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「知らない場所」をつくる彫刻。DOMANI・明日展@国立新美術館

国立新美術館で開催中の「DOMANI・明日展 2022-23」。
展覧会レポートの続きの続きです。

私が気になった作家の三人目は、実績がありすぎて紹介しきれないほど大ベテランの伊藤誠(1955-)です。
いまは武蔵野美術大学造形学部の教授ですね。1996年に文化庁の在外研修でアイルランドに1年間滞在したということで、今回招聘されたようです。

(手前の作品)伊藤誠《untitled (1988/2022)》1988/2022年

伊藤の作品を見て、彫刻(作品の技法・素材という意味では彫刻ではないが、作者自身が「彫刻」という言葉を使っているので)が空間に作用する力について、思いを巡らせました。

絵画で考えると、壁に一枚の絵がかかっていても「部屋の中に飾られた絵」でしかありません。それこそ障壁画のように、壁一面に絵を描いて、ようやくその空間を絵画が掌握することができます。

翻って、伊藤の作品《船の肉》が一点、部屋に置かれていたらどうでしょう。

伊藤誠《船の肉》2003年

もうその部屋は、異質な空間に変わりますよね。どこにもない形、どこにもない材質の「何か」があることで、周囲の意味合いまで変質していく不条理感が無性に面白く感じました。

それは会場のキャプションに記された作者の言葉とも呼応します。

私は2013年頃から「知らない場所」という言葉を個展のタイトルに使っている。知っている場所を、誰にとっても知らない場所にすることができるものを、自分では「彫刻」と呼んでいる。

展示キャプションより

「知らない場所」に身を置くことは不安なものですが、伊藤の作品によって生み出された「知らない場所」は不思議とそれを感じさせません。
作者は「形をつくる」彫刻家と呼ばれますが、作者がつくる形には攻撃的な要素、暴力的な要素もなければ、鑑賞者を異次元に連れ去ってやろうという野心のようなものもないからでしょう。

DOMANI・明日展の公式動画(YouTube)の中で、伊藤はそれを「笑い」という言葉で言い表しています(動画12分あたりの箇所)。「意識的に笑わせようと思ってできる笑いとは違う」とも語っています。

どこにもない形からにじみ出る笑い、もっと掘り下げないとこれ以上語ることはできませんが、三次元の造形物の可能性を感じさせてくれる展示でした。

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以上、近藤聡乃、北川太郎、伊藤誠の3名について紹介しました。
念のため言いますが、私が個人的に気になった作家ということで、他の7名も見応えがありましたよ。チラシに大きく使われて興味を覚えた写真家の石塚元太良(1977-)の作品は、やっぱりめちゃめちゃカッコよかったですし、

石塚元太良《Shoup Glacier #001》2016/2022年

2020年にドイツで在外研修をしたばかりの大﨑のぶゆき(1975-)による、溶けてゆく絵画も「これどうやって作ってるの?」という作品でした。

大﨑のぶゆき

ほんと見る人によって、感じることが変わる展覧会だと思います。興味ある方はぜひぜひ。


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