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北の旅人 2022春 DAY1-3 襟裳の春は世界一の春です

襟裳岬へ向かう

様似を出発し、海岸沿いに襟裳岬を目指します。
アポイ岳登山口のある冬島、トンネル脇に奇岩が続く日高耶馬渓を通過してえりも町入り。襟裳岬へ向かう道路は地元の方か観光客しか通らず、大抵十勝に抜ける人は浦河から野塚峠か、国道334号線で岬を迂回する場合がほとんどですが、せっかくの襟裳岬。道民でもめったに来ることはなく、僕自身は14年ぶり2度目。岬の突端まで行ってみることにしました。
国道を分岐すると、荒涼とした丘陵が続きます。車中のプレイリストはもちろん「♪襟裳岬」笑。いろんな人がカバーしている襟裳岬を交互に流しながら。
演歌のイメージが強い曲ですが、作曲は吉田拓郎。
フォーク調の弾き語りで聴くのが僕は一番好きです。

駐車場の裏から日高山脈側を眺める

岬にて

12時、襟裳岬到着。強風で知られる土地ですが、雲一つない晴天の上ほぼ無風…。最高のコンディションでした。
昼食は襟裳岬で取ろうと決めていたので、駐車場横の食堂で海鮮丼を注文。「春ウニってありますか…?」と一応伺ってみると「赤潮の影響でウニは全くないんですよね…」と食堂の方。
昨年記録的な赤潮に見舞われた日高~根室にかけての北海道太平洋側一帯。
その被害がいかに甚大であったかを改めて気づかされました。
結果的に牡丹海老やつぶ貝が乗った海鮮丼を頂いたのですが、普段食べているものとは新鮮さが段違い。大満足でした!

食後は遊歩道を進み岬の突端へ。

「風の館」より


突端は岩礁地帯になっており、日高山脈がそのまま海へと続いていることを物語ります。北海道の背骨は岬の先のはるか海底まで続いているのです。

日高山脈の突端、襟裳岬の延長上に延々と2キロメートルも続く岩礁地帯は、山脈がそのまま海に続いていることを物語っています。
また、襟裳岬の南東方向185キロメートルの海面下には、襟裳海山と呼ばれる海中の山が潜んでいます。
この襟裳海山は日本海溝の最北端の深い海底にあり、海山の高さは富士山よりも高い約4,200メートル。
その高さがあっても山頂は海面下3,735メートルの深海にあるといいます。

https://www.town.erimo.lg.jp/kankou/pages/k9mfea0000000bnv.html
風の街「えりも」観光ナビ


突端への道


「風の館」側を振り返る
襟裳岬突端
岩礁地帯には野生のゼニガタアザラシが生息している

植林の歴史


襟裳岬から十勝側に海沿いを少し進んだ百人浜エリアにはクロマツの人工林が広がっています。
かつて伐採や放牧により原生林が切り出され深刻な砂漠化が起こっていた襟裳岬一帯を、地元の漁師の方々が中心となり砂漠に木を植える緑化事業が戦後長らく行なわれてきました。その模様は「プロジェクトX」でも取り上げられ、番組内での漁師一家のストーリーは特に電報の下りなんかが倉本聰作品っぽさがあって(見たことある人しか分からない例えでごめんなさい…)大きな感動を覚えるものとなっています。

北海道えりも町| 百人浜緑化事業 (erimo.lg.jp)

クロマツ林
立派に育っているクロマツ
3頭のエゾシカが駆け抜けていった

クロマツ林の中には歩道が整備されているのですが、僕が森に入ったとき
ちょうど偶然に3頭のエゾシカが駆け抜けていきました。かつてはごく希に
ノギツネがとぼとぼ歩いている風景だったという百人浜は、今やエゾシカがつくまでに森が広がっていました。
森作りに終わりはなく、クロマツがもともと岬に生育していた植物ではないことから、もともと生えていた木々を植えてもとの状態に戻していく…という気の遠くなるような作業が今後も続いていくそうです。
緑化事業を知らない人からするとまさに「♪語~り継ぐ~人~もなく~」な風景かもしれませんが、かつてここが砂漠であったことを感じさせないほどの森になっていることが事業の成功を表しているのでしょう。

大きく育ったクロマツ林、その姿には数十年の歳月の重みを感じます。
同時に過酷な自然と愚直に向き合い続けた地元漁師の方々のまっすぐな生き方に圧倒される思いがしました。
人生に正解はないけれど、この植林に携わった襟裳の方々の生き方は人として美しく真っ当なものだったと確信せざるを得ません。
襟裳の事例とは比較にならないですが、ぼくも地元の山の登山道整備にボランティアとして関わっているのでどこか自分事で森を歩いていました。自然と素直に向き合い続けることの価値をこのクロマツ林は静かに語りかけてきます。

「♪襟裳岬」がヒットした頃は緑化事業の真っ最中。プロジェクトX情報では、「何もない春です」の歌詞に地元の方々は深く傷ついたといいます。
何もないところからやり直そう…という温かい応援歌の側面もある楽曲であり、曲自体に罪はないのですが…。
地域にいるとよく耳にする「何もない」というフレーズ。
使い勝手がいいからみんな使ってしまうのですが、同時に思考停止になってしまう言葉でもあります。苦しくても地域の解像度を上げていく努力が必要だよな~とここ最近考えています。

森が育ってからの記念式典では「何もない春」を「世界一の春」に替えて
みんなで大合唱したらしい。
赤潮での被害も長い道のりになるのでしょうが、ぜひ乗り越えていただきたい…と願っています。

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