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083.『エリアマネジメント・ケースメソッド 官民連携による地域経営の教科書』保井美樹・泉山塁威・日本都市計画学会・エリアマネジメント人材育成研究会 編著

“本書は、本格的な人口減少時代の都市・地域を官民連携で支える「エリアマネジメント」のユニークな事例を集め、それを推進する組織や仕組みとともに整理したケースブックである。近年、行政だけでなく民間企業や市民が一緒になり、いわゆる官民を超えた連携を通じて、公共的な施設や場の運営を行う取組みが本格化している。道路、公園、図書館など、公共的な都市施設で再整備に向けた取組みが複数セクターの連携のもとで進められ、社会実験として、公共空間を用いたカフェやマルシェなどの活用が進んだり、新たな空間管理の方法が実現したりしている。そこでは、これまでにないイノベーティブな発想が求められ、前例に囚われない取組みを推進する人材や組織が求められる。“

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全国に500を超えるエリマネ組織。その多くはマネジメントに課題を抱えている。本書はMBAの教育手法に倣って、全国の大都市中心部、地方都市市街地、郊外住宅地の15事例を厳選、事業プロセスを追体験する。ビジョンづくりから事業評価まで、「自分だったらどうする?」を考える。組織づくり、人材育成のノウハウを学ぶテキスト

●はじめに

本書は、本格的な人口減少時代の都市・地域を官民連携で支える「エリアマネジメント」のユニークな事例を集め、それを推進する組織や仕組みとともに整理したケースブックである。

近年、行政だけでなく民間企業や市民が一緒になり、いわゆる官民を超えた連携を通じて、公共的な施設や場の運営を行う取組みが本格化している。道路、公園、図書館など、公共的な都市施設で再整備に向けた取組みが複数セクターの連携のもとで進められ、社会実験として、公共空間を用いたカフェやマルシェなどの活用が進んだり、新たな空間管理の方法が実現したりしている。そこでは、これまでにないイノベーティブな発想が求められ、前例に囚われない取組みを推進する人材や組織が求められる。

こうした取組みのパートナーとして期待が高まるのが、エリアマネジメント団体だ。エリアマネジメントとは、「地域の価値を維持・向上させ、また新たな地域価値を創造するための、市民・事業者・地権者などによる絆をもとに行う主体的な取組みとその組織、官民連携の仕組みづくり」と定義され、全国各地で組成されている。

本書は、特に商店街、住宅地、地方都市といった最も暮らしに身近でありながらこれまで必ずしも書籍などで取り上げられなかった地域に焦点を当てる。
序章で本書全体の視点とエリアマネジメントの意義、地域特性や活動に応じたエリアマネジメントの分類を示す。前半に当たる第1 部では、15 の具体的ケースを取り上げ、その地域やエリアマネジメントの組織や事業の概要、エリアマネジメントのユニークネスが生まれたストーリーとその要因を述べる。第2 部では、エリアマネジメントのすすめかた、事業内容とその効果、そこで働く人材の実態と育成について総合的な論点整理を行う。

企業や非営利団体のマネジメントの分野では、このようなケースブックが普及しており、それぞれのケースにディスカッションの問いが用意され、それを題材に、授業や研修で議論を展開できるように工夫されている。しかし、エリアマネジメントが注目される都市計画の分野では、こうした学習方法はあまり普及していない。
そのため、関連する書籍においても、事例を通じた組織や役割分担の整理、制度分析、国際的な取組みの紹介が行われるとしても、それを通じて読者が考え、議論すべき論点の提示がなされることは少ない。そもそもエリアマネジメントは、建築・都市計画というよりは地域経済の再構築や循環の想像、社会関係の構築など、分野横断的な知識・経験が求められることが多く、何より自ら考えて動く力が求められる。

本書を執筆分担したエリアマネジメント人材育成研究会(通称)は、都市計画学会の研究交流分科会A の位置付けを得て、2017 年に活動を開始した。まず、エリアマネジメントに求められる人材像を明らかにするとともにその育成方法について検討するため、エリアマネジメント団体の全貌を把握することを目指しそれらの団体に向けた調査を行い、一体、どのような能力・経験を有する人がエリアマネジメント団体で働いているのか、どんな人材が求められているかを検討した。次に、その結果を踏まえた研修プログラムを実際に試行して、その有効性の検討を進めてきた。

