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「ぼくは青くて透明で」窪美澄 感想


文藝春秋 2024年3月22日読了

         あらすじ
 高校一年の夏、ぼくは彼に恋をした。
 「ぼく」(羽田海)は、血の繋がらない継母の美佐子さんと二人暮らしをしている。ぼくが高校一年の夏に、美佐子さんの仕事の都合で引っ越しをすることになった。前の町で美佐子さんが勤めていた印刷会社が倒産したのだ。幼いころは父さんと母さんがいたけれど、ぼくが六歳のときに母さんは家を出ていき、その後美佐子さんと結婚した父さんもどこかに行ってしまった。勉強も好きじゃないし、運動も得意じゃない。いつか美佐子さんとも離れなくちゃいけない。そんなとき、「ぼく」は、転校先の高校で忍と出会った……。出会ってしまった。

文藝春秋公式 本の話より引用


「ぼくは青くて透明で」 窪美澄


 とてもよかったぁ。海くんと忍くんの関係だけでなく、海くんの継母や父親、同級生の視点などを、一話ずつ重ねながら進む物語は、多面的で一方の思い込みを柔らかく解いていく。
 文章ってきっと相性があるんだと思う。どんなに読みやすい文体でも読みづらく感じることはあるし、逆に難しそうでもすんなり頭に入っていって、スラスラ読めることもある。窪美澄さんの作品は、とても読みやすくて、情景が頭に浮かび、登場人物たちの気持ちに傾倒して一喜一憂してしまう。頭の中に言葉がすっと入ってきて、物語に没頭できました。文章が簡単ということではなく、自分との呼吸が合う感じ、ストレスがないっていうのは凄くいい。

 人を好きになるって、幸せな気持ちだけで成立していないんだな、と思ったら、途端に怖くなった。
誰かを好きになるってことは、本当はとても怖いこと。自分の、だけでなく、相手のいろんな事情をも背負うことになる。そこまでわかっていても、ぼくは忍のことをこのまま曖昧にはしておけなかった。

233頁 最終話 海 


 その怖さを背負い、忍の元へ行く海くんに、ずっと祈るような気持ちで読んでいた。それはきっと現実が脳裏をよぎるから。
 そんな中で、璃子と沙織の関係が結構好きかも。
 ネタバレは今回したくないので、そこは割愛します。
 読みやすさのもう一つの理由に、語り手が海と忍の周辺人物だったこと、しかも彼らは二人の関係を否定する側の人間じゃなかったことにあると思う。これが忍の両親だったら……きっとしんどくて読み進めるのがつらかったかもしれない。意図してだと思うけど、窪美澄さん自身もなんとなくそんな彼らに対して、こういうひとたちが周りにいてくれたならと、祈りが込められているような気がしてならない。

 窪美澄さんの作品を読むのは、実は初めて。とてもよかったので、他の本も読んでみたくなりました。


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