面の影を限りなく引き延ばしていく。

そして、いよいよその時が来た。






ほんの数分間だけの、特別な夕日が沈んでいった。最後の一光が地平線に消えたとき、永遠に止まっていた時間が動き出したように、人々は息を吐いてゆっくりと散って行った。

あとに残ったのは、雲にぽつぽつと残る太陽の足跡とそれを追いかける夜の爪先。人が消えてがらんとした湖岸を振り返りながら、僕も実家に向けて駅に戻って行った。



大井川

年が明けて2024年1月6日。前日の朝に京都を出発し、昼は愛知県の大府でつけ麺を食べて岡崎城に行き、夜には名古屋で新進気鋭のミュージシャン「TOMOO」のライブに参加し、豊橋の快活CLUBで一泊して、今朝は静岡県島田市の金谷(かなや)駅にやって来た。

今日はここから大井川鐵道に乗り、途中下車しつつ大井川流域を散策する。

めっちゃくちゃ古い普通電車。時代遅れの機械音が静かに鳴り、座席は古いベッドのようにコイルが不規則に跳ねてゴヨンゴヨンしている。
大井川鐵道は様々な旧型車両を現役で走らせている「レトロ鉄道」として有名で、この電車も関西の南海電鉄から譲り受けた1958年製(車齢66年)の大ベテランである。

よく見ると肘掛けの布張りが破れたりしている。中身のウレタンが見えていて、なんだか小学校の体育倉庫を思い出す。

見えない白髭を生やした電車は、ガクンと一つ揺れて走り出した。ガチャンガチャンとよく揺れながら、意外にもそこそこスピードを出す。

金谷駅の一駅隣、新金谷駅で一旦下車。
ここからは大井川鐵道名物、蒸気機関車が牽く列車に乗って進む。

SL急行かわね路号。先頭に立つのは1930年生まれのC10形8号機。後ろに連なる旧型客車もほぼ同年代の車両で、ホーム屋根の雰囲気も相まって令和とは思えない光景が広がる。煤けるような石炭の香りもどこか懐かしい。

車内は木造。天井には扇風機があり、窓際のミニテーブルには栓抜きもある。もちろん窓も開く。

たくさんの観光客に見送られながら新金谷駅を出発。列車の前方からは走る老兵の息遣いのようなガシュッガシュッという重たい呼吸音が聞こえる。ときどき窓の外を黒い煙が流れていく。

みかん味のようかんを食べながら、窓を開けて涼しい大井川の空気を浴びる。車窓からは茶畑も見え、列車はいかにも静岡らしい風景の中を走っていく。

新金谷から40分、終点の家山駅に到着。路線はこの先の千頭駅まで繋がっているが、現在は被災運休中なので蒸気機関車はこの駅までの運転となっている。

乗客のほとんどは折り返しのSL列車か後続の普通列車に乗って金谷方面に戻るが、僕はここから2駅先まで接続運転される臨時列車に乗ってさらに先へ進む。

なぜならこの先に温泉が待っているからだ。

大井川を渡り、現在臨時の終点となっている川根温泉笹間渡駅に到着。かわねおんせんささまど。長い。

駅から5分ほど歩いて、「道の駅 川根温泉」に到着。

まずは食堂で昼食を食べる。豊富でオリジナリティのあるメニューが多く、何を食べるか食券販売機の前で5分ぐらい悩んだ。

塩とんこつラーメン(800円)。温泉の塩を使っているという一品。

塩味のせいか、美味すぎるせいか、涙が出そうになった。ラー油のピリ辛具合が絶妙。超美味い。塩のしょっぱさと風味、その後にラー油の刺激が口の中にピリピリと広がる。しょっぱいだけじゃない、ちゃんと「塩の味」がするのが素晴らしい。味の濃さも辛さも、全てのバランスが良い。これは断言できる。絶品だ。

ちなみにどのぐらい絶品かと言うと、ラーメン大好きな僕が今まで食べ歩いてきた数々のラーメンの中でも人生トップ10に入るぐらい美味い。比喩ではなく。


ラーメンを食べた後は温泉に入った。冬の昼間から入る温泉ほど最高なものはなかなかない。夏の川に脚を入れて涼むのと同じぐらい最高。真冬の冷えた体も、サラサラなお湯に浸かったらじんわり汗ばむほどに温まった。


お風呂上がり、コーヒー牛乳片手に休憩所に行く。するとそこには「人をダメにする」でお馴染みの「yogibo」が置いてあった。

途端、心の中に葛藤が生まれた。
欲に負けず、真っ当な人間として生きるべきか。
欲に負けて、「ダメ人間」に堕ちる醜態を晒すか。

欲の勝ち。

というかyogiboに勝てるわけがなかろうが。
むしろ勝ったところで一体何になるのか。人間はyogiboの餌だ。大人しく食われるが良い。そういう大人でありたい。

コーヒー牛乳が甘い。暖房が暖かい。ねっむい。もう動きたくねーーー……




しかしそういうわけにもいかず、結局まともな人間に戻って歩き始めた。僕は真の意味でのダメ人間にはなれないらしい。がっかり3:安心7。

帰りの電車に乗るため、家山駅まで歩いて戻る。

道沿いにあるお土産屋さんで名物の「川根茶」を飲ませてもらった。渋い味わいの中に美味しさがある。川根茶ソフトとかもあるらしいので、今度来た時はそれも試したい。

小さな集落の中にも茶畑がある。この地域がいかにお茶と深く関わっているかよくわかる風景だ。

家山駅から金谷行きの快速急行に乗る。最初に乗ったのと同じ電車で、夕暮れの川沿いをゆっくり揺られながら進む。

金谷駅に到着。電車を降りて振り返ると、富士山の頂が夕光を浴びてほんのりピンク色に染まっていた。なんだか近そうに見えるが、富士山の山頂まではここから80kmも離れている。それがこれだけ綺麗に見えるのは、今日の天気が素晴らしかった何よりの証拠だ。

僕は今日、大井川のほんの一端を覗いただけにすぎない。
上流の地形はもっと険しく荒々しく、まさにアドベンチャーのようになる。美味いものも面白いものも無数に転がっている。
まだまだ探りがいのある場所をまた一つ見つけられた。



--------------------



以上、帰省のついでに静岡行ってきた旅行記でした。

機会があればまた静岡行ってみたいと思います。

静岡は宇宙より広い。

それでは最後まで読んでいただきありがとうございました。

(続く)





【宣伝】
新作・旅行記マンガ「千葉のド田舎に導かれて」
BOOTHにて通販やってます!
(冒頭10ページ試し読みOK!)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?