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ひきこもりのアリ

ひきこもりのアリ、それはおれのことです。
今日アリはほとんど巣の外に出なかったけど、
それでも巣の中でめっちゃ動いてた。
今日一日でたくさんの大きな変化があった。
それについてザックバランに書いていこうと思う。

アリは今日、警備会社に面接の辞退の電話をしました。
アリの中には「あまり働きたくない」という思いがあって、その思いと勤務形態が合ってなかったので、応募をやめることにしました。

「もう自分の望まぬ条件で働かなくていい」
そう思ったら、開放感でいっぱいになりました。

その一方で、面接の日程を考えてくれていた会社に申し訳ない気持ちになりました。そして「おまえはまだ働かないのか」という、自責の気持ちがわいてきました。

この自責の気持ちっていうのは、本当にくだらないと思う。

自分を責めてどうすんの。
そうやって自分を責めてるおまえは、いつか他人を責めるよな。
きびしい言葉と、きびしい態度で。

自分を責めてるから、自分を許してないから、
そんなことになるんだよ。

おまえは自分にやさしくできてないから、
人にもやさしくできないんだよ。

そういうことはすごく本当だと思うけど、
でも今日はその自責の念を利用して、
いままで怠けていた、やらなければならないことをやるというエネルギーに転換しました。

ずっと捨てるはずだったけど、そのまま放置していた、リビングのソファ。

ずっとこの中に放置していた
そしたらソファにカビが生えてきていた

これを粗大ごみにだすことにした。
今までは、「もしかしたら元奥さんが手伝ってくれるかも」と思いながら、押し入れの中で放置していた。

でも彼女も忙しいだろうし、自分たちを家から追い出した凶悪な元夫のゴミ捨てなんて、手伝いたくないだろう。車を出したくないだろう。

彼女を待つのをやめて、自分ひとりで何とかしてしまおう。

粗大ごみを出すのは、あっけにとられるほど簡単だった。
こんな簡単に手続きが終了するなら、もっとはやく済ませておけばよかった。

やる前からおれは、「きっとすごくめんどくさい」「やりたくない」って思ってた。思い込んでいた。

でも働くのを辞めた罪悪感に駆られて重い腰を上げてみたら、拍子抜けするくらいあっけなく手続きは終わった。

いままでおれはなにをモタモタしていたのだろう。

ソファに生えたカビ。
申し訳ない。
おれが長い間、収納の中で放置していたから。
生えるはずのなかったカビを、生やしてしまった。

おれはソファについたカビを、濡れた雑巾でふき取った。
そしてソファに謝った。

ひどいことをしてごめんね。
ずっと最後までおれと一緒にいてくれたのに、捨てることになってごめんね。収納にしまいっぱなしにしてごめんね。

おれはものにも命があると思う。
生き物だけじゃなくて無機物にも命があると思う。
気持ちがあると思う。

このソファを買った日のことを、覚えている。
家族のみんながこのソファで寛いでいたことを覚えている。

みんないなくなってしまった。
この家にはおれだけになってしまった。

おれは感傷的な男だ。

みんなとの思い出がある品々を、
ここ3か月かけて少しずつ処分をしてきたが、
その作業は本当につらかった。

でもすべてはおれが蒔いた種。

①おれは自分を追い出すか、
②それとも元家族を追い出すか、

その究極の選択に迫られ、
一時は「自分を追い出す」という選択肢をした。
けど最後の最期で思い直した。

いままで自分で自分を雑に扱ってきた。
自分で自分につらく当たってきた。

大好きな元家族に「出ていけ」というのは本当につらいけど、
でもこれ以上自分につらく当たることはできないって思った。

自分にやさしくしてあげたかった。

だっておれはそれまでの人生で、
自分よりも家族を大事にしてきたから。

でもその陰で、きっとおれは泣いていた。
「なんでボクにそんなこと言うの」って。
「なんでみんなにはやさしいのに、ボクにだけひどいこと言うの」って。

だからおれは言ったんだ。
「おまえは出て行かなくていいよ」って。
「おれがみんなを出て行かせるから、おまえは安心してこの家にすみな」って。

こんなのは、正解なんてないんだ。

元家族のために出て行くお父さんは正しいし、立派だと思う。
でも、こうして最後の最期でようやく自分にやさしくできたおれも立派だと思う。

わかってくれる人は少ないかもしれない。
でも、おれは自分が立派なことをしたんだと思いたい。

大好きなみんなを、この家から追い出した。
本当にかわいそうなことをした。

その事実は深く深く今も胸に刺さるけど、
でも少しずつ痛みも癒えてきている。

いつまでも、元家族のことを考えているヒマはない。
振り返って、わざわざ悲しい場所まで戻る必要もない。

そのために、
おれはこの家に残っている彼らの残り香を、
可能な限り処分しないといけない。


そうやって心理的にも、物理的にも、彼らから卒業したい。

別れじゃない。
卒業。

世間みんなの同意や理解は得られないかもしれないけど、
それでもおれは、立派にやり遂げたと思う。

誰もできないことをした。
どんなお父さんもできないことをした。

おれはおれにしかできないことを、
見事やり遂げた。

それだけを胸に刻んで、
これから生きていきたい。


今日はずっと気になっていた、カーテンの汚れをきれいにした。
1歩前進できた。

そしてなんと今日、おれは新しい会社に応募をした。

会社の面接の辞退をしたその日に、
別の新しい求人に応募した。明日面接に行ってくる。
もう履歴書は書いたし、必要なものもそろえた。

明日面接に行く会社も、どうなるかわからない。
働き方がおれと合ってない、おれの希望する働き方をさせてくれないのであれば、辞退をして帰ってくると思う。

それでも、今日はぐんと前に進めた。


面接の辞退、
ソファを粗大ごみで捨てる手続き、
カーテンの洗濯、
新しい会社への応募、
履歴書の準備、

いままでダラダラなにもしていなかったのがウソみたいに、
今日一日でいろんなことができた。

アリは巣の中にいた。
セブンイレブンに粗大ごみ処理券を買いに行っただけで、
今日も巣の中にとじこもっていたけど、

でもアリは巣の中で一生懸命動いていたよ。


明日は14時から面接です。

おれの人生は、どうなっていくんだろう。
どこへ転がっていくんだろう。

楽しませてほしい。
最高の未来へと、転がっていきたい。

おれは50歳だけど、なにもあきらめてないよ。



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