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職業としての大学生〜兄が弟に語る学生生活〜

この文章は、この春から大学生になる弟に向けて、社会人6年目の私が、私自身の体験と友人たちへの取材をもとに書いた、経験的学生論です。世の中の変化のスピードは著しいので、わずか5年前までの学生生活のあり方ももはや時代遅れかもしれませんが、できる限り、時代の変化に左右されない本質的な部分を抽出したつもりです。弟に実際に渡したオリジナル版から、固有名詞や家庭状況などに関する記述を一部再編集し、掲載します。

はじめに

「今大学生に戻れるなら何をしたいか?」と聞かれたら。もちろん、やりたいことは無限にあるし、やったことのないことに手を出したい。でも、もう一度同じ学生生活を送れ、と言われても私は喜んで同じ学生時代を送りたいと思います。それくらい、私にとって学生時代は多くのことに挑戦でき、多くのことを学び、そして多くの出会いに恵まれた4年間でした。何か特別なことをしたわけではありません。世界一周をしたわけでも、特別に珍しい社会経験をしたわけでもない。ただとにかく、毎日が刺激の連続で、学生の特権を振りかざしまくる日々でした。いろんな人に会う。友達と大学近くのサイゼリヤのドリンクバーで粘りながら、「死ぬまでにこんなことをしたい」とか「こんな社会にしたい」とか「生きる意味ってなんなのか」、ときには「経済史の教授が”けれども”という口癖を連呼するのはなぜなのか」とか、2時間も3時間も話す。そんな風に、いかように時間をいくら使ってもいいのが大学生の特権です。贅沢ですね。ある人は、「大学に行くのは大学に行くより楽しいことを見つけるためだ」という逆説的な目的を語っていました。大学生じゃなければできないことがある、そう考えると、大学生はひとつの職業であると考えることはできないでしょうか。お金を稼いで自ら身を立てるわけではありませんが、大学生という身分に誇りを持ち、そのときにしかできないことをやるといくことが、基本姿勢として大切ではないかと思うわけです。

本稿は、私や友人の学生生活の経験をもとに書かれています。そして、今、大学生に戻れるなら何をしたいか?という問いからも、ヒントを得ています。本題に入る前に、まず知っておいてほしい基本的な考え方があります。1つ目は、「よく遊び、よく学べ」。たくさん勉強することはもちろんですが、同じくらい、いろんなことに興味を持って、遊んだらいいということ。どっちか、だけでは面白くありません。どっちも、です。そしてもうひとつは「すぐに役に立つことは、すぐに役に立たなくなる」。これは私の座右の銘です。この命題が真であるならば、この論理の「対偶」もまた真です。すなわち、「いつか役に立つことは、すぐには役に立たないものである」。整理すると、「すぐに役に立たないことは、いつか役に立つ」ということです。たくさんのものをみて、たくさんのことを経験する。「いつか役立つであろうこと」の引き出しを増やし、人生の選択肢を充実させていくことが、大学生活の4年間だと思います。「あれか、これか」である必要はありません。「あれも、これも」がいいでしょう。なんでもやったらいいんです。「すぐに役に立たないことのカタログを作る」くらいの意識でいるといいかもしれません。極めてマッチョな学生生活論かもしれませんが、時代錯誤はご愛嬌。ご参考まで。

そして最後にもうひとつ。以下に書いてあることは、ひとりの人間の大学生活を体験的に振り返ったものであるので、これと同じ通りに過ごす必要は全くないし、できればそうはしてほしくないということです。参考程度に頭の片隅において、「兄ちゃん、こんなことがあってさ!」と、私が羨むような、あなたにしかできない、素晴らしい学生生活を送ってください。

【学ぶ】

学生の本業は学問を勉強することです。極めて基礎的なことでありながら、忘れられがちな事実でもあります。これは忘れてはいけません。世の中には、「大学で学んだことは忘れた」と人もいると思いますが、時代は変わりました。勉強していない大学生は、どんどんと社会から求められなくなっていきます。「4年間、勉強したなあ」と言えるくらいには勉強しておきましょう。じゃあ、勉強とはなんなのか。矛盾するようですが、それは必ずしも学問だけに限りません。詳しく見ていきましょう。

