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SDGsの真実 【持続可能な開発目標で得をするのは誰か?】


持続可能な開発目標(SDGs)という言葉を、メディアや学校、職場などで聞いたことがある人は多いだろう。

SDGsとは、2015年の国連サミットで取り決められた、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際的な目標」のことだ。

SDGsは、「貧困を終わらせ、地球上のすべての人が尊厳と機会のある生活をおくれるようにする」ための行動を、政府・企業・個人に呼びかけている。


2006年、国連が、

“投資家は、投資する基準として、その会社が環境や社会への責任を果たしているかどうかを重視すべきだ”

と提言し、投資を受ける企業にとって「環境や社会への貢献」を考えることが不可欠となったが、この点でもSDGsは企業の行動指標になっている。

このような経緯もあり、世界におけるSDGsの認知度は年々上がり、日本においても多くの人がSDGsに携わっている。



経済成長・環境保護・不平等削減の同時達成?


ここで、SDGsを構成する17のゴールを見てみよう。


何の落ち度もない、理想の目標のように見える。

しかし、よく見ると、

・経済成長
・環境保護
・不平等削減

が同系列で記されていることが分かるだろう。

SDGs作成時、国連の主要な支援機関(世界銀行、EU、USAID、DFIDなど)は、世界の貧困層の経済成長を促す必要性を強調した。

地球上すべての国が経済発展を遂げた場合、その環境汚染の受け皿になる惑星が5つあっても足りないというデータもあるが、

はたして、SDGsが示す「経済成長・環境保護・不平等削減の同時達成」は可能なのだろうか。



グローバル企業によるパームオイル産業の例

SDGsの作成に深く関与し、率先して遂行しているのは、国連と強い利害関係を持つ「グローバル企業」だ。そして、その多くは、後進国の資源や労働者の搾取によって財を成している。

ここでは、アフリカにおけるグローバル企業主体のパームオイル産業の実態を取り上げる。

① 環境破壊

グローバル企業が主導権を握るパームオイル産業では、単作や工場廃水による環境破壊がSDGsの指標に反して進んでいる。

グローバル企業の圧力により、小規模農家は自分たちの食糧を栽培する機会を犠牲にして、パームオイルの単一栽培を余儀なくされている。
また、アブラヤシの単一栽培は植物病の発生率を高める可能性がある。

さらに、パームオイル工場廃水は、水や土壌を汚染し、それに伴う藻類の極端な成長は、地域の漁業資源の減少につながる。

また、パームオイル栽培時に使用される農薬は、土壌や水質を汚染し、健康被害につながる懸念がある。

② 労働者権利のはく奪

ガーナのクフーオール政府は、パームオイル生産における小規模農家組合の設立を支援するため、Corporate Village Enterprises (COVEs)を発足した。

これにより、パームオイル小規模農家の生産力や、加工業者との交渉力の向上が期待された。

しかし、小規模農家組合の設立による貧しい農家の地位向上を目的とするCOVEsは、グローバル企業による既存の大規模生産や市場支配、外国投資家の利益にとって脅威となる。

その為、COVEsの設立は、国連を支援するグローバル企業と投資家に妨害され、失敗に終わった。


アフリカでこのような弊害を生み出しているグローバル企業の代表格が、SDGsに作成の段階から関わり、その達成を支援し続けている「Unilever(ユニリーバ)」だ。

オランダとイギリスに本拠を置く世界有数の一般消費財メーカーのユニリーバは、パームオイルの世界最大のエンドユーザーであり、そのビジネスモデルはパームオイルの生産と利用の両方に依存している。

ユニリーバは、森林保全、男女平等、水質改善、人道支援など様々な分野において世界各地で、国際機関や政府、他企業とパートナーシップを結び、SDGsに基づいたプロジェクトを実施している。

また、2016年にはポール・ポールマン(前ユニリーバCEO)が、国連グローバル目標の事務総長アドボカシー・グループの一員となっている。

このように、ユニリーバは、SDGsの実施において重要な役割を果たしており、大きな影響力を持っている。

しかしその実態は、アフリカの環境破壊や労働者権利のはく奪を推し進める、集約的なビジネスである。

このように、ユニリーバなどのグローバル企業は、SGDsを掲げ、「持続可能性」という言葉を企業のブランド化に利用することで、消費者から信頼を得、その環境的・社会的搾取の実態を隠すことに成功している。


SDGs の問題点

グローバル企業によるパームオイル産業の例からも見えてくる、SDGsの問題点をまとめてみる。

・ SDGsは、GDPで測定される持続的な経済成長を目指している為、「地球上の誰一人取り残さず、平和的な開発を促進する」プロジェクトであるはずが、社会的公正を求める人々の政治的闘争を弱体化させているという側面がある。
・ SDGsには、「自由貿易や援助という名の干渉によって権力の不平等が永続する構造の根本的解決」という課題が含まれていない。むしろ一部の権力者がその構造を維持する仕組みになっている。
・ SDGsでは、資源の効率的な使用が強調され、これは結果的に、持続的な消費と生産による環境破壊につながる。


これらの問題は、資本主義やグローバル社会の構造と複雑に絡み合っているため、簡単に解決できるものではない。

グローバルビジネスには様々な問題点があるが、ユニリーバは、2039年までにゼロエミッション(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を目指すなど、グローバル企業だからこそできる大規模なプロジェクトで、世界に貢献しようともしている。

そしてもちろん、SDGsには、地球や人類の存続のために必要なこともたくさん記されており、その目標に向かって尽力されている方々には敬意を表したい。

この記事で伝えたいことは、何か新しいものを目にしたら、それを疑うことなく鵜呑みにするのではなく、「どんな背景で、誰が、なぜそれを行うのか」と一度立ち止まって考えることの大切さだ。

以上、本記事では、SDGsのクリーンなイメージを巧みに使いながら、人権や環境を損なっている “権力” について考察した。




参考文献

Langan, M. (2018) The UN Sustainable Development Goals and Neo-Colonialism, in: Neo-Colonialism and the Poverty of “Development” in Africa. Springer International Publishing, pp. 177–205.

Sachs, W. (2017) The Sustainable Development Goals and Laudato si’ : varieties of Post-Development? Third World Quarterly 38, pp. 2573–2587. Available at: https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01436597.2017.1350822

Seymour, F. (2017) A Corporate Giant’s Role in Reducing Climate Change and Promoting Development: A Conversation with Unilever’s Paul Polman. Available at: https://www.cgdev.org/blog/corporate-giants-role-reducing-climate-change-and-promoting-development-conversation-unilever


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