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【大腸内視鏡検査 ①】

その日は〈大腸内視鏡検査〉の日だった。

僕は3年前に大腸癌の手術をした。〈癌〉はステージ1という軽いものだったので、1週間で退院できるはずだったのだが、〈腹腔鏡術式〉で繋いだ大腸の縫い目から便が洩れて腹膜炎を併発し、開腹手術をして一時的な人工肛門を着け、また人工肛門を閉じて普通に戻すなど、結局、延べ5ヶ月の入院生活を過ごすことになってしまった。

退院してから特に変わったことはないのだが、5年間、半年に1度は〈CT検査〉や〈内視鏡検査〉の追跡検診を受けなければならなかった。

〈内視鏡検査〉は肛門からカメラを挿入して大腸の内部を観察検査するというものなのだが、便があっては検査が出来ないので、前日から腸内をキレイにする作業を始めなければならない。

まず前日の朝食から食事制限が掛かって、〈海苔なしのオムスビ〉や〈卵焼き〉〈パン〉〈うどん〉〈バニラアイス・ヨーグルト〉などの繊維質の無いものを食べなければならない。病院が指定する既成の〈3食セット〉も売っているのだが、自分で調整して食べても差し支えはないのだ。

逆に〈苺・葡萄・ミカン・西瓜〉などの果物類や〈キノコ・牛蒡・サツマイモ・葱〉などの野菜、〈昆布・ワカメ・海苔〉などの海藻類は御法度なのである。繊維質が良くないらしいのだ。

前日の3食は極力消化し易いものを食べながら出来るだけ水分を摂り、就寝前の午後9時には病院が処方した〈下剤〉を飲まなければならない。

すると夜中に便意が襲ってきて何度もトイレに行くことになるので、当然ユックリと寝てなどはいられない 。

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そうしてトイレ通いの一夜が明ける。朝食は絶食である。水分だけを摂って病院へと向かう。

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受付を済ませて検査室前に行くと、朝一番からもう数人の予約患者が集まっている。結局、その日は男女合わせて19人が検査を受けるということになった。

〈検査準備室〉に集められた19人に、担当の女性看護師から検査についての説明が始まった。

「皆さん、今日は朝早くからご苦労様です。今から今日の検査についての説明をさせて頂きますのでよろしくお願い致します。まず、目の前にある腸を洗浄するお薬なんですが、2リットルあります。それを、まず1時間掛けて1リットル飲んで頂きます。その間、ご用意して頂いている〈お水〉なり〈お茶〉を500cc.は飲んで下さい。味の付いた水や炭酸水はお薬と相性が悪いので避けて下さいね・・・・・」

要するに〈下剤〉のようなものを飲む訳なのだ。少しだけドロッとしていて味はスポーツドリンクをもっと甘くした感じだ。

〈お薬〉1リットルと〈水・茶〉500cc.を飲むと流石に腹がパンパンに張る。暫くは便など出そうな感じはしないのだが、30分経った頃から便意がやってくる。

最初は軟らかい便が出るのだが、回数を重ねる毎に殆んど水便になっていく。3回目くらいからは、そこまで便意がないのに、便器に座った途端にシャーッと水便が出たりするので、トイレに入っていない時に油断しているとパンツやズボンの中に洩らしてしまい兼ねないので注意が必要だ。

水便が茶色から黄色に変わってきたので、流す前にトイレのナースコールボタンを押す。すると暫くして先ほど説明をしてくれた担当の看護師さんが〈ウ〇コ〉の監査にやって来る。

「コンコン!失礼しますよぉ~!あぁ~・・だいぶキレイになりましたけど、まだ少し粒々がありますね。も一回見てみましょうか」

もう6回目のトイレなのにまだOKが出ないのだ。

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《おっ!来たかな?》

7回目のトイレに急いだ。いくつもある検査用トイレの中の、鍵が〈あき〉になっているドアを軽くノックして開けようとすると中から年配らしき女性の声がした。検査用トイレは男女兼用なのだ。

「は~い、入ってますよ~」

「わっ!失礼しましたっ❗️」

《鍵は掛けてよ~》

寸前で開けるところだった。慌てて退散して他のトイレに入ったのだった。

そうして7回目の〈便検査〉でやっと合格を貰った僕は、ようやく次の工程の〈内視鏡検査〉に進んで行くのであった。(つづく)

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