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077.『伝わる図面の描きかた 住宅の実施設計25の心構え』関本竜太 著

“誠実に描かれた図面は、作り手の心を動かします。どんなに複雑で凝った作りであっても、それをどうやったら実現できるのか、一生懸命考えて図面を描いて持っていけば、職人さんは話を聞いてくれます。ノミやカナヅチの代わりに、我々は図面を描くことで、現場と対等にものづくりをしているのです。“

☞書籍詳細

設計意図が正しく伝わるよう綿密に気を配った図面は、施工のミスを防ぎ、工務店との関係性や施主の満足度を向上し、ひいては建築家自身の設計環境をも高める。本書は1軒の住宅を素材に、実施図面を描く際の心得や現場を見据えた工夫、設計にフィードバックするための勘所を、写真やありがちなエピソードも交えて解説する。

●はじめに

ドラマや映画に出てくる建築家たちといえば、格好良くスケッチを描き飛ばし、その造形や世界観を追求する姿が印象的です。ところが描かれるシーンはそこまで。次のシーンではもう建築ができあがっています。エッ、もうできちゃったの!? 建築に携わる実務者ならみんな、心の中でツッコんでいることでしょう。建物を建てるということは、そう簡単ではないはずなのに……。
もっとも、そこからはじまる地道な実施設計や現場監理の様子など描いたところで絵になりませんし、無駄に尺を喰うだけです。ある意味、我々建築家は世間から最も誤解されている職業の一つともいえるかもしれません。

建築を実現するためには、避けては通れないいくつものプロセスが存在します。その中でも最も地味で、かつ世間にほとんど理解されていない工程の1つが「実施設計」かもしれません。先のドラマや映画に例えれば、原作のストーリーに基づき、役者の台詞や仕草を細かく書き起こした脚本のようなものとでも言いましょうか。これがなくては、役者も演出家も仕事になりません。

私の主宰するリオタデザインでは、年間に竣工する住宅の数は多くても5~6軒といったところ。小住宅であっても1軒につきおよそ4ヶ月程度の実施設計期間を設けているため、2~3人のスタッフでこれらを回すことを考えると、これ以上の数はこなしきれないというのが実情です。

効率的により多くの住宅設計をこなそうとする設計者であれば、実施設計をいかに省力化するかを考えることでしょう。ですが、もしかしたらそんな方はこの本は閉じた方がよいかもしれません。残念ながら、ここにはその真逆のことしか書かれていないからです。

工務店は、設計者から受け取った図面がどんなに拙かったとしても、その通りに施工しなくてはならない義務が生じます。信じて乗っかった船が、願わくは泥船でないことを施工者たちは祈っているわけです。そのために、我々はどんな図面を描かなくてはいけないのでしょうか?

とある現場でのことです。大工の使っている製本図面をふと見ると、左上に「バイブル」と書かれていました。これには感激しました。その大工は、細部まで穴が開くほど、我々の図面を読み込んでくれていたのでしょう。描かれている通りに作ってゆけば、すべてが整合のとれた状態で美しく仕上がる、そう信じて疑わないというさまがそこから伝わってきました。そんな彼にとって、我々の図面は確かに、進むべき道を指し示す「バイブル」そのものだったに違いありません。

誠実に描かれた図面は、作り手の心を動かします。どんなに複雑で凝った作りであっても、それをどうやったら実現できるのか、一生懸命考えて図面を描いて持っていけば、職人さんは話を聞いてくれます。ノミやカナヅチの代わりに、我々は図面を描くことで、現場と対等にものづくりをしているのです。

実施設計の進め方は人それぞれですし、事務所の数だけ作図のルールがあることでしょう。しかし事務所が変わろうとも、また製図の手段が手描きからCADになろうとも、作図の基本は1つしかありません。それは「伝わる図面を描く」ということです。

本書には、我々がこれまでに経験してきた、建築実務における“あるある”が網羅されています。経験の浅い若い設計者や、私のように事務所を主宰されている方にとって、本書が座右の書となりましたら幸いです。

2021年1月
関本竜太

●書籍目次

KOTIについて

Ⅰ 伝わる図面を描くための心構え

1|線のメリハリは図面の生命線
2|仕様書は最小限に
3|図面情報はバイプレイヤーで決まる
4|読み手の読み方を想像する
5|ミスを前提にした描きかた
6|ダブルチェックでミスを見逃さない

Ⅱ 現場に正しく伝えるための工夫

7|把握情報は漏れなく盛り込む
8|意匠と設備の整合性を心がける
9|配置図は境界ポイントの設定から
10|配置図には周辺情報も忘れずに
11|立面図は描ききるが基本
12|特記仕様にノウハウを記載する
13|伝わる設備スペックを心がける
14|仕上げは決定を先送りしない
15|建具表は情報を集約する
16|矩計図はルールブック
17|現場との対話を織り込む

Ⅲ 設計にフィードバックするための勘所

18|快適な寸法は身体感覚から
19|設計に活かせる敷地写真の撮り方
20|正確な設計は敷地レベルの把握から
21|部屋は家具の配置で決まる
22|家電問題を設計で解決する
23|収納の決定に役立つ寸法単位
24|設計の伏線は床伏図で回収する
25|架構の整合性は軸組図で確認する

コラム

1|我々はどこを向いて仕事をするのか?
2|住宅はストーリーが大事
3|工務店とは対等に
4|リオタデザイン的設計とは
5|真にサステイナブルな住まいとは
6|さらなる仕事の高みを目指して

☟本書の詳細はこちら
『伝わる図面の描きかた 住宅の実施設計25の心構え』関本竜太 著

体 裁 B5・124頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2765-5
発行日 2021/03/10
装 丁 美馬智


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