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【本の紹介】車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』(文春文庫)

□難度【★★★☆☆】
ストーリーを追うだけなら難しくはない。だが、車谷長吉の独特の文体、心理描写など、細部にこだわりながら読むならば、決して一筋縄ではいかない書かれ方であると言える。そういった意味での"難解さ"は、十分に味わうことができるだろう。

□内容、感想など
車谷長吉の小説は、皆、「私」の心理描写が屈託している。ストレートな理解を許さない。ひねくれている。絡み合っている。こんがらがっている。そして「私」は、その錯綜した思いを、手持ちの言葉を"たどたどしく"用い、"不器用"につむぐ。しかしそのぎこちない織り成し方が、逆に、恐ろしいほどの切迫性、リアリティを生むのである。人の心のうちは、言葉で明晰に表すことなどできないものなのだ。
なお、露骨な性愛描写が随所にあるので、そうしたものを苦手とする人は、読むのを避けたほうがよいだろう。しかしながら、物語を結末まで読み終えたなら、その性愛描写をめぐる嫌悪感も、ただ一言、切ない…という思いに昇華されてゆくに違いない。その点だけは、間違いないと保証する。僕は、傑作だと思う。

□こんな人にオススメ
・明治以来の自然主義的な文学が好きなひと。
・文学を通じて虚無を感じたい人。
・文学を通じて絶望を感じたい人。


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