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『本の幽霊』

※本ページは、作品の内容に触れています。ネタバレが嫌な方はお戻りください。


わずかに金色に輝いたタイトル、海外古書のような美しい装丁にしばらく目を奪われ、内容も見ずに手に取った一冊。
表紙は『シャーロック・ホームズ』シリーズの殺人事件の一幕を思わせるイラスト。(一緒に書かれていたのはフランス語だったので、どちらかというと『オーギュスト・デュパン』か??)このような挿絵が本編中にもいくつか描かれていますが、先に伝えてしまうと本編とはなんら関係がないのです。

場面も登場人物も全て異なる「本」にまつわる6つの短編集。

どれも少し不思議で、曖昧模糊とした内容のまま話が終わる。
だがそれが心地良い。

冒険小説のようなハラハラドキドキはない、ミステリー小説のように犯人探しに思考をフル回転させることも、種明かし後の爽快感もない。

でもこの作品のおかげで、「本の中の本好きたち」と友人になれたような気がするのです。

4作目「砂嘴の上の図書館」には、これまでの人生で一度も本を読んだことのないという人物が登場します。
彼はある日突然、自分が市長を務める町に見たこともない図書館を発見する。館内へ入ると「図書館員」を名乗る子供に、とある本を渡される。
その本を受け取った翌日、彼は何の変哲もない日常に「新しい気持ち」が芽生え、本を読んでみよう、という思考に至り物語は終わる。

「本の中に人生はない」と言い切った彼が本を手にした途端、これまでと目に映る世界が変わった、というのが大きなメッセージかなとも思います。
同作品内で「一冊の本のなかにはすでに無限があります」というセリフがありましたが、まさに同感で、本には人生を豊かにしてくれる無限のきらめきが詰まっていると思います。

冒頭でも述べたように、本作は作者曰く(全部ではないが)「本にかんする本」ということになり、物語一つ一つに関連性はない。
私個人としては、うまく言えないのですが、ジム・ジャームッシュ監督 『コーヒー&シガレッツ』 (2003)に近いものを感じました。

画像は2021年にジム・ジャームッシュ監督作品を一挙再上映した際のポスター
好きなエピソード。左のコーヒーがぶ飲みおじちゃんは本人役で登場したビル・マーレイ


コーヒーとタバコを片手に、小気味よいテンポで淡々と物語が進んでいく。その時間が愛おしくて、なんとも言えず脳内にじわじわと残ってまた観たくなる。

その「本」バージョンが私にとっては今回読了した『本の幽霊』になりそうです。


さて、最後になりましたが2022年も残りわずかです。
この「飽き性」、「めんどくさがり」、「放置癖」の私が
数本ですがnoteに投稿したという事実は、過去に比べて大いに進歩したといっても過言ではないでしょう。(黙れ)

2023年は、自分のペースもありますが、「読書感想文」や「エッセイ」、さらには「ショートショート」などにも挑戦してみようかな、なんて。

そのためにはさらに多くの本に触れていきたいですね。


では今年はこのへんで。
2023年、皆様どうか健康で、皆様にとって幸福な一年になりますようお祈り申し上げます。



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