分野を絞らずなんでも学べ

何を勉強するか?最初はそんなこと考えなくて大丈夫です。とりあえず、興味のある分野を片っ端から学んだらいいでしょう。多くの場合3年生になるとゼミに入ることになり、これが学部4年間における「専攻」になります。1、2年生はというと、とりあえずたくさんの分野に手を出して、何にワクワクするか、何を専攻にしていきたいかを絞っていく時間になります。学部的な分野の縛りを設けず、幅広い分野を学べるように設計されているカリキュラムが、教養課程とかリベラルアーツというやつです。しかし、あなたの通う大学はこうしたカリキュラムはなく、「経済学部」という組織に入った以上、ある程度は経済学部の必修科目や経済関係科目の単位を取ることを1年生から求められると思います。でも、だったら自分でリベラルアーツ課程を作ればいいんです。リベラルアーツなんてカリキュラムがなくても、多くの人は勝手に「リベラルアーツ的に」勉強しています。経済学の基礎の勉強は怠らずにやりつつ、いろんなものに手を出し、興味の幅を広げる。そうしたら、3年生でゼミを選ぶ頃には、シラバスのゼミ案内が、隅から隅まで、魅力的なゼミで溢れてることでしょう。
そんな色んなことに手を出したら全部中途半端になるんじゃないかって?大丈夫です。すぐには役に立たないかもしれませんが、必ず自分のためになります。興味の赴くままにコツコツと学んでいると、あるとき、思わぬ化学反応が起きることがあります。「え、この分野のこれ、これと繋がるの?!」って感じで。そして、さらにそれを続けていくと、「共通する枠組み」があることに気づくはずです。「これとこれ、分野は全く違うけど、言っていることは同じだな」とか、「この考え方、こっちでも使えそうだな」とか。知識だけでなく、共通項を抽出するようになると、色んなものの見え方が変わってきます。これが、幅広く勉強することの醍醐味だと思います。

英語学習はしておくべき

それと勉強に際して私から言えることは、「英語の勉強はしておけ」ということです。これだけは、強く言いたい。社会に出ると、英語ができるということだけで、与えられるチャンスの幅が全く違います。これは社会人にならないと実感としてわからないことですが、圧倒的な格差です。もちろん、社会で活躍していくには、語学力以前にそれ以外のさまざまな能力が必要ではありますが、就職、社内での仕事の幅、転職、キャリアアップ、さまざまな局面で、英語ができるということは大きなアドバンテージになります。もし、留学できるチャンスがあるならば、ぜひ留学してきてください。絶対にいい経験になります。私が学生時代に戻れるならやりたいと思う唯一に近いことが、留学です。ちなみに、私の学生時代の同級生で、今同じ会社で働く同期は、学生時代に留学したことを、今の自分を形成する大きな経験として振り返っています。彼が留学を経験していたのはオーストラリア、タイ、ベトナム。そしてインターンとして行っていたルワンダでは現地の労働者とともに1日中、ナッツの皮むきをやっていた時期もあったそうです。そこでは、「日本という国の特異性と日本人に生まれたことのありがたさがわかった。日本を客観的に見ることができるきっかけになった」そうです。日本という国は一応先進国ですし、それなりに不自由なく暮らせる国です。だから、グローバルに見たときに持っている「特権」のようなものに気づく機会には、国内にいるだけではなかなか出会いません。そういう気づきを得られる経験もまた学びです。

広く、浅く、ときどきめっちゃ深く

理想の話をすると、専門性を極めることは非常に大切なことです。専門性とは一般には、「この人に聞けばなんでもわかる」という分野を持つこと、でしょうか。しかし、専門性なんていうものは一朝一夕に身につくものではありません。何年も社会人生活をしている大人でさえ、専門性という言葉が本当に意味するところをわかっていません。深く考えてもしょうがないので、とりあえず卒業までに、「この分野だったら、教授や友達から尋ねられても大体のことは答えられる」という分野をひとつ持つことを目標にしましょう。そして、その周辺で、興味関心の幅をどんどん開拓していくこと。広く、浅く、ときどきめっちゃ深く。広さと深さ、両輪で進めていくことが大事です。

資格、もしくは一芸を身につけておくことをお勧めします。「芸は身を助ける」は本当です。大学生には、自由に使える時間がとにかくたくさんあるわけです。「時間をかけないとできないこと」を、4年間でひとつ習得することを目標にするといいでしょう。一般的なのは、教職課程や司書課程、学芸員課程を大学のカリキュラムで取るという道です。または、大学のキャリアセンターやリカレント教育プログラムなどで、さまざまな資格取得支援をやっているはずです。積極的に活用してみましょう。

