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地に足をつけて生きていく。

僕は「一朗さんはすごいですね」と言われたかった。

若い頃、言われたことはある。でも、ここ数十年、そんな言葉を言ってくれる人はいなくなった。理由は簡単だ。凄くなくなったからだ。わははは。ちなみに演劇部で言われた。舞台の上で元気に跳ね回っていたら、お客さんからも劇団員からも褒められた。僕は満足した。

数年がたち、僕は元気を失っていった。僕という容器に入っていた「元気」は有限だったのだ。つまり、容器が空になったのだ。僕は褒められた味だけを忘れられず、演劇をしたりしなかったりの存在になり、周りに迷惑をかけ、その街を去った。今の僕は演劇のことを思い出すだけで、嫌な気持ちが顔を出す。闇の記憶になっているらしい。フタもしている。時々、思い出してフタをずらしてみるが、嫌な気が立ち上りかけるので慌てて閉める。

演劇との出会いは良かった。のめりこむのも若さの特権だ。ただ土台がなかった。人は睡眠が必要で、食事が必要で、住むところ、着るもの、お金、時間の管理も必要だ。学生だったので講義に出ることも必要だ。歯磨き、ヒゲソリ、お風呂も、もちろん必要だ。それらが出来た上で残された時間を、演劇に充てられれば良かったのだ。僕は、それらの土台をほっぽらかして演劇にのめりこんだ。「凄い」と言われたかったから。

最初は凄かったんだろうね。実際言われたし。それから10年が経ち、中身が空になった時、演劇を支えているはずだったものが、スカスカだったことが露呈し、僕は病院に駆け込み、統合失調症の診断を受けた。僕は精神障害者になり、人生の幕が一度降りた。

それから20年が経った。今は、関東の地方都市で一人暮らしをし、医療と福祉のお世話になりながら、少しのバイトをしつつ、生きている。第一幕でおざなりにした「人生の一段目」から積み上げている。人が生きていくためには土台から積んでいかなくてはならないことを、僕はようやく分かってきた。これが人生の第二幕のテーマなのだろう。

これからは、地に足をつけて、生きていきます。失敗しながら。

読んでくださって、ありがとうございました。
お互い、今日が、いい日でありますように(^_^)。

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