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届けるということ

先週、PS4ゲーム『デス・ストランディング』をクリアした。
長かったー!総プレイ時間は50時間程度。そろそろゴールかなと思っていたら、そこから二転三転どころか五転ほどあった。正直、新型コロナウイルスでの外出自粛期間が無ければ、お盆ぐらいまでかかっていたかもしれない。

このゲームは、プレイヤーが配達人となり、崩壊した未来のアメリカを再建させていくというSF作品となっている。

例えばRPGというジャンルは、王様や村人から依頼されてアイテムを集めたり、モンスターを倒すなどの行動を繰り返すことから「お使いゲーム」と呼ばれたりしていることをご存知だろうか。それと比べると、本作は依頼主から荷物を受け取り、目的地までいかに迅速かつ安全に配送するかの行動がメインとなっているため、正真正銘かつ「究極のお使いゲーム」と言っても過言では無い。

日本のコジマプロダクションにより制作されたこのゲーム。
主人公は『ウォーキング・デッド』などに出演しているノーマン・リーダスが起用され、ほかにもマッツ・ミケルセンやギレルモ・デル・トロ監督がメインキャストとして登場していたり、タイトルも『セブン』などを手がけたカイル・クーパーがデザインしているなど、ハリウッド映画に引けをとらない豪華さだ。

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しかし、何と言ってもこのゲームの興味深いところは、「もしかしたら起こるかもしれない未来」を描いていたはずが、発売された2019年11月からほんの数ヶ月後に、近いかたちで現実で起こってしまったことだと思う。

・屋外は時雨(ときう)という当たったものを劣化させる特殊な雨が降るため、人々は外出せず地下シェルターのような街に暮らしている
・主人公は接触恐怖症を患っており、人と握手やハグができない
遺体となってしまった場合は、即焼却場で処理しなければいけない
プライベートルームに流れる星野源の楽曲。
などなど

中でも、外出自粛で家で過ごす日常を支えるUber EatsやAmazonなどの配達員さんたち。彼らはこのゲームの主人公サムとも重なり、プレイする前よりも一層尊敬の念が増した。

荒廃した世界と、分断された街やシェルター。そこに物資を運ぶことで、通信を開通させて大陸を紡いでいく。その主人公のひとつひとつ行いにより、世界が少しずつ良い方向へ向かっていく。
ゲームといえば武器を使用して敵を倒す作品も多い中、タイトルにもなっている絆や繋がり(ストランド)をテーマにした、見た目のハードさに反してとても優しいゲームなのだ。

僕は中でも、コレクターという1人のキャラクターの言葉が印象に残った。
彼は、メインストーリーに直接絡まない、言わば脇役的存在。
情報がほぼデジタル化された未来という設定で、データがあれば大きな橋でもトラックのような乗り物でも、3Dプリンターで即時に出力できるという世界。その一方で、稀少になってしまった雑誌という紙媒体で作られたメディアや、ボードゲームを収集しているというアナログ大好き人間がこのコレクターというキャラクターだ。

ゲーム内では、荷物を運ぶと届けた相手からお礼のメールが送られてくるのだけど、彼からのメールには「手紙」というかつての通信手段を懐かしむ記述があった。
昔、手紙というのは、大体月1くらいのペースで送り合うくらい。それが、人間の生活にとってもちょうどいいリズムを保っていた。そして、返事を待っている間、お互いのことやその先の未来について想う時間があったといった内容だ。

僕の大好きなアニメに『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という作品がある。これも主人公ヴァイオレットが、手紙が書けない人たちに代わって代筆をお手伝いされる「自動手記人形」という仕事を通し、依頼人の想いを汲み取って形にしていくことで、「愛している」という言葉の意味を少しずつ知っていくという物語だ。

インターネットやSNSのお陰で相手とインスタントに情報がやり取りできる昨今。本当に人と人が繋がること、触れ合うことって何だったのかとこれらの作品は問いかけてくる。すぐに会えないこと、その物理的・時間的な距離が逆に心の距離を近づけることもあるのではと。

偶然にも、デス・ストランディングをクリアした翌日。身に覚えのない小包が1つ届いた。
送り主を見ると、千葉の館山に住んでいる母方のおばあちゃんから。開けてみると中には枇杷が30個ほど入っていた。

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おばあちゃんは、PCやケータイを持っておらず、連絡手段は電話か郵便になる。お礼と近況報告も兼ねて、僕はすぐに電話をかけた。

ケータイのスピーカー越しに聞こえるおばあちゃんの声は明るく、相変わらず元気そうで安心した。僕ら夫婦は、3月頃に遊びに行こうかと元々計画していたのだが、新型コロナウイルスの影響もあり、6月になった今でも伺えていない状況だ。もう少し落ち着いてきたらまた会いにいくこと伝える。
おばあちゃんは会話の終わりかけに「明日も荷物が届くと思うから楽しみにしてて」と話す。荷物?一体、何が届くのだろう。

翌日。予告通りにまた1つ小包が届く。
ダンボールを開けると、一通の手紙がまず目に飛び込んできた。

お元気ですか?
この前いただいた目玉があったので、今は家の中でこんないたずらをしています。あまり上手ではありませんが30体作り、半分は人に分けてあげました。
又、お会いする日を楽しみにしています。

そして緩衝材に包まれた中には、おばあちゃんが趣味で作った小さなフクロウのぬいぐるみと、折り紙で作った傘が対になって入っていた。
ちなみに、手紙の中に出てきた「目玉」というのは、人形用の目玉のこと。以前、タオル生地を使って犬のぬいぐるみを作っていると聞いた際に、コマ撮りアニメーション作家の妻が人形製作用に持っていた大量の目玉(字面にすると恐ろしいけど)を送った時のものを使ってくれていたのだ。

届いたぬいぐるみたちを早速キッチンカウンターの上に飾ってみる。見ているとなんともゆるくて可愛らしい佇まいだ。大小色分けもされていて、僕ら夫婦をイメージして作ってくれたのだと思う。

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枇杷や人形のお礼に、今度はお菓子と100均で新たに買った大量の目玉を加えて、今回は電話ではなく、あえて便箋に返事を書いて送ってみた。

妻が諸々手配し、郵送までしてくれたこともあり、翌日おばあちゃんから妻宛に電話があった。また、その夜には母からLINEで、「おばあちゃんと電話したけど、手紙などいろいろと送ってくれたことに感謝してたよ」との連絡もあった。電話を切る直前に「今日は幸せなので、もう寝ます」とも言っていたらしい。そう思ってくれたのなら、これ以上のことは無い。
僕もそれを聞いて嬉しい気持ちになった。

相手のことを想い、届くまでの時間を楽しむ。
こういう機会の中で、今一度考えさせられる良いきっかけになった。

デス・ストランディングでは、荷物を無事に目的地に届けたり、人の為になることをすると「いいね」がもらうことが出来る。
最後に、こうした想いを届けることを日々陰で支えてくれる、全ての配達人に感謝の気持ちを込めて、心から「いいね」を送りたいと思う。

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