学ぶ、は勉強に限らない

「学ぶ」ということについて、もう一つ忘れてはいけないのは、学問を勉強することに限らないということです。例えば、私は学生のときにフリーペーパーの編集長をしていました。制作を重ねる中で、Adobeのグラフィックデザインソフト、Illustratorを使えるようになりました。結果的にここで習得したスキルは、フリーペーパー編集に限らず、自分の名刺作成やサークルの卒業アルバムの自主制作、あるときには大学生のサッカー大会のチラシ作成という外部の案件にもつながり、報酬を得ることもありました。「表現する方法」、ひいては「稼ぐ方法」を一つ身につけたのです。このスキルは今でも生きています。趣味の域を出ませんが、ちょっとしたチラシ作成や雑誌編集などはある程度の労力でできますし、職場でグラフィックを作成するソフトが同じIllustratorなので、アート作画担当の人たちがどんな作業を、どんなプロセスでやっているかがわかります。そのため、発注やお願いも、より具体的にできています。ある種の「共通言語」で話せる、ということですね。

学生時代に大学の講義で会った毎日新聞の記者の人が、「人の厚みは目から落とした鱗の数で決まる」と言っていたことをいまだに強烈に覚えています。何かを極めることも大切ですが、個人的には、まずは極めるよりもたくさんのことに貪るように手を出していくことをお勧めします。人生、全てが学びです。

【本の読み方】

「読書と映画は人生の予行練習だ」

大学生時代は、とにかく本を読みまくった方がいいです。義務と思っても、たくさん読んでください。これだけまとまった時間でたくさんの本を読めるチャンスは、人生において、そう多くありません。行き帰りの電車は読書を習慣にする、寝る前1時間は読書にあてる、など。習慣化すれば、4年後にはものすごい量の読書経験があなたを支えるでしょう。私の読書量は並程度でしたが、最も多いときは1か月に15〜20冊読んでいました。「読書と映画は人生の予行練習」と、水道橋博士が言っていました。こんな生き方があるんだとか、こんな考え方があるんだとか、読書は自分の生活の中では経験できない経験を擬似体験でき、新しい視野を与えてくれることで、選択の幅が広がります。

深めるならとりあえず、1分野20冊

気になった本は片っ端から読んでいくことです。乱読、乱読、乱読。ジャンルが偏らないよう、選り好みぜずにとにかく手を出していくことを薦めます。逆に強烈に、ある事柄に関心を持ったとき。もしくは、大学の授業や研究で、特定の分野を徹底的に勉強したいと思ったとき。とりあえずは、その分野の本を20冊読めば、ある程度全体の概要がわかる、という感覚になります。究めるには到底不十分な量ですが、まずは20冊を第一の目標にしましょう。きっかけはどんな本でも構いませんが、もし、ゼロから開拓したいときには、まず概略を掴める入門書を読みます。そして、巻末の「参考文献」のページを読み、面白そうなタイトル、テーマの本を3冊ピックアップ。それを読み始めます。あとはそれを繰り返して行けばいいのですが、この手法でやっていると、おおよそ問題に対する意見が偏ってきます。そこで、10冊くらい読んだところで、これまで読んできた主張にあえて反対する立場の本を選んだり、思い切って、全然違う切り口の本を手に取ってみましょう。「餅は餅屋」ではありませんが、どんな本を読むべきかは詳しい人に聞くのが近道です。教授、友達、誰でも構いません。私は、就活のときに、バイト先の記者の人がくれた読書リストをもとに、マスコミ関係の本を短期間で20冊以上読みました。エッセイ、新書、学術書、ノンフィクション、片っ端から必死で読みました。そうすると、20冊読み終わった頃には、なんとなく、マスコミの「常識」みたいなものが自然にインプットされていたことに気づきました。これで全部分かったと考えるのは思い上がりでしかありませんが、面接でも、少なくとも業界についてトンチンカンなことは言わずに話せる感覚がありました。

ときどきアウトプットも

基本的に本はインプットの作業ですが、研究や学習に向けて知識の蓄積を定着させたい場合は、アウトプットにも時間を割いてみましょう。アウトプットの方法で基本的なものは、読書ノートをつけるということ。決まった形式はありません。本を読んでいて気になったフレーズや考え方を、箇条書きで書き出してもいいし、読み終わった後、短くても感想文を書いてみるなど。あとは、友達を捕まえて、「最近読んだ本の紹介」とかをやってみる。説明しようとすると、どこを理解していてどこを理解していないのか、理解の定着度を確認することもできます。いい勉強になります。

