マガジンのカバー画像

掌編小説

9
ワタナベワールド全開の掌編達です。
運営しているクリエイター

#日記

むかし私が会った犬

むかし私が会った犬

 私は看護学校卒業後、勤務先の病院の寮に入っていた。その寮は病院から線路を隔てた北側にあり、直線距離で言えば200メートルにも満たないのだが、踏切があるせいで通勤にはなにかと時間を要した。

 特に準夜(勤)が終わり深夜に寮に向かうと、必ずといっていいほど踏切で足止めを食らった。貨物列車が通るのだ。貨物列車はとにかく長い。長過ぎる。全長1kmは優に超えているに違いない。冷静に考えればそんなわけがな

もっとみる
春の日の午後

春の日の午後

太陽が西に傾き始めた午後、窓のサッシを開けると庭に猫がいた。
私 「いつも庭にフンをしていくのはお前さんかい?ここは誰の縄張りか知ってのことかい?」
茶トラ猫 「小生だけではなく黒猫も仲間でございます」
私 「お前たちは食うに困ってないのかい?」
茶トラ猫 「近所の優しい姐さんが餌をくれるのです」
私「するってえと何かい?お前さん、うちの庭は雪隠なのかい?随分じゃないか」
茶トラ猫「生理現象ですか

もっとみる
掌編小説 死神

掌編小説 死神

 下を向いて歩くと死神に目をつけられるらしい。もうそろそろこいつはイケるかなと思われるのだろうか。だから僕は絶対に上を向いて歩く。上を向いて歩けば涙はこぼれ落ちないし、気持ちが明るくなるような気もする。でも時々、空を眺めているとどうしようもない気持ちに襲われる。この気持ちの正体は一体何なのだろう?そう言えば何かの漫画で敵キャラが言っていた。「人は嘆く時天を仰ぐんだぜ、涙が溢れないようにな」と。そう

もっとみる
掌編小説 猫に阿片

掌編小説 猫に阿片

男が出ていった。
同棲している1LDKのアパートの家賃を支払わないので、文句を言ったら翌日出ていった。
家賃は折半だと念書を書かせるべきだったか。置き手紙には「僕を探さないでください」と書かれていた。
こういうのはもっと美しいシチュエーションで使うべきものであって、家賃を滞納して夜逃げする人間の台詞ではないと思う。

ふと目を向けた先には猫がいた。
二足歩行になった猫がダイニングテーブルの椅子に座

もっとみる