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【本の紹介】石垣りん『表札など』(童話屋)

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□難度【★★☆☆☆】
現代詩としては、平易な書かれ方をしている。もっとも、積極的に意味を解釈していこうとすると一筋縄ではいかないところも多々あるが。平易な言葉や文構造で書かれてはいるが、けっしてカンタンというわけではない、といったところか。

□内容、感想など
石垣りんの詩で最も人口に膾炙した作品は、たぶん、「シジミ」だろう。以下に全文を引用しておく。

夜中に目を覚ました。
ゆうべ買つたシジミたちが
台所のすみで
口をあけて生きていた

「夜が明けたら
ドレモコレモ
ミンナクツテヤル」

鬼ババの笑いを
私は笑つた。
それから先は
うつすら口をあけて
寝るよりほかに私の夜はなかつた。

例えば、「口をあけて」いる「シジミ」たち(第一連)と、「うつすら口をあけて」いる「私」(最終連)とが、重ね合わせて描かれていることはすぐにわかるだろう。
となると、「シジミ」たちを見つめる「鬼ババ」としての「私」がいるのだから、「私」の寝顔を俯瞰する、より高次な存在が仮想されている可能性があるわけだ。
「私」を残酷に凝視する、より高次の何か。
それが神か悪魔かはわからないけれど、その何かは、「私」が明日シジミを食べてしまうのと同じように、いつか、「私」の命を食べてしまうのかもしれない。つまりそれは、過ぎゆく時間の象徴ということなのか…などという解釈を存分に楽しめる、詩を読むことの醍醐味を教えてくれる作品だ。

□こんな人にオススメ
・詩には興味があるけれど、コテコテの現代詩はちょっと厳しい…という人。
・解釈好きな人。


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