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学芸員はこんなデザイナーさんとお仕事したい[ザ・わがまま]

どうも。小さな美術館の学芸員です(バックナンバーを見ていただければ、だいたいどんな人間かわかるかと)。

前回は「デザイナーさんと仕事をするのが楽しい!という話です」と冒頭で言っておきながら、デザイナーさんを見つけるまでで話が終わってしまいましたね。

というわけで続きです。

何とか予算と折り合いのつくデザイナーさんが見つかったとしましょう。ここからが本番です。

展覧会の広報物、ここではシンプルにフライヤー(チラシ)とポスターにしましょうか。この2つのデザインを依頼するとします。

デザイナーさんとの初めての打ち合わせで、私(学芸員)の方から今回の展覧会の概要と狙いやコンセプト、テーマを説明します。それから展示する作品の代表的なものの写真を見てもらいます。そして一応こちらからもデザインのふわっとしたイメージを伝えます。「今回は色々な種類の作品が並ぶにぎやかな展覧会なので、楽しく華やかな感じにしたいです」とか「今回は作家の回顧展で、落ち着いたトーンの少し堅めな雰囲気にしたいです」とか。メインビジュアルにしてほしい作品の候補も伝えます。

で、素材を提供します。展覧会の基本情報(タイトルや会期、美術館情報など)、フライヤーにいれる展覧会概要(あいさつ文みたいなもの)のテキスト、使いたい作品の画像データ、美術館のロゴや地図データなどなど。

ここで早速、デザイナーさんによる違いが出てきます。

(1)こちらの話を聞いて、こちらが伝えたイメージに沿って、デザイン案を出してくる。

(2)こちらの話は聞くだけ聞いて、結局自分のカラーの強いデザイン案を出してくる。

(3)こちらの話を聞くだけでなく、打ち合わせで質問を重ねてきて、展覧会で伝えたい芯がどこにあるかを掘り下げる。その上で、デザイン案を出してくる。

また仕事したいと思うのは(3)のタイプの人ですね。

(1)はこちらのイメージに近いものが出てくるので、だめではないんですけど、私はデザインのプロじゃないので、正直なところ私は自分が言っていることが正解だとは思っていないんですよ。言ったことをそのままこぎれいにデザインするだけなら、時間をかければある程度私でもできます(Adobeの基本はできますので)。「えー、言われた通りにやったのにー」と思われそうですね。すいません、わがままな学芸員で。

(2)は、うーん…「こう来たか!」と驚かされるのは嫌いじゃないんですけど、デザイナーの色を出されすぎて、展覧会のイメージとそぐわないこともあります。「今回はこんなポップな雰囲気じゃないんだけどな」みたいな。

(3)のタイプの人は、打ち合わせの段階で「お、ひと味ちがうぞ」とわかりますね。

こちらとしては展覧会のイメージが固まっているつもりでいるんですけど、デザイナーさんから「この作品をメインビジュアルの候補にしているのは、どうしてですか?」「今回はその作家さんの意外性をみせたい感じですか?それとも王道の方?」「今回はどんなお客さんを想定してますか?」とか色々質問されると、「えーと、そうですねぇ」と答えながら、だんだん展覧会で訴えるべきことの解像度が上がっていきます。

この対話力というか、質問力というか、こちらと一緒に答えを見つけようとしてくれる人、お互いのイメージをすり合わせていく労力をいとわない人だと、その後もスムーズにいくことが多いです。

それから、もう一つ贅沢を言わせてもらうと、提案力がある人は大歓迎です。

学芸員=センスのある人と思われがちですが、さきほども言った通り、学芸員はデザインのプロではありません。デザインの常識や印刷についての知識もプロには全くおよびません。だから、学芸員のデザインの引き出しだけで考えていると、おのずとできるものが限定されてきます。

だから、こっちの引き出しにとらわれず、次のような提案をしてくれるデザイナーさんだととてもうれしいです。

「印刷の費用どれぐらいですか。あ、なるほどなるほど。じゃあ、紙にすこしこだわる余裕がありますね。ほっとする作品のイメージと合うように、さわり心地のいい紙にするっていう手がありますよ」

「今回はタイトルの文字に特色使うと効果的なんだよなぁ。どうですか?ただちょっと印刷代があがっちゃうんですよね。紙をコスパのいい紙にして帳尻あわせるのはどうですか。安っぽく見えない紙知ってますよ」

「A4のフライヤーじゃなくて、折り加工にしてこんな風に観音開きで見せたらどうですか」

そう、こちらの限られた引き出しでは考えつかない、新しい打ち手を提案してもらえるのは本当にありがたいんですよね。採算度外視で実現不可能なものを言われても困るので、現実的な提案をお願いしますって感じですけど。

こういうデザイナーさんと仕事ができると、その中でこちらの引き出しが増えていくので、次、またその次に生きてくるんですよね。

と、こんな感じで、いい仕事をしてくれるデザイナーさんとの仕事は、打ち合わせ自体がクリエイティブでほんと楽しいんですよ。

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