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咳【小説】

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新潟のはなし
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咳 #2【小説】

咳 #2【小説】

新潟の夏は潔白であった。
一面緑の暴力。清らかな心と、健康な身体、爽やかな笑顔。程よく焼けた腕をかざして見上げれば、眩しいサンシャイン。きっと新潟の地下には沢山の死体どころではなく、憎悪や嫉妬、慾や俗、古本屋に入ったらまだ開店前だったときの恥ずかしさや、友人の友人と二人きりになったときの気まずさ、カラオケで周囲の世代に合わせてイエローモンキーを歌ったら無反応だったときの手汗とカブキロックスを歌った

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咳#1【小説】

咳#1【小説】

咳が出る。喉というより気管の方に何かチクチクと引っかかるようなものがある。大きく息を吸うと、胸の方でひゅーっと隙間風が鳴って、咳き込む。息を吸う毎にこれなので一度咳き込むとなかなか止まない。息苦しいのに加えて今度はえづくようになる、仕舞いには嘔吐してしまう。そんな風である。
夜になると更に酷い。咳き込んでなかなか寝付かれない。隣で眠る母親に煙たがられる。仕方なく寝室から蒲団を持ち出して茶の間の方

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