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#現代詩

秋を迎えて

秋を迎えて

森は静かに
秋を迎えていた
枯葉の囁き
川のせせらぎが
聞こえて
そこら中で金木犀が
香っていた

北の地方では
冬を知らせる雪虫の大群が
あちこちで目撃された

木の実の不作
川の氾濫
季節外れの開花

気候は容赦なく変化していて
自然はそれを
繊細にキャッチしていた

変化は唐突に見えて
兆しがちゃんとある

別に気にも留めないような
小さな変化も

君との暮らしの中で
生まれる細やかな変化も

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存在

あなたがここにいる
ほかの誰かじゃない

あなたと手を繋いでいる
ほかの誰かじゃない

ただそれだけで
ぼくは全宇宙を肯定したい
今日がはじまる

長い長いトンネルを
まっしぐらに歩いた
いつの間にか
鎧が砕けて
着ていた衣はほどけ
裸で歩いていた

ふと我に返ると
ブラックホールのような空間にいた
そこでは無秩序の扉が大量に量産されていた
手元の方位磁石は
クルクル クルクル 泣きわめいていた

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春の風に誘われて

季節は刻一刻
色彩を豊かに
心はゆらり、ゆらりと
少し前を歩く
春の風を追った

眠りから覚めた森は
今か今かと
地上に飛び出そうとしている
小さな芽の声に耳を傾け
どっくん、どっくんと
大地を鳴らした

春を待ちわびて
カレンダーをめくると
昨日のキミとあたしが
記憶の箱に仕舞われ

ふたりは
大きくなったり
小さくなったり
ゆらりゆらり
どっくんどっくんと
愛を育んだ

愛する。という
温かく

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やわらかな風景

やわらかな風景

笑いの絶えない
ふたりの風景を
ただいつまでも
留めておきたい

君は幸せ運ぶ
コメディアン
小さなアクシデントも
笑いに変身

世界中がアイ・ラブ・ユー!
ウディ・アレンも顔負けの
ミュージカルだって
ふたりの呼吸が揃えば
上演開始!

溜息交じりの空の日だって
ただいま。の声は
やわらかい

きっと
君は思いやりの種を
いっぱい持っていて
そうして
周りや
ふたりの空間を
やわらかな風景に

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仮面

少年のような 少女のような 紳士のような 乙女のような

ならず者のような 淑女のような 娼婦のような

小悪魔のような 天使のような

人は 幾つもの仮面を身に着ける 

仮面は変幻自在で

その場を上手く切り抜けることもお手の物

でもきっと仮面は君自身と同化しないな

どんなに芝居が上手い演技派の仮面でも君に成りきれないさ

それだから僕は時々 仮面に映らない君らしさをみつけて 

君と手を

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孤独な空

孤独な空

海を想う青空は
様変わりした街の風景に
無頓着だった
そうして
海を見つめて胸を焦がし
小鳥のさえずりに
想いを重ねた

冬の訪れを知らせに来たムクドリ
いつもより活気のない街の様子に驚いて
羽をパタパタさせた

いったいどうなっているんだ?
ムクドリは
防波堤にひとり佇む老人に声をかけた

「長いこと人びとは、目に見えぬ敵と格闘しているのじゃ。」

古くからこの街に住む長老は
過ぎ去った時の残像

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