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ゲンバノミライ(仮)

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被災した街の復興プロジェクトを舞台に、現場を取り巻く人たちや工事につながっている人たちの日常や思いを短く綴っていきます。※完全なるフィクションです。実在の人物や組織、場所、技術な…
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2021年12月の記事一覧

第59話 しっかりしろ達也先輩

第59話 しっかりしろ達也先輩

はあ…。ため息が出た。
楽しそうに食事をする若いカップルが目に付く。

今年はクリスマスが週末に重なる黄金パターン。感染症の不安はまだつきまとっているが、感染者数は何とか低水準にとどまっていることもあって、街には人手が戻っている。
自分だって、いちゃいちゃしたい。だが、電気設備会社の技術者として働く奥山達也はいつものように仕事だった。

クリスマスイブだった昨夜も現場は通常通り。残業して帰ったら1

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第58話 相棒思いの信さん

第58話 相棒思いの信さん

塩化ビニールの排水管がゆっくりと所定の位置に寄ってくる。
あらかじめ設置してある片側の固定金具にぴったりとはまった。
据え付けの軸線にしっかりと沿っている。鉛直の精度も所定の範囲内だ。
大塚信は、スマートグラスをいったん外して上下の取り合いや異常が無いことを確認すると、反対側の固定金具をはめて、ボルトを軽く差し込んだ。
再び、スマートグラスを装着して、タブレット端末からOKを指示した。ボルトを締め

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ゲンバノミライ(仮) 第57話 丸の智さん

ゲンバノミライ(仮) 第57話 丸の智さん

自分にとって大事な仕事になる。そう思って乗り込んだ現場に、よりによってあの人がいるなんて。運が悪いというか、何というか。いや、むしろ、天が与えてくれたチャンスと思うべきなのか。
大事なのは平常心だ。磨き上げてきた自分の腕を信じて、いつも通り、一つ一つの作業を精緻に進めていけば良い。

真っ暗で高いと同時に深い縦穴。転落すれば命を失う危険な場所だ。巨大な生物が息を吸い上げるように風が下から上へと通り

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