本を買わなくても本屋へ行こう

1週間に1回は定期圏内の大型の書店に足を運ぶと良いでしょう。毎回本を買う必要はありません。書店を歩いていると、社会の関心事がわかります。どんな本が平積みにされているか。どんな新刊が出ているのか。雑誌はどんな特集を組んでいるか。それだけで勉強になりますし、好奇心が刺激されます。そうすることで前になんとなく聞いていた話に興味が湧いてきたり、全然関係ないと思っていた2つのテーマが自分の中で繋がったり、いろんな発見を引き起こしてくれます。私はこれを「好奇心の攪拌作業」と呼んでいました。

大学図書館は最強

もうひとつ。大学の図書館は最強なので、どんどん活用したほうがいいです。一般的な公立図書館にはないメリット、大学生が大学図書館を使うべき理由は、大きく3つあると思います。まずは学術書の多さ。これは当たり前ですね。論文を書く時には、まず先行研究のために大量の本を読まなければなりませんが、専門書って高いので、いちいち買ってられません。その点、大学図書館にいけばなんでもあるので、わさっと棚から持ってきて、1日じっくり勉強できます。しかもタダで。2つ目は、学生であれば印刷できる環境にあること。おそらくどこの大学でも同じだと思いますが、年間に何枚まで、など上限が決まっていて、その範囲で印刷とコピーができるはずです。これは大学生にとってはありがたい。活用しましょう。そして3つ目。個人的にはこれが一番費用対効果の高いものではないかと思いますが、さまざまなデータベースが使えることです。特に使いやすいものでいうと、日経テレコンで雑誌や新聞、過去の記事の検索ができるほか、朝日新聞や毎日新聞、読売新聞などの各新聞社のデータベースが使い放題はなず。これはすごいことです。社会人になってからこれを使おうとすると、1つの記事をみるために200円以上のお金がかかったり、そもそも全部のデータベースシステムをみんなが自由に使えるように契約することなんて、報道機関であってもできません。しかも、私の通っていた大学では、VPN接続の設定をすれば自分のPCから、自宅でもどこでも、データベースにアクセスできました。ゼミ、就活、本当に役に立ちました。これはまさしく、大学生の特権です。研究、調べ物、興味関心があるもの、とにかく過去の記事検索機能はどんどん使いましょう。

多様なカルチャーに触れて感性の鍛錬を

ここでは読書に特化して話していますが、学びの手段は当然、読書に限りません。映画、ラジオ、音楽、アート、とにかく、五感を揺さぶる経験をたくさんし、「感性の鍛錬」をすることが大事です。


【記録する】

読書ノートの話にもつながりますが、大学生活の4年間を「記録する」ことを強く推奨します。どんな方法でもいいと思います。記録することのメリットは大きく分けて2つ。ひとつは、後から振り返られること。ときどき、大学時代のことを振り返って、あのときはどう思っていたかとか、自分の原点みたいなものに立ち返るようにしています。そしてもうひとつは、自分自身の思考の整理になることです。記録するという作業によって、自分がどう考えているかを文字化して客観的にみることができたり、それによって気持ちが楽になったりします。どんな方法でもいいと思います。トラベラーズノートの日記帳でもいいし、ツイッターでその日の記録をつぶやいてもいい。または、Googleカレンダーでその日会った人とやったことを記録していってもいい。なんでもいと思います。

【アルバイト】

そのうち、なんらかのアルバイトを始めることになるでしょう。ただ、「バイトを始めること」を目的化して焦って始めないでいいと思います。するなら、しっかりと選びましょう。夏休みぐらいから本格的に始められる様に、前期は準備期間に費やしていいと思います。

時給で選ぶか、副産物で選ぶか

バイトを選ぶ上で重要なポイントは2つ。時給と、副産物です。まず、バイトをどう捉えるか。お金を稼ぐ手段と割り切るならば、時給が高いアルバイトを探せばいい、ということになります。個人的には、もうひとつの「副産物」という尺度、つまり、「お金以外にそのバイトで得られるもの」も、しっかりと見極めて選ぶべきだと思っています。副産物とは何か。例えば、モノ、スキル、経験です。わかりやすいのは「モノ」です。飲食店では「まかない」と呼ばれる食事が提供されることがあります。姉さんは、神戸屋というパン屋でバイトをし、毎回、売れ残った大量のパンをもらって帰ってきていたようです。学生にとっては食費は馬鹿にできない出費なので、働きながらご飯が食べられる、食料が入手できる、というのは大きな魅力になります。

