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タイプ別にみる美術館学芸員

一口に「学芸員」と言っても、実はいろいろなタイプがいます。

それは美術館、博物館に求められることが多様化してきた証拠かもしれません。
思いつきで、学芸員のタイプを分類してみました。

美術館の役割の変化

タイプ別紹介に入る前に、美術館・博物館の役割について。
言うまでもなく、美術館・博物館は美術品や文化財を展示して、お客さんに鑑賞してもらう場所です。
かつてはどちらかと言えば、アカデミックに学びたい人のための場所であったと思います。だから作品解説なんかも専門用語を使って小難しく書かれていて、「分かる人が分かればいい」というスタンスでした。

でも、気づけば今、美術館・博物館では体験型、参加型のイベントが多く行われるようになり、ただ静かに作品を眺めるだけの場所ではなくなってきています。
社会福祉的な観点から、広く誰でも楽しめる場所であるべきとされ、幼児向け、小中学生向けの企画だったり、生涯学習のための学習活動だったり、障がいのある方が気兼ねなく鑑賞できる工夫だったりが求められます。
場合によっては、観光スポット、観光資源として期待されるような館もあります。

ここまで美術館・博物館が手を広げると、そりゃ学芸員のタイプも多様化しますよね。
というわけで、以下が私独自の学芸員分類となります。

[タイプ1]研究型(アカデミックタイプ)

まずオーソドックスなのが、この研究型です。オールドタイプ、クラシカルタイプと言いうべきか、まぁ昔ながらの学芸員像かな、と。

収蔵品を地道に整理し、作品や作家について資料を集め研究することが最も重要な仕事だと考えるタイプです。「モノを見てなんぼ」がモットーで、作品とともに生きる人と言えます。

仕事に派手さはありませんが、このタイプの学芸員によって作家研究、作品研究が進み、美術史のページが塗り替えられていくという側面があります(ただしよほどの大発見でないと世間に知られるほど話題にはならない)。
アカデミック寄りなので、その後大学教員に転職する人もいます。

[タイプ2]企画型(コーディネータータイプ)

次が企画型学芸員です。コーディネータータイプと言ってもいいでしょう。

美術館・博物館が様々な催しを行うようになり、イベント企画を得意とする学芸員の存在感が増してきました。また収益性、集客力が展覧会で重視されるようになったことも関係しているかもしれません。

この企画型は、柔軟な発想の持ち主で、収蔵庫にこもっているというより、外に出て作家とつながり、地域とつながり、その中で新しい企画を生み出すことを得意とします。
現代アート寄りの学芸員にこのタイプが多い傾向があります。

アーティスト・イン・レジデンス(作家がその土地に滞在し制作を行うこと)や美術館の一室を使った作家の公開制作、地元の商店街や学校などと連携したアートプロジェクト、自治体・行政・企業を巻き込んだ芸術祭など、積極的にイベントを企画します。

組織から離れて、フリーキュレーターとなって活躍する人はこのタイプでしょう。

[タイプ3]教育型(エデュケータータイプ)

最後の教育型はその名の通り、教育普及に力をいれるエデュケータータイプですね。

博物館法の第一条に「国民の教育、学術及び文化の発展に寄与することを目的とする」とあるように、もともと美術館・博物館には教育という役割が求められていました。
小中学校の「美術」の授業は、年間授業時間がどんどん削減される傾向にあります。そこを補う外部の存在として美術館・博物館が期待されています。というわけで、教育普及を専門とする学芸員を置く館も増えてきました。

学校へ赴き出張授業を行ったり、美術館で鑑賞教室を行ったり、子供向けのワークショップを行ったり、やることはたくさんあります。
このタイプは子供の目線に立つことが何より大事ですが、それだけではなく教育委員会や各校の美術教師と連携することが必須です。とくに現場の先生の理解と熱意がなければ、だいたい形だけこなして子供の心に何も残らない失敗パターンにおちいります。

実際はこれらのハイブリッド

乱暴に学芸員のタイプを3つに分けてみましたが、実際はそのどれかのタイプにばっちりはまるというよりは、研究型要素80%、企画型要素20%とかそんな感じで混ざり合ってる人がほとんどでしょう。

また、この3つからの派生形として、保存特化型とか評論家型とかオールマイティー型とか、もう少し細かく分けることもできそうです。
ごく稀にいるのが、研究型・企画型の両方で抜きん出た力をもつ、スター型学芸員です。研究者としてしっかり業績を上げながら、話題となる展覧会を連発する人ですね。

いろんなタイプが集まって何とかかんとかやっていく、というのは美術館・博物館に限らずどこの企業や組織も同じでしょう。適材適所となれば幸せなことですし、そうでない場合は自分のタイプを少しずつ変化させていく努力も必要かもしれません。または新天地を求めるか、ですね。

と、無理やり一般論ぽくまとめてみました。


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