プレーン味 Part9
憂鬱だ。もう仕事なんてやめてしまいたい。
昨日の夜、彼女の顔見ると心臓がぞうきんのように絞られる。
思った通りの顔だった。いや、思った以上の顔だった。
あまり感情を出さない彼女の顔が一気に不安全開になった。
「ちょっと考えさせて」の一言だった。
食卓も珍しく冷め切っていた。
そもそも「異動」って自分で選択できないのか。
というか優秀なら選択権を得られないのだろうか。
会社では周りにたくさん声をかけられる。
「良かったじゃん!」の声が多いが、気分とは真逆だ。
気分がどこまで落ち込んでいく。
世間体を気にして笑顔を振りまくが、いつか壊れてしまいそうだ。
もう終業時間だ。祝い酒というのに誘われる。
だが、彼女との予定があるという理由で断られる。
そんな未来が予想できるはずもないのに。
そんなことを考えていると
「話したいから飲みに行こう」と同居人から。
こういう時は決まって、悪いことを予想する。
さて、別れる時が来たかと。
”全国の男子諸君、そうだよな?”
二人で行きつけのちょっと繁盛している居酒屋に向かう。
先に入っていた同居人はちょっと疲れていそうな顔色だ。
二人ともハイボールを頼み、おつまみの「タチポン」を頼む。
ここのタチポンは死ぬ前に食べたほうがいい。
「お話とは何でしょうか」
「別れると思ってんの?」
サヨナラホームランを打たれた気分だ。
てっきり捨てられると思っていた。
覚悟はできていた。
「別に今の仕事に熱があるわけでもないし、ついていく」
彼女も覚悟はできていたらしい。
覚悟のベクトルは違うけれども。
彼女がいつもより赤かった。
お酒なのか、この決断に対してなのか、
口紅とほっぺがやけに気合が入っていた夜だった。
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