そして「スキル」でいうと、例えば飲食店のキッチンのアルバイトでは料理の腕が上達するでしょう(冷凍素材を機械で調理するだけなら別ですが)。大学時代の私の友人は、大戸屋でアルバイトをしていました。「大学入学まで料理はほとんどしたことなかったが、いきなりキッチンに放り込まれた。手や指を何回も切ったが、料理の基本が身についた」として、学生時代にやってよかったこと、としてアルバイトの経験を挙げています。接客業ならコミュニケーションのスキルが上がったり、制作系のバイトならお金を稼ぎつつ、ソフトを使う技術が上がったりするでしょう。もちろん、どれも勉強と訓練が必要です。どんなスキルを身につけてみたいか。または、自分の能力的に、どんなスキルが伸ばせるか。考えてみましょう。また別の友人は、学生時代のアルバイトとして、「探偵」をやったり、「訪問型のパソコン講師」など、珍しい仕事をしていました。

そして「経験」は言葉の通りです。「この会社で働いてみたい」とか、「こういう仕事をしてみたい」、「勉強してみたい」ということがあれば、そういったことを目的にアルバイトを選ぶのもいいと思います。これは好き好きなのですが、アルバイト中心になりすぎる生活になる気配を感じたら、一度立ち止まった方がいいでしょう。

ちなみに、探偵のアルバイトをしていた前述の友人は、「やっておけばよかったこと」として、「キャバクラのボーイとか、人間の業に触れられるようなバイト」を挙げていました。「リアルにお金ってどういうところに使われるか学べるから」だそうです。一理ありますね。

私がやっていたアルバイト

余談ですが、自分の場合、やったバイトは3つ。少ない方だと思います。1つは集団授業の塾講師です。1年間やりました。まず、「大学生であることを明かしてはいけない」という鉄のルールを課されました。生徒に対してはもちろん、保護者に対してもです。生徒にとっても保護者にとっても、学生であるかどうかなんで関係がありません。お金を払って、塾に通わせているわけですから、それに応えなければなりません。あるとき、授業の合間の雑談でiPodの話をしたら、「この機能があるiPodが出回っていたということは・・・」とそこから年代を推察され、バレかけたことがあります。「教えられない」と言われると、人は知りたくなる生き物ですね。そして、毎回恐怖だったのが、年に数度行われる、生徒の授業アンケート。授業のわかりやすさや板書の見やすさ、「今後もその先生の授業を受けたいか」といった露骨な項目まで(確か)5段階の点数で評価され、全講師の間で共有されました。そこには、年齢も、経験も関係ありません。正社員の校長や副校長も、アルバイトの私も、平等かつシビアに点数で自分の価値が計られました。どうすれば、生徒が楽しいと思ってくれるか。わかりやすく説明できるか。嫌でも直視しないといけないのは辛いこともありましたが、「評価される」という社会の厳しさを早めに体験できていい経験だったと感じています。

2つ目は、イベントスタッフの派遣です。東京ビックサイトで企業向け大展示会のパス発行受付をしたり、アリスのコンサートの会場設営をしたりしました。しかし、「チーフ」と呼ばれる社員スタッフがとにかく偉そうで、人を駒としか思っていないのではないかという感じでした。そして、バイトに来ているのは、私ほどの学生から、50〜60代のおじさんおばさんまで。「チーフ」がそういう人たちを公然と怒鳴り散らし、周りの人たちは何も起きていないかのように黙々と仕事を続ける・・・。社会の縮図だったのだと思いますが、現場の雰囲気が悪すぎて、人間の闇をたくさん見たので数回で行かなくなりました。

3つ目は、報道機関でのアルバイト。この話はまた今度。

【長期休みの時間の使い方】

学生にはお金がありません。しかし、時間はあります。そもそも、毎日朝から晩まで授業がみっちり入っているわけではありません。そして1年に2回、2か月近い休みが与えられます。1年の4分の1くらいは休みなんです。一方で、社会人になると、自分で自由に使えるお金は学生の時よりずっと多くなりますが、使う時間はずっと限られてきます。学生は4年生の春休みまで、8回の長期休みがあるわけですから、下記のことを全部やっても余るくらいだと思います。

