マガジンのカバー画像

掌編小説

9
ワタナベワールド全開の掌編達です。
運営しているクリエイター

#ショートショート

掌編小説 逢魔が時(ホラー描写が含まれるので苦手な方は注意してください)

6月30日。
私は死んだ。

アパートのロフトに縄をかけ、首を吊って死んだ。私の足を支えていた椅子が倒れた音と、その瞬間にかすかに見えた窓の外の風景ーー、茜色に染った夕焼け空だった。それを妙にはっきりと覚えている。

西日の入るアパートだった。朝は薄暗いが、日が傾くと窓から強烈な陽射しが差し込んだ。このアパートは逢魔が時になると不思議な異空間になった。神秘的な小宇宙だ。そこは眩しいまでの輝きを放ち

もっとみる
掌編小説 死神

掌編小説 死神

 下を向いて歩くと死神に目をつけられるらしい。もうそろそろこいつはイケるかなと思われるのだろうか。だから僕は絶対に上を向いて歩く。上を向いて歩けば涙はこぼれ落ちないし、気持ちが明るくなるような気もする。でも時々、空を眺めているとどうしようもない気持ちに襲われる。この気持ちの正体は一体何なのだろう?そう言えば何かの漫画で敵キャラが言っていた。「人は嘆く時天を仰ぐんだぜ、涙が溢れないようにな」と。そう

もっとみる
掌編小説 猫に阿片

掌編小説 猫に阿片

男が出ていった。
同棲している1LDKのアパートの家賃を支払わないので、文句を言ったら翌日出ていった。
家賃は折半だと念書を書かせるべきだったか。置き手紙には「僕を探さないでください」と書かれていた。
こういうのはもっと美しいシチュエーションで使うべきものであって、家賃を滞納して夜逃げする人間の台詞ではないと思う。

ふと目を向けた先には猫がいた。
二足歩行になった猫がダイニングテーブルの椅子に座

もっとみる