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幕の内弁当のようなコレクション展はお得なのか[美をつくし展@サントリー美術館]

この記事タイトルの時点で、なんとなく言わんとすることは伝わる気がしますが、まぁたまに書く展覧会レポートだと思ってお読みください。

さて、サントリー美術館で開催中の「美をつくし—大阪市立美術館コレクション」展を観に行ってきました。11月13日(日)までです。

学芸員は月曜休日という人が多いと思います(美術館、博物館の定休日は基本的に月曜日なので)。しかし、せっかく休みなのに、他の美術館も定休日で閉まっているから展覧会を観に行けないという…。そんな中、サントリー美術館は火曜が休館日なのでありがたいです。という超個人的な事情はさておき、展覧会の話です。

先に結論から言ってしまうと、あまり心に残らなかったのです…。

実はこれ、ある程度行く前から予想していたことでもあり、それを覆してくれることをどこかで期待していたのですが、すいません、予想通りでした。
いや、これは毒舌とかではなくて、ましてや学芸員の力量うんぬんとは別次元の話ですので、怒らずに聞いてください(誰にことわってるんだか…)。

まず大前提として、この展覧会は大阪市立美術館の所蔵品の中から有名どころを、まるごと持ってきた展覧会です。

なんでそういうことができたかと言うと、現在大阪市立美術館が大規模改修工事のために長期休館しているからです。
どんな美術館も通常営業をしている時期は、自分のところでも展覧会をやらなくてはいけないので、所蔵品の多くをまとめて他館に貸し出すということはできません。だから長期休館はある意味チャンスなのです。
そして収蔵庫も含めた大規模改修となると、その期間は所蔵品をすべて別の場所に移して仮保管しなくてはいけません。大量の美術品を収納できるような、セキュリティ、温湿度管理、その他の条件を兼ね備えた場所を確保するとなると、そのレンタル料は莫大なものになります。
「だったら改修工事の間はまとめてよそに預けて、そこで展示してもらえばいいじゃないか!」という発想で実施されるのが、「○○美術館コレクション展」みたいなやつです。今回もサントリー美術館のあとに、福島県立美術館、熊本県立美術館と来年いっぱいまでかけて巡回するようですね。

ちなみに、この手の話をとりまとめるのは学芸員ではありません。もっと広いコネクションをもった新聞社が裏で動きます。今回は毎日新聞社の文化事業部ですね。

この新聞社の担当者が、全国のめぼしい美術館にかけあって、1年以上にわたるドサ回りプランを企画するわけです。学芸員の出番はその後で、図録の作成や各会場の展示などで忙しくなります。

どうしてそんな展覧会の成り立ちをくどくど語っているかというと、つまりこの手のコレクション展は、現場の学芸員が「やりたい!伝えたい!」というモチベーションで企画をたてたものではなく、十中八九、上の方から降ってきた企画であり、まぁやることになったからやる、という性格のものだということを知ってもらおうと思ったからです。

そして、もう一つ致命的なのが、「○○美術館コレクション展」の展示作品は、つまるところ「○○美術館が所蔵している作品です」という共通項があるだけで、それ以上の根底に通じるようなテーマ性が特にないということです。

いや、学芸員も体裁を整えるために、頑張って章立てして、時代ごとに分けたり、ジャンルで分けたりして展示はしますよ。でも、展覧会を最初から最後まで観た時に、ひとつの流れを感じてもらい、良質なカタルシスを得てもらうような「ストーリー」を描くことはできないのです。

今回の展示も例外ではありません。会場に入ってから、仏像を数点みて、次に仏具を数点みて、絵巻を数点みて、屛風を数点みて、中国の青銅器を数点みて、小袖を数点みて、最後にまとまった数の根付をみて、会場を出た後に一体何が残るのでしょうか。「なんか色々みたなぁ」という感想だけだったら悲しいですよね。

以上が、私がこの展覧会を行く前からあまり期待していなかった理由です。
しかしイチャモンだけつけて、終わっても意味が無いので、もう少し続けます。

「なんか色々みたなぁ」で終わったら悲しい、と書きましたが、これはあくまで私の感想であって、案外これで満足する人もいるんですよね。
色んなおかずがちょっとずつ入った幕の内弁当が好きな日本人は多いです。たくさんの味が入っていてお得な気がするからでしょう。これと同じ感覚で、名品、優品がちょっとずつでもたくさん鑑賞できて満足度が高い、という考え方もできるかもしれません。
でも、そういう見方って、国宝や重文指定の作品がたくさんあるほど得したような気分になる、という表面的な鑑賞と全く同じであり、もったいないよなぁと思ってしまう私です。

いやいや、私だって「○○美術館コレクション展」を全否定しているわけではないんです。たとえば、海外の美術館コレクション展であれば、まず国内では滅多に見られない作品を見ることができる、それだけで行く価値があると思います(先日閉幕した東京都美術館の「ボストン美術館展」のように)。
その点で、大阪市立美術館というポジションが微妙なんですよね。一点一点は他の企画展で時々みる機会があったりする作品なんで…。

他の考え方としては、展覧会の全体構成なんてどうでもよくて、とにかくこの一点をみたい!という作品が出ているのであれば、この手のコレクション展も楽しめると思います。

たとえば私が今回「お!」と思ったのは、勝部如春斎(1721〜84)という絵師の《小袖屏風虫干図巻》です。

勝部如春斉《小袖屏風虫干図巻》江戸時代・18世紀
西宮市政ニュースより画像転載

勝部如春斎、恥ずかしながら知らない絵師でした。西宮出身で大阪で活躍した江戸時代中期の絵師なんですね。近年大阪画壇の研究が進み、注目され始めたようです。

絵巻を見て、そのモダンさに驚きました。
長い絵巻ですが、人物は出てきません。虫干しといって保存のために風通しをする屏風と小袖だけが描かれています。人を描かず、でも人の気配を漂わせるというのは、江戸時代初期から流行した「誰が袖図屛風」の流れをくんでいますね。
「誰が袖図屛風」の多くは、装飾性を前面に出すかわりに硬直した画面構成なのですが、この絵巻は風にそよぐ簾の描写によって画面の中に風が吹き抜け、息苦しさを感じません。
そして幾重にも立ち並ぶ大量の屛風の壮観さ!水墨画もあれば、濃彩画もあり、画題も山水から花鳥図までバリエーション豊富で目を楽しませてくれます。特に朝顔だけを描いた屛風(↓)が面白い!

西宮市ポータルサイトより画像転載

鈴木其一の《朝顔図屛風》(メトロポリタン美術館蔵)を思い出しますが、それよりこの絵巻の方が全然早い時期の作例です。図様は朝顔ですが、後ろの屛風が透けてみえますね。紗のような透ける素材で作った屛風が当時はあったのでしょうか。現存例を私は知りません。骨組みもなく耐久性がなさそうなので、当時あったとしても今に残っていないのでしょうね。
それにしても夢のような空間です。如春斎は西宮の裕福な酒造家の次男だったので、これに近い光景を目にすることができたのかも。

とこんな感じで、面白そうな作品を探しにいくぞ、ぐらいの気持ちで観に行くなら、この展覧会も十分楽しめるでしょう。

久々に「○○美術館コレクション展」というタイプの展示を見たので、ちょっと感じたところを率直に書いてみました。えらそうに辛めのレポートになってしまいましたが、ご容赦ください。
「なにわのアートコレクション、紀元前から近代まで東京大集合」と展覧会のキャッチコピーにある通り、時代もジャンルも幅広い作品がずらっと並んでいますので、きっと色々な見方ができるはずです。気になる人はぜひ足を運んでみてください。


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