この過程で見えてきたのは、エリアマネジメントに求められるのは都市計画にとどまらない知識や経験はもちろんのこと、何より、地域を愛し、他人とのコミュニケーションを図り、問題に対して自ら考え、動くことのできる人材像であった。

自ら考え、動くことのできる人材を育てるための研修はどのように行ったらいいか。そこで参考にしたのは、経営学大学院(MBA)の授業で行われるケースメソッドであった。経営学大学院では、しばしば、実際に起きたビジネス・ケースを題材にしながら、テキストや授業を通じてそれを追体験し、自分だったらどう考えるか、どう動くかを議論する。

本書は、こうしたスタイルこそエリアマネジメントに求められるのではないかという考えのもとで企画、編集された。それぞれのケースにおいて、どのような問題に直面し、どのように対応したかをまとめると共に、自分だったらどう対応するかを検討できるようにディスカッションの論点を提示している。読者はこの論点について、後半の総括議論を参照しながら、主体的に考え、仲間と議論できる。自学に使うだけでなく、研究会、授業や研修などで活用いただきたい。
この初のケースブックを通じて、これからのエリアマネジメントを牽引する人材が輩出されることを、研究会メンバー全員、願ってやまない。

2021年3 月
エリアマネジメント人材育成研究会(都市計画学会研究交流分科会A)を代表して
保井美樹

●書籍目次

序章 多様化するエリアマネジメントを踏まえたケースメソッド──本書の使いかた

1部 エリアマネジメント・ケース

[大都市中心部]
CASE1 錦二丁目エリアマネジメント株式会社──商業地における企業と地縁団体の連携
CASE2 天神明治通り街づくり協議会──エリア投資を呼び込み都心を再生する

[地方都市・郊外の市街地]
CASE3 松山アーバンデザインセンター(UDCM)──公民学連携による中心市街地再生
CASE4 多治見まちづくり株式会社──空き店舗活用によるにぎわい創出と広場の運営
CASE5 株式会社街づくりまんぼう──施設管理から震災復興を経てまちづくりの仕組みづくりへ
CASE6 若者クリエイティブコンテナ(YCCU)──大学生が引っ張る小さな活動拠点
CASE7 株式会社ジェイ・スピリット──自由が丘ブランドに込められた精神を受け継ぐ
CASE8 一般社団法人ひとネットワークひめじ──自立した黒字経営を可能にするしくみづくり
CASE9 長浜まちづくり株式会社──地域の調整役から地域ビジネスを実践する会社へ

[住宅地]
CASE10 一般社団法人まちのね浜甲子園──助け合えるつながりを育む仕組みづくり
CASE11 一般社団法人まちにわ ひばりが丘──民間デベロッパーの支援により住民主体のエリアマネジメントを計画的に育成
CASE12 一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツ──企業・住民・行政が助け合える、つながりを育む仕組みづくり
CASE13 一般社団法人草薙カルテッド──既存組織のリ・ビルドでまちを変える
CASE14 一般社団法人北長瀬エリアマネジメント──NPO のノウハウと民間・市民団体のネットワークを活かしたエリアの開発・運営
CASE15 一般社団法人城野ひとまちネット──大学との連携で「シェアタウン」を目指す地道な取組み

2部 エリアマネジメントのすすめかた

2-1 エリアマネジメントの始めかた──スタートアップから事業構築まで
2-2 エリアマネジメントの事業内容とその効果
2-3 エリアマネジメント団体で働く事務局人材
2-4 エリアマネジメントを担う人材の育成

終章 これからの都市に求められるエリマネ人材


☟本書の詳細はこちら
『エリアマネジメント・ケースメソッド 官民連携による地域経営の教科書』保井 美樹・泉山 塁威・日本都市計画学会・エリアマネジメント人材育成研究会 編著

体 裁 A5・224頁・定価 本体2600円+税
ISBN  978-4-7615-2773-0
発行日 2021-05-20
装 丁 ym design

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