旅に出る

長い休みは、旅に出ましょう。どこでもいいです。ただし、できるだけ遠くへ。まとまった時間がないといけないようなところへ行きましょう。例えば、私は大学2年と4年の夏、青春18きっぷで電車の旅に出ました。千葉の家から、当時走っていた「ムーンライトながら」という夜行列車に乗り、大垣、京都、岡山、高松へ。新幹線に乗る金はないし、夜行バスは味気ないということで、最も安く楽しめるプランとして考えたのがこのプランでした。高校時代に野球部の練習試合で対戦した京都の高校の同級生や、高校時代の友人に会って帰ってきたのが1回目。2回目は、同じルートで香川県の直島へ行き、高松へ。そして松山へ行き、フェリーで広島、尾道をめぐり、京都に寄って帰ってきました。車窓をぼーっと眺めながら、知らない街に降りては散策。どこで降りてもいいという自由を手に、思索にふけながら電車に揺られていく・・・いまだに最高の旅だったと思います。そして、海外旅行にも行きました。学生時代に行ったのは、ベトナム、台湾、トルコ、チェコ、モロッコ、スペイン。本当はイスラエルとキューバにも行きたかった。モロッコ、チェコ、トルコ、あたりの目的地に共通していることは、「先進国ではないこと」。もう少し言うと、絞っていたのは「将来的に仕事で行かなさそうなところ」です。興味があれば、海外に行っておいた方がいいでしょう。海外に行くハードルは、社会人になるといっそう高くなります。学生のうちに行っておいた方がいいです。

バイト・インターン

また、「長い休みじゃないとできないバイトをしてみる」というのも手です。山小屋のバイト。リゾート地でのバイト。スキー場でのバイト。こういったものです。リゾートバイトやスキー場バイトは、ホテルなどで働きつつ、空き時間にスキーやダイビングを楽しむ、というものです。こういうバイトは社会人になるとなかなかできないのでおすすめです。あとは、バイトではないですが、短期のガチインターンに行ってみる、というのもひとつの挑戦としていいかもしれません。ベンチャー系の会社だと、夏休みなどで、優秀な学生を発掘するためのサマーキャンプ的なインターンがあります。そういうのに参加するのもありですね。いい勉強になると思います。長期休みではありませんが、大学2年の秋に、河北新報という東北の新聞社のインターンに1週間、行きました。各駅停車で仙台まで行き、東北大に通う友達の家に泊めてもらい、石巻へ。石巻の寒い安宿に1週間泊まり、昼間は記者の方々に指導を受けながら、被災地の取材をさせてもらいました。そこでの経験、出会いも素晴らしいものでした。

短期留学

長期休みをフルに使えば、1か月半くらいは留学に行けます。大学は、だいたい、こういう期間に短期の交換留学プログラムを用意しています。興味があれば、というか、興味がなくても、一度飛び込んでみることをおすすめします。海外に行って勉強する、ということは、自分が大学生活を振り返ったときに、唯一、やっておけばよかったと思うことです。あなたにはぜひやってほしい。
学生時代の友人は、長期休暇でタイに留学していました。留学先の大学では現地の学生とディスカッションし、日々勉強。「同い年のアジア圏の海外の大学生の英語力に感嘆し、視野を広げられた。忘れられない良い思い出」と振り返っています。

飛び込み・チャンスの開拓

上記は、スタンダードな過ごし方ですが、過ごし方なんて無限にあります。参加する枠組みがなくても、自分でチャンスを作りましょう。例えば、憧れる写真家がいたとします。その人に、ダメ元でSNSで連絡をとってみて、「1か月、アシスタントをさせてもらえませんか」と頼んでみるとか。求人情報を出していない会社にアルバイトを申し込んでみるのもひとつの手かもしれません。開かれた応募がないからといって、それはできないことを意味しません。頼んでみたら、「募集はしてないけど、いいよ」ということになるかもしれないからです。

