4杯目 リバース
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客様がやって来ました。今日はどんな小説に出会えるのでしょうか。
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からん、からん……
いらっしゃい。お好きな席へどうぞ。
今日はどんな小説を?
「『リバース』って、ご存じですか?湊かなえ先生の」
えぇ、もちろん。作中に出てくるコーヒーでもご用意致しましょう。
ーー
いかがでしたか?
「ちょっと…待ってください。まだ、心の整理が…」
やはり最後の衝撃が響きますか。
「久しぶりに読書後に衝撃で動けないですよ。なんですか、この結末は」
そうですね。私も初めて読んだ時、衝撃が大きくてぐったりしてしまいました。
「いろいろ怖いですよ。話は緻密すぎるし、何よりこの物語の題を『リバース』にしたのがすごい」
あとがきは読まれましたか?
「いえ、まだ。ちょっと待ってください……」
『リバース』の意味に驚きますよ。
「……うわぁ。そういう事か。もうどんな感想を出しても陳腐な気がします」
そんなことはないですよ。読む人が好きに感想を持てるのが芸術のいい所ですから。
「手口が、鮮やかですよね。こう、なんて言うか、あらすじを教えて貰っただけでは得られない高揚感、というか…」
ずいぶんと言葉を選びますね。
「まだ心の整理がつきませんよ。最後に何度も脳と心をグラッと揺すられたみたいな気分です」
湊かなえ先生の思惑通り、と言ったところでは無いですか?
「ミステリーものっていかに読者の予想を裏切れるか、みたいなところがあるじゃないですか」
そのどんでん返しこそが魅力でしょうね。
「私も小説は読むほうですから、読み進めながら『ああじゃないか、こうじゃないか。もしかしたら犯人はこいつじゃないか』とか、考えながら読むんですよ」
私も自分で推理しがちです。
「でも、やっぱりそんなわけなくて。読者の期待を2度、3度、裏切って『うわぁ。そう来たか。参った』って油断したところに、もう一撃食らわす、みたいな」
それが一番効きますね。ガードが手薄になったところに腰の入った一撃、ですから。
「ちょっと、一晩寝てもう1回読もうかと思います」
それもよろしいかと。今度いらした時には蜂蜜を入れたコーヒーでもどうですか。
「…私は甘いのが苦手で」
そうですか。またいつでもいらしてください。美味しいコーヒーを入れてお待ちしております。
からん、からん……
〈続〉
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