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【塩の小瓶】

僕が中学生の時の話である。

クラスの男子に、塩を入れた小瓶を、いつでも持ち歩いているという変なヤツがいた。

それをどうするのかと言えば、昼食後、こともあろうに胃袋から口の中に戻した内容物に塩を足して味付けをし直し、またモグモグと喰うという訳なのである。

牛じゃあるまいし、実に気持ちの悪いヤツなのだ。

それを授業中でもやるのだから、隣に座っている生徒には嫌われた。

「うぇぇ~っ❗️きたなぁ~」

・・・・・・・

そんな変人なのだが、両親が2人とも学校の教師をしているというチャンとした家庭で生まれ育った子供だったし、彼も生徒会の役員をやるくらいに勉強も出来たのだ。

ただ、教師である母親が男を作って駆け落ちしてしまったという悲しい体験を持ち合わせてはいた。

そして変人の域が、なにも〈塩の小瓶〉の件だけではないのだ。

さて、ある日の音楽の授業中のことであった。彼はなんの前触れもなく大きな声でこう言った。

「2階の女がションベンひったぁ~っ❗️」

意味不明の言葉に驚いた先生が言う。

「おまえ、なに言ってんだ❗️❓️」

それでも悪びれる様子もなく、ニコニコと笑っている彼なのであった。

中学を卒業すると、成績が良かった彼は都会の高校への進学が決まっていたので、やがて町を出ていった。

変人を絵に描いたような〈変なヤツ〉だったが、それ以来、1度も会ったことはない。だから、彼がどのような人生を送ったのかは全く知らない。


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