【お金の使い方】

身の丈以上の買い物はしない

前提として、好きなことにお金を使えばいいと思います。ただし、身の丈以上の買い物はしない。私はこれを鉄則にしていました。そして私が学生時代に一貫して意識していたことは、「できる限り目に見えないものにお金を使う」ということでした。有り体に言えば、「そのときにしか得られない知識と経験に使う」ということでしょうか。もちろん、おしゃれはしたいし、服や持ち物にお金は使いました。ただ、学生時代に買って今も残っている持ち物って、そこまで多くありません。個人的な意見としては、持ち物について、「長く使えるもの」であれば高い買い物をしますが、そうでないものであれば、学生時代に高い服を買うのは少し勿体無い気もしています。それよりも、形のないものに投資するほうがいいのではないか、と思います。服の話で言うと、服は古着が最強です。古着でも、着こなしを勉強すれば、十分に安上がりでかっこいい着こなしが可能です。下北沢や高円寺など、古着屋がひしめく街というのがあるし、大きな街であれば古着屋さんはどこにでもあります。雑誌で古着の着こなしを勉強し、時々、それに合わせて新品のアイテムを買い足す。特にこだわりがなければ費用対効果は抜群です。もちろん、これは私の考え方なので、ファッションに興味が出てきたり、古着テイストじゃない着こなしがしたければ自分なりの納得のいく使い方をしてください。まとまったお金はないでしょうから、その場凌ぎ的にものを買っていくしかありませんが、「安物買いの銭失い」にはならない様にしましょう。迷う理由が値段なら買う。欲しい理由が値段なら買わない、というのがひとつのものさしです。

貯金は、するにこしたことはありません。ただし、社会人になってからのための貯金を学生時代にする必要は、基本的にないと考えています。ガシガシ使ったらいいと思います。学生時代に貯めたお金は、学生時代に使い切るんだというくらいでいた方が、4年間を有意義に使えると思います。学生時代の10万円は、社会人の100万円よりも尊い。必要なら兄が貸しますから、家族以外からお金を借りないように。これは守ってください。

リボ払いとキャッシングはするな

あと、絶対にやってほしくないことがあります。それは「リボ払い」と「キャッシング」です。これらは、自ら働いて稼いでいるわけではない大学生が使いこなすには、あまりにもリスキーな仕組みであるということを肝に銘じておく必要があります。名前は横文字でわかりにくくなっていますが、要するにめちゃくちゃ利子の高い「借金」です。本当に怖いものは、怖い顔をしていません。これも世の常です。最近は、リボ払いという名前さえ微妙にマイナーチェンジしたものも出てきているので注意が必要です。そして、ポイント還元率が高いとか、キャッシュバックがあるとか、いろんな誘惑を用意していますが、誘惑には乗らないようにしましょう。私は、これまでの買い物で、分割払いやリボ払いで買ったことがありません。一括で買えないものは、身の丈に合っていない買い物だと思っています。大学1年生のときにMacBookAirを買ったときも、夏のバイト代を全部投入して、現金で10万円を払いました。一括で買えないものは、基本的に買わない。どうしても必要なものならば、家族に相談する。これを守ってください。

【人間関係】

価値観の違う人たちを大切に

価値観の違う友達と多く付き合いましょう。考えの違う人の話に積極的に耳を傾け、自分の固定観念を破壊する努力を怠らない様にするということです。おおよそ同じ価値観のグループで過ごしているのは心地よく、気持ち的にも楽です。ただ、凝り固まった人間関係のみの中にいることからは、いいことは生まれません。私調べでは、社会人のストレスの7割は睡眠不足と人間関係の悪化に起因します。そしてその人間関係とは、意見の相違や相互理解の欠如から悪くなっていくことがしばしばです。自分と違う意見、考えの人がいたら、逆に深く話をしてみる、という癖をつけると、楽しいです。自分が自分の言っていることが正しいと思っているように、相手も相手の論理があり、意見を言っているわけです。その論理は何なのか。どういう背景があって、そういう意見なのか。それを知ることは、その人との関係性に止まらない学びになります。そして、いろんなコミュニティに参加してみることです。参加してみて合わなければ、もう行かなければいいだけです。とにかくいろんなところに顔を出してみることが大事です。私は、今もできる限りこれを意識しています。会社の人たちから学ぶことは非常に多く、話す内容はウィットに富んでいて楽しい人間関係の中で過ごさせてもらっていますが、やはり同じ業界、同じ仕事をしている以上、思考のフレームワークはみんな近くなってきます。そういう関係性の中だけにいないように、定期的に大学時代の友人と話したり、パートナーと話したり、もしくは長期の休みには、友達が所属するコミュニティに飛び込んでみたり。面白い発見がたくさんありますよ。

そして、いずれ、特別な存在だと思う人にも出会うでしょう。恋愛は人を大きく成長させてくれます。自分の魅力も、弱いところも、嫌でも向き合わせてくれる貴重な経験です。私の友人は、大学時代にやっておいた方がいいこととして、「色んなパートナーと付き合う」ことを挙げていました。「自分がどういう人がタイプなのかを考えるきっかけになり、自分のことを深く考える機会になる」ということです。自分の知らない自分の姿に気づかせてくれるのは、いつだって自分自身ではなく、「周りで自分をよく見てくれている人」なのです。

