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美術展の準備ってどれくらい前から始めるの?

気づけば、ここのところ美術館にまつわる話をしていませんでした。学芸員のお仕事エッセイという原点にもどって、今日は美術展の準備の話です。

美術館で行う展覧会。この展覧会の準備期間ってどれぐらいだと思いますか?
この時間感覚が、学芸員と一般の人でだいぶずれているような気がします。

私の勤め先を含め、たいていの美術館・博物館は学芸員だけで運営しているわけではありません。むしろ組織の中の一員として学芸員がいる、という方が正しいです。
組織の中で働いていると、思わぬところから展覧会の話が降ってくることもあります。「今度、こんな展覧会できないの?」みたいな、役員レベルからの無邪気な要求とかね。

問題はその「今度」がいつなのか、ですが、話を聞くと今開催中の展覧会(例・会期2ヶ月)が終わった次の展覧会あたりでできないか、と考えていることが分かり、思わずずっこける事が多々あります。
あれ、もしかしてみんな文化祭的なノリで、1、2ヶ月準備したら展覧会ができると思ってる?と不安になってきました。


国宝クラスなら2、3年前から

最初に極端な例からいきますが、外部の美術館から作品を借用して企画展を行う場合で、なおかつその中に国宝級の作品が含まれている場合、まぁ2、3年前から話を進めておく必要がありますね。

または、その美術館のコレクションをまるごとゴソッとお借りするような、パッケージ展(こんな↓)の場合もやはりそれぐらい前から企画がスタートします。

とは言え、2、3年前から書面できっちり契約を結ぶというわけではなく、美術館同士、学芸員同士の間で作品借用の了解をもらっておく、みたいな感じです。
口約束と言えば口約束ですが、狭い業界で信頼関係でやっているようなところがありますから、後からその約束を一方的に反故にされるようなことは普通ありません(皆無とは言いませんけれど…)。

通常でも1年以上前から

国宝クラスでないにしても、他館から作品を1点でもお借りして展覧会をやるなら、普通は1年以上前から準備を進めます。相手の美術館に下話をするのは1年と言わず、早ければ早いほどいいです。どうしても借りたい作品なら「まだ会期が確定していないのですが、この展覧会に○○をぜひお借りしたいんです」となるべく早めにお願いしておいた方が良いでしょう。

他館から作品を借りずに、所蔵品だけで展覧会をやるとしても(ルーティンで決まった作品を並べるだけの常設展は別として)準備は1年前には始めます。
他の業務も行いながら、展覧会テーマに必要な作品調査、文献調査を行わなくてはいけないので、それぐらいの準備期間はどうしても必要になります。

それに大抵の美術館は、展覧会の年間スケジュールというものを前年度のうちに発行します。次年度の展覧会をここで発表しなくてはいけないので、やはり企画タイトルや概要は1年前には決める必要があるわけです(詳細は追々固めていくにしても)。

[例外]半年を切っているような場合

以上のような時間感覚で、学芸員は展覧会準備を進めるわけですが、ごくまれに数ヶ月後にはじまる展覧会に作品を借用したい、という急なお願いがくることがあります。

これは何もその担当学芸員が直前まで準備をしていなかったわけではなく、諸般の事情で借用予定だった作品が急遽借りられなくなった、ということです。会場に穴があいてはいけないので、その借用予定だった作品の穴埋めになる作品(作者が同じ、種類が同じ、制作時期が近い等々)を必死で探すんですね。

もちろん向こうも「穴埋めのために貸してください!」とは言いませんが、何となくそこら辺の事情は学芸員同士察してしまいます。そこで恩を売って、貸しを作っておくのも一つの手です(ふふふ)。

結構コツコツやっているんです

こんな感じで、ひとつの展覧会を開催するには、実はだいぶ前からコツコツと準備を進めておく必要があるんです。
1年先、2年先を見越した仕事をするのって、美術館だけなのでしょうか。いやいや、そんなことないですよね、きっと(と言いつつ、一般企業を知らないやつ)。

これだけ聞くと、気の長い優雅な仕事に思えるかもしれませんが、決して日々のんびり仕事をしているというわけではありませんよ。ただ、文化を伝える仕事ってなかなか一朝一夕で形にならないと知ってもらえたらうれしいです。


バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。