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【朗読】水平線のダンス

文月悠光
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鳥は 降り立つ地点を
見定めてから、飛ぶのだろうか。

 *

こころに水を引いてみよう。
湧き出る水を引きよせて。
わたしが今夜眠るための
コップ一杯の水をください。

水底まで射し込む光。
魚たちは微かな光を聴きとって
生き生きと群れ、巡りはじめる。
魚たちの回転から、こぼれるように一匹
産み落とされたのは、新しいわたしだ。
踊れ 水平線を揺らそう、
永遠を描き切るまで。

鳥は 降り立つ地点を
見定めてから、飛ぶのだろうか。
この先、道はふさがれているとしても
わたしは構わず歩きつづける。
壁に耳を寄せ、その心音を確かめたい。
立ちふさがるものに身をあずけて
猫のように 手なずけてみせる。

水底から空を仰げば、悠々と渡る影。
新たな地へ 飛び立つ鳥たち、魚たち。
「ここが はじまりだね」
一杯の水は、まぶしく喉を伝う。
そのとき 世界は口を開く、
だれかの水平線を震わせるために。

詩「水平線のダンス」文月悠光

*「婦人之友」2021年1月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍
写真:岩倉しおりさん

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