【大人との付き合い方】

大人は、大学生を利用しようしてきます。全員が悪い人ではりませんが、付き合う時は気をつけた方がいいでしょう。あとこれは海外旅行でよく言われることですが、「向こうから話しかけてくる人は一回疑う」。疑ってばっかりでもつまらないのですが、最低限の防衛能力は身につけておきましょう。インターンの名の下に、ブラックな労働を強いてくることもあり得ます。それが、自分にとっていい経験であると納得できていれば問題ありません。ただ、「やりがい」の代償として大量の時間と労働力を引き換えてないか、注意する視点は持っておいた方がいいです。優しく、したたかな人ほど利用しようとしてきたりするので注意。まあ、それが出会いを産んだりチャンスを生んだりすることもあるので難しいのですが。

【その他の心構え】

ある程度、包括的に話してきたと思うので、以下は、友人への取材で集めた、学生が持つ特権と心構えを列挙していきます。

●「学生」というだけで、どんな人でも会ってくれ、話聞かせてくれます。学生という最強の身分をどんどん活用し、会いたい人にはどんどん連絡し、知見を広げていきましょう。

●とにかくいろんな物が安い。定期券、映画、ラーメン屋、いたるところに「学割」という制度が存在します。オトクなものは、全部掴み取る。とりあえず「学割ないですか?」と聞いてみる。

●酒のリミットを知っておきましょう。つぶれるまで飲む必要はありません。大体、どのくらい飲んだらふらふらしてくるのか、「これ以上は無理」という量はどのくらいなのかを知っておくことは、自分を守るために必要です。

●大学以外で、ひとつは所属するコミュニティを持ちましょう。

●逃げ道を持つこと。言い換えれば、ストレスの解消法です。趣味だったり、自分の気持ちが落ち込んだときに、それをしたら元気になれるもの、ということです。たくさんのものに触れ、逃げ道をたくさん持っている人は、いざ壁にあたったときに強いです。それは社会人になってからも役立ちます。

●バカだと思うことにこそ全力で。

●何でも恐れずチャレンジ。

●長い休みがないとできないことはなにか、常日頃から考えておく。

●クリエイティブ活動をしてみる。詩を書いたり音楽を作ったり。社会人は金にならない活動に時間や気力を割けなくなる。

●五感の経験値を増やす。美味いものを食うために旅に出る、綺麗な景色を見るために夜ふかしする、など。

●大人に怒られる、という経験をしておく。怒られて済むうちにやることやっといてよかった。責任が付き纏うとできない。


さいごに

確か高校3年生のときだったと思いますが、ばあちゃんが一冊の本をくれました。当時、立教新座高校の校長だった渡辺憲司さんの『時に海を見よ』です。東日本大震災の直後、その年の卒業式が中止となった卒業生に向けて贈られたメッセージです。学生生活のヒントが詰まっている名文だと思うので最後に紹介します。

何のために大学に行くのか。誤解を恐れずに、あえて、象徴的に云おう。大学に行くとは、「海を見る自由」を得るためなのではないか。言葉を変えるならば、「立ち止まる自由」を得るためではないかと思う。現実を直視する自由だと言い換えてもいい。中学・高校時代。君らに時間を制御する自由はなかった。遅刻・欠席は学校という名の下で管理された。又、それは保護者の下で管理されていた。諸君は管理されていたのだ。大学を出て、就職したとしても、その構図は変わりない。無断欠席など、会社で許されるはずがない。高校時代も、又会社に勤めても時間を管理するのは、自分ではなく他者なのだ。それは、家庭を持っても変わらない。愛する人を持っても、それは変わらない。愛する人は、愛している人の時間を管理する。大学という青春の時間は、時間を自分が管理できる煌めきの時なのだ。池袋行きの電車に乗ったとしよう。諸君の脳裏に波の音が聞こえた時、君は途中下車して海に行けるのだ。高校時代、そんなことは許されていない。働いてもそんなことは出来ない。家庭を持ってもそんなことは出来ない。「今日ひとりで海を見てきたよ。」そんなことを私は妻や子供の前で言えない。大学での友人ならば、黙って頷いてくれるに違いない

2011年3月15日 立教新座中学校・高校「卒業式を中止した立教新座高校3年生諸君へ」 

以上です。参考程度に頑張ってください。あなたの学生生活はあなた自身が切り開くもの。してはいけないこと、なんてものはありません。







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