よいどれみどり

毎週一つ作品を投稿します。自己満足が目的です。コンセプトは変わり身 Mon verr…

よいどれみどり

毎週一つ作品を投稿します。自己満足が目的です。コンセプトは変わり身 Mon verre n'est pas grand, mais je bois dans mon verre.

最近の記事

『開けてくれ!』②(完)

あらすじ:あけない夜もあるのかもしれない…とか考えてましたが、やっとあけてくれましたね。よかった、よかった。(とあるチームの話…1勝9敗って…) 『開けてくれ!』 「停車駅が一つもないだって?そんな馬鹿なことがあるわけないだろ、○○線にそんな電車はない!“終点”…一体何言ってんだ?“終点”っていったい何のことだよ、何処のことだ!」 狼狽する馬橋の様子に薄笑いを浮かべながら男は答えた。 「さあねえ、“終点”がどこにあるのか、そりゃ私もよく知らないんですよ。いや私ばかりじゃな

    • 『開けてくれ!』①

      あらすじ:今回のお話も原作ありです。円谷プロ制作『ウルトラQ』第28話「あけてくれ!」より表題と基本的な構想をお借りしました。(と、言って作品そのものを見たことはないような気もするのですが…) 『開けてくれ!』  その夜は翌朝に重要な用事があったから、仲間たちとの飲み会を一人早引けして、馬橋恭介はY駅に向かって歩いていた。早引け、といっても馬橋が乗ろうとするのはY駅発の最終電車だったので、繁華街から大通りを一つ隔てればもう人の気配はなく、ひっそりと静まり返ったY駅までの一

      • 改作ドラえもん『空気中継衛星』③匂売り(後半)

        あらすじ:大分暖かくなってきましたね 「匂売り」② 「それ、なあに?」少女は老人の牽く荷台を指さして言った。 「これはね、わたしの商売道具さ。わたしはこれを持ち歩いて、いろんなところを回っているんだよ」老人は言った。 「お店屋さん?」 「うん、そんなところだね」 「何のお店屋さんなの?」 「気になるかい?」少女はコクリとうなづいた。 「よし…じゃあ、ちょっとだけ見せてあげよう」  ニッコリと笑ってそう言うと、老人は荷台にかけられた臙脂色のカーテンをめくってみせた。荷台の中

        • 改作ドラえもん『空気中継衛星』②匂売り(前半)

          あらすじ:先週、ちょっと立て込んでいて投稿ができませんでした。なるべく週一回のペースを守りたいですね… 改作ドラえもん『空気中継衛星』 「匂売り」 うだるような夏の日暮れの、物寂しい町外れの道を、ひとりの少女が歩いている。長く長く、歩いている。 行く宛てはなかった。 「お外で遊んでおいで」と父に促されるまま、どうしようもなく家を出て、それからずっと、歩いていた。 帰る宛てもなかった。 だから、ただひたすらに、砂利を踏む自分の足先を見て、見知らぬ場所へ、身を捨てるように少

        『開けてくれ!』②(完)

          改作ドラえもん『空気中継衛星』①陽だまりの庭

          あらすじ:藤子・F・不二雄先生作『ドラえもん』から『空気中継衛星』という話に着想を得て作りました。と、いっても話の内容はほとんど関係ないです。 改作ドラえもん『空気中継衛星』 陽だまりの庭  五月晴れの陽だまりの庭で、一人の老婆が籐椅子に腰かけている。深い皺の間から、わずかに開いた瞳で、生け垣近くの鬱蒼とした暗がりを見つめている。この老婆の他に、庭に人影はない。先刻、施設の職員が老婆に宛てられた郵便物を手渡しに来たきりだ。  ○○園に入居して一年、庭先に据えられたこの籐

          改作ドラえもん『空気中継衛星』①陽だまりの庭

          『珠のような』

          あらすじ:あるとも知れぬ、珠のような… 「あなたはどうして、私のことを好きになったの?」 春の雨のような彼女の黒髪を梳く男の手にぞっとして、梨砂は男に尋ねた。 言葉につまる男の返事を待たずに、続けて言った。 「教えてあげましょう」 「私が、みんなに愛されているから、私と一緒にいるとみんなに羨ましがられるから」 「だから、誰も私を愛していないなら、あなたの綺麗な装飾品でなくなるなら、あなたはきっとわたしを捨てるでしょう」  そして、呆然として、彼女の髪に虫の抜け殻のように引っ

          『珠のような』

          『カルロスの夕暮れ』②(完)

          あらすじ:自分が死んだ一日をもう一度生き直す男、カルロス。彼は上司フェルディナンをからかおうと、職場に赴くが…  昼食に出掛けた社員が戻っていないらしく、建物の中は人気が少なかった。入口の左手に設けられた受付には女職員が一名、億劫げに手元のパソコンを動かしていた。この女職員はドアが開いたのを見て眼だけをそちらに向けたが、それが顔馴染みのカルロスだと分かると、直ぐに視線を戻してしまった。カルロスはよろけるように、受付の方に近付いて、カウンターにもたれかかりながら、彼女に挨拶を

          『カルロスの夕暮れ』②(完)

          『カルロスの夕暮れ』①

          あらすじ:ある思いがけない出来事で死んでしまった男は、人生最後の一日をやり直すが… 『カルロスの夕暮れ』 お願いだ! 俺はあの最後の1日をもう一度生き直してみたいんだ。 どう足掻いても、死を免れることはできないって? 承知の上だ。俺は生き延びようとするんじゃない、死ぬとわかって生きる1日がどんなものか味わってみたいんだ。 だってそうだろう? 病気のやつならばともかく、俺みたいな死に様をしたやつは、自分が死ぬことを考える時間なんて全くなかったんだからな、そいつは少々味気ない

          『カルロスの夕暮れ』①

          『黒猫』

           黒猫 「嫌な夢を見たんだ」 と、僕は起きがけに、彼女に言った。「どんな夢?」キッチンで朝ご飯の支度をしていた有彩は、僕の方に目を向けずにそう聞き返した。 僕はちょっと言葉に詰まった。自分から言い出しておいて、変なもの。柔らかい朝の陽ざしが籠る部屋の中に、キッチンから、食器のぶつかる甲高い音だけが響いていた。 「嫌な夢って人に話さない方がいいっていうもんね。」 と笑いかけながら、彼女は、出来上がった朝ごはんをテーブルに運んできた。 「黒猫のね、夢なんだ。」と、僕はご飯を食