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元広告マンが見るポストGPTのマーケティング風景(前編)

Chat GPTは安々と「不気味の谷*」を超え、人間にその存在意義を突きつけてきている。広告会社にて言葉を扱う仕事をして20年、デジタルで起業し言葉のシステムに関わり10年、GPTについて思うことを書いてみる。

学歴至上主義をひっくり返す?GPTの得意分野は「合格点のある問い」

東京大学の副学長をして「ChatGPTの利用前提に全てを見直す方向へかじを切る」とまで言わしめているChat GPT。とある私立大学の文芸学科でもChat GPTの実験は始まっており、同学科の現役学生(=息子)曰く「(GPTが作る)作品はクズだが、論評は完璧」。ということで、同学科の論評の試験は、会場での筆記型に戻されたそうである。

複数の関連情報を集め、要旨を編集・加工して、わかりやすく平板な文書にまとめる仕事。きれいで読みやすいパワポ制作や、過去文献を参照する論文の編集、サマリー。わかりやすく汎用性の高い商品説明文。合理的でバグのないソースコードの生成・修正。クリエイティビティは必要ないが、「合格点」が求められるような、官僚、コンサルタント、ホワイトカラーが独占してきた仕事の多くは、まさにChat GPTの大好物である。

そんなGPTのような生成系AIが、マーケティングオートメーションの世界に入ってくる。どんなことが起こるのか?一足飛びにその風景を考える前に、現在のマーケティング・オートメーションを咀嚼してみようと思う。

これまでのマーケティングAIは「フレーム(枠組み)」の最適化だった

デジタルマーケティングの命題は、SEOに代表されるような「最適化」だ。中でも、ユーザーの行動に動的に反応させながら、購買に導くあらゆる環境の枠組み(表示と導線)を最適化することを目指し、精度を向上させていくデジタルマーケティングが、現在のマーケティング・オートメーションの主流である。ユーザーがネット上でいつ・どのような行動をするかを誘導する枠組みを設計し、最適化するという意味で、ここでは現在のデジタル・マーケティングをフレーム・デザインと呼ぶことにする。

フレーム・デザインは、後攻型のマーケティングである。適・不適のユーザー行動データがあって、はじめてフレームをどう修正するかの基準がたつ。ユーザーの行動がまずありきだから、フレームの最適化には時間もコストもかかる。さらに、学習するに足る一定のデータボリュームも必要だ。そうした理由から、フレーム・デザインの自動化は、一定量のトラフィックと、運用を継続する体力を備えた、相当規模以上の企業にしか使えないものである。

しかし、自動化されたフレーム・デザインが一旦機能し始めると、持つものと持たざるものの間の格差をまたたく間に広げていく。現在、ECプラットフォームやデジタルメディアが大手に収斂されているのは、これまでのフレーム・デザインのみの時代においては当然のシナリオであったといえる。

ここへ、GPTのような生成系のLLMが登場する。フレーム・デザイン一色のデジタルマーケティングは、これまで人間が中心に司ってきたマーケティング領域へと拡張される。

マーケティング・オートメーションにGPT4.0がやってきたら

ポストGPTのマーケティング活動へのインパクト

GPT4.0はマルチモーダル、つまり画像と言葉の両方を得て、言葉を返すことができるようになっている。すると、画像と言葉の両方に係るマーケティング領域のデジタル化がすすむはずである。それはつまり、フレームの設計から、提案の設計へとAIの領域が拡張することを意味する。

プロポーザル・デザインのマーケティング

ユーザーの導線を最適化し購買に導く、フレーム・デザインは、いうなればショッピングモールの路地整備である。この世界は基本的にセルフサービスであり、販売員や営業マンのいない、無言の世界だ。
だから、ユーザーにニーズがすでにあり、ユーザーが行動を起こすことがなければマーケティングは成り立たない。よって、フレーム・デザインのマーケティングでは、客の行動の後をつけて、邪魔なものをどけ、目につく所に商品をすっと差し出していく、隠密的なマーケティング活動になる。ユーザーの行動を後追いする意味で、後攻型のマーケティングであると述べた。
これに対し、プロポーザル(提案)デザインは、先攻型のマーケティングである。手本とするユーザー行動データや前例がない段階=初手は、ゼロから「クリエイティビティ」により生み出さなければならない。それ故、プロポーザル・マーケティングはこれまで、対面接客のセールス担当者、商品やサービスを生み出すメーカーの担当者や広告会社のコンセプター、クリエイターなどの生身の人間に委ねられてきた。ゼロから「案」を生み出し、客に「提」する領域は、人間だけができる最後の砦であった。

GPTを始めとする生成系AIは、この長年機械化が難しかった、プロポーザル・デザイン領域で力を発揮し、マーケティング・オートメーションの可能性を拡張する。

これまで人(コピーライター、デザイナー、営業のセールストーク)が知恵と経験で試行錯誤してきた商品のアピール、説明、説得、クロージングの「提案」が、生成系AIの表現に置き換わる。その表現は、最もクリックされ、問い合わせされ、購入される表現にさらに「最適化」され、新たな提案が繰り出される。

すでに、広告素材のパーツテンプレートを"最適に"編集する自動ABテストは、大手の広告会社の(文字通り)絶え間ない機械学習で日々精度向上に磨きがかけられている。広告コピー、グラフィックやロゴデザインといった素材が瞬時に編集・生成され、閲覧とクリックで色・配置・サイズが自己修正され最適化されている。

この素材テンプレートにあたる部分が、GPTにより飛躍的に拡張すれば、そのイテレーション(試行錯誤の反復調整)の量とスピードを前に、人間のコピーライターやグラフィックデザイナーの手作業はお話にならなくなる。ディスプレイ広告やLPなど、数が物を言うクリエイティブ制作から順に、こうした生成AIの仕事に置き換わっていくのは時間の問題だろう。

しかし、プロポーザル・デザインへの移行にあたって、生成系AIには致命的な弱点がある。そしてこの弱点は、当面解決されないこともわかっている。後編では、GPTの生みの親であるOpen AIも認める「Halucination(幻覚)」を考える。

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