展覧会ができるまで(美術館の舞台裏)vol.11【展示空間をデザインする】
美術館で展覧会が開催されるまでの工程を、学芸員の立場からひとつひとつ解説していくコーナーです。案外みんな読んでくれるのでうれしいです(前回の記事↓)。
全工程はこちら(↓)をご覧ください。
17. 展示空間をデザインする
さて、だいぶ具体的な話になりますが、おさらいをしつつ説明していきます。
展覧会のテーマに見合う作品たちが、よその美術館やコレクターさんとの出品交渉の結果、ほぼ確定しました。
そして、それらの作品を展示室にどのように配置するか、レイアウトを考えました。
でもこれだけだと、いざ実際に展示しても「単純に作品を並べただけ」の空間になります。
先に理想を言うならば、お客さんが展示室に一歩踏み込んだ時に、それまでの日常空間から非日常空間へと意識が切り変わり、作品世界へ没入してもらえる、そんな展示空間にしたいところです。
この展示内容にマッチした世界観を表現するのが、展示デザインという仕事です。
この展示デザインに特化した仕事をするプロの話は、だいぶ前に書いたことがあります。あわせて読んでもらえると分かりやすいかと。
プロフェッショナルの展示デザインの会社が本気を出すと、展示室をほぼゼロから作り上げてしまいます。壁から何から仮設で立てちゃうわけです。
こうなると、なかば建築に近いお仕事になります(学芸員の目から見ると)。
デザイナーさんが、CADだか何だかを使って(よく分かってない・笑)展示図面を作ったり、完成イメージ図(作品画像を合成したり、鑑賞している人間を配置したり)を作ったりしてくれるので、担当学芸員はそれを見て意見を伝えるのが仕事になります。
まぁそこまでやるのは、かなり大規模な特別展の時ぐらいですが。
でも展示室をゼロから作らなくても、工夫次第で色々できます。
たとえば、目玉となる作品だけ周囲の壁の色を変えるとかですね。
お手軽に別格感が演出できます。
ベニヤ板で簡易的な板壁(作品より一回り大きい程度の)を作り、色紙を糊で貼るだけです。専門用語でこれを「経師」と言います。
または、吊り下げバナーを使ったディスプレイも効果的です。
わざわざ壁を立てなくても、大型バナーを天井から吊り下げれば視界が遮られるので、ちょっとした間仕切りになります。
これを利用して、たとえば展示室を章ごとに区切るとしたら、その章の解説文自体をバナーに印刷して解説パネルの代わりにすることもできますね。
こんな感じで、大がかりな施工から部分的な造作まで、予算規模によってできることは変わりますが、担当学芸員は展示のイメージをなるべく明確にして、それを展示デザイン会社の力を借りながら具現化していかなくてはいけません。
ぶっちゃけここはかなりセンスの差が出ますね。悲しいかな、私は他の学芸員と比べてこの空間デザインのセンスがある方ではないので、場数を踏んでなるべく引き出しを多くすることでカバーしています。
展示デザインは、この他に照明の影響も大きいのですが、それはまたあらためて。
美術館の舞台裏のさらに裏の話は、ときおり限定記